音楽ナタリー Power Push - KREVA

言葉を削って濾して尖らせて生まれた「嘘と煩悩」

何言ってるんだかわかんないけど、なんだかすげえ!

──「神の領域」ではアーティストKREVAの精神性とラッパーKREVAの真骨頂が表現されていて、「KREVAって、やっぱりヤバい奴だな」と知らしめる曲だなあと思いました。

俺、単純に好きなんでしょうね、こういう感じが(笑)。さっきも話した通り、最初は「FRESH MODE」みたいな曲をそろえたアルバムを作ろうとしていたのに、結局こういう曲ができるわけだから。避けて通れないというかね。

──もっと言うと、改めてKREVAさんのラップスキルを知らしめる曲だとも言えます。

自分のスキルをまだまだ見せていかなきゃという思いがあって。やっぱりフェスとか出たことないイベントにどんどん出て「すげえ!」と思わせないといけないなって思ってますからね。KREVAの存在は知ってる。でもライブには行ったことがない、1曲も知らないという人もたくさんいる。そこに攻め込んでいかなきゃというときには、こういう「何言ってるんだかわかんないけど、なんだかすげえ!」と思わせる曲は大事なんですよ。

──とにかく圧倒する曲ということですね。

KREVA

うん。必要だし、持っていると武器として強い。

──このぐらいの速度で刻むと血がたぎりますか?

たぎるように自分を持っていってる、というのが正しいかな。自分でも「無理だろ、これ?」というぐらいうわーっと言葉を書き連ねて、そのままブースに入って無理やり歌ってメロディにねじ込む。足りなかったらさらに言葉を書き足すし、歌いやすいかどうかなんて関係なくて、すごいかすごくないかというジャッジだけが働く歌ですね。

──ちなみにKREVAさんにとって“神”とは?

俺以外で、ですか?(笑)

──おおっ!?(笑)

聞かれたら一応こう答えると決めているんで(笑)。俺は特定の宗教も信仰していないし、日本では極めて一般的な神という考え方かな。何にでも神は宿ると思ってるから、“俺も神”というのも、ある意味間違いじゃないというか。サッカー選手がグラウンドに挨拶してから入る考え方とか好きですからね。そもそも“神ってる”なんて言葉が流行語になるなんて、たぶん海外じゃありえないでしょ?

──確かにローマとかじゃありえないかも。

大問題になりますよね。「はあ? 何言ってんの? 戦争だこの野郎!」みたいな(笑)。もっと神の領域に足を踏み入れられるような存在になりたいとは思いますね。向こう側をちょんって突いてダッシュで戻ってくる感じでもいいから。

──「居場所」のメロディとリリックもいいですね。「その手動かせ 黙ることはできないんだろう 壁を動かせ 守るだけじゃ増えない居場所」というくだりには多くのリスナーの背中を押す力があると思うのですが、KREVAさんは2015年のシングル「Under The Moon」からリスナーの背中の押し方が変わった気がします。

あのあたりでようやく自分のファンがどういう人たちかわかって、背中を押すべき人たちの顔が見えてきたのかもしれない。ポップな押し方というか、大勢に届くような押し方よりも、顔の見える1人ひとりに合った押し方をしたいと思うようになった。みんないい人だったこともあって(笑)。

──それは例えばざっくり大まかに「がんばれ」と励ますのではなく、KREVAさんのリリックにピンポイントで背中を押されるお客さんに向けてメッセージを送るということでしょうか?

そうそう。「みんながんばれ!」みたいな網を投げるのって、捕まる数も多いけど、一方で目が粗いから逃げていっちゃう人もたくさんいるから。本当は、顔が見えるのならその全員個々にカスタムメイドした言葉で背中を押せれば理想的なんだけど、まあ現実には無理じゃないですか。だとすると、あとはできる限り言葉を研ぎ澄ますほかに手がない。自分自身を削ることによって見つけた言葉を、濾して濾して濾しまくって、残った本質の1滴をさらに尖らせる。今回は4年振りということで濾す時間も尖らせる時間もだいぶあったので、よりシャープで深く刺さる言葉をそろえることができたと思っています。

やりたかったら飽きるまでやればいいんだよ

──自分を削るという意味では、若さに任せて向こう見ずに削っていた時期もあったと思いますか?

そりゃありますよ。バカだったなあって(笑)。「新人クレバ」の音源なんて声の出し方1つ取ってもそうですもん。

──でも1曲目の「嘘と煩悩」で歌っている通り、KREVAさんは決して削れてなくならずにサバイブしてきたわけですよね。そこで削り切らないだけの“幹”を維持してこられた理由を問われたらどう答えますか?

質問に対する正しい答えじゃないかもしれないけれど、例えば俺が彫刻家で、目の前に丸太があって、熊を彫るぞとなったとする。で、どこから掘り始めるかが切り口だとしたら、一時は「熊を掘った、じゃあ次は魚でも彫ってみる?」みたいに、常に新しいことをやっていたんだけど、最近は「また熊でもいいじゃん?」という気分なんですね。これは発見でしたね。前に熊の顔を彫ったことがあったとしても、熊をもう1つ彫りたいんだったら彫ればいいじゃんっていう。だから「居場所」でも歌っているけど、もう「気に入ったらステイ」ですよ。やりたかったら飽きるまでやればいいんだよっていうところまで今回は開き直ることができました。

──例えるなら、今とそれ以前に掘った熊は、間違いなく同じものではないわけだし、今のほうがその時点での自己ベストであればなおいいわけですからね。

2016年12月31日に大阪・インテックス大阪5号館で行なわれた「908 FESTIVAL SPECIAL!!『カウントダウン大阪 2016/2017』」の様子。(Photo by curly_mads)

そうそう。なぜなら今の俺はかつての俺よりも熊についてよく知っているから。そしてそれは無理して削り続けてしまうような行為をストップする術としても作用していると思うんですよ。でもよく知り過ぎないよさもそれはそれでチャーミングなんですよね。例えば、アメリカ人から見た日本とか、たまにちょっと中国テイストが混ざってたりするじゃないですか。ああいうの大好き。「かわいい!」ってなっちゃう(笑)。あと、間違った日本語の入れ墨を彫っちゃっている外国人とかも。

──ああ、「Soul Kitchen」のつもりで「魂 台所」って入れちゃった、みたいな?(笑)。

そうそう。もう抱きしめたいっすね(笑)。そういう知らないが故のポップさが昔の俺にもあったんだと思う。そういう意味では最近の熊はちょっとリアルに熊すぎるのかもしれないな。

──でもかつての自分をチャーミングに思えるのは、当時よりも確実に成長していて、今の状況がいいという証でもあるわけですよね。さもなくば今頃ルサンチマンばかりを抱いているだろうし。

ざっくり言うと、昔は女性にウケたい感じがすごく強かった(笑)。今も満遍なくモテたい気持ちはあるけれど、ちょっとアピールの度が過ぎていたというか(笑)。振り向いてほしかったんでしょうね。

ニューアルバム「嘘と煩悩」 / 2017年2月1日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
煩悩盤(完全生産限定盤)[2CD+DVD] / 8541円 / VIZL-1908
嘘盤(初回限定盤)[CD+DVD] / 4221円 / VIZL-1909
通常盤 [CD] / 3141円 / VICL-64908
CD収録曲
  1. 嘘と煩悩
  2. 神の領域
  3. 居場所
  4. 想い出の向こう側 feat. AKLO
  5. FRESH MODE
  6. Sanzan feat. 増田有華
  1. ってかもう
  2. あえてそこ(攻め込む)
  3. タビカサナル
  4. もう逢いたくて
  5. 君に夢中(※ボーナストラック)
煩悩盤(完全生産限定盤)DVD収録内容
KREVA in Billboard Live

<Live at Billboard Live TOKYO 2016.9.08 2nd stage>

  1. 瞬間speechless
  2. 王者の休日
  3. 成功
  4. I Wanna Know You
  5. It's for you
  6. ビコーズ
  1. EGAO
  2. スタート
  3. 居場所
  4. アグレッシ部
  5. 音色

<Live at Billboard Live TOKYO 2016.9.09 2nd stage>

  • Ma Cherie
  • 居場所(Music Video)
  • 嘘と煩悩(Music Video)
  • 居場所(Making)
  • 嘘と煩悩(Making)
嘘盤(初回限定盤)DVD収録内容
  • 居場所(Music Video)
  • 嘘と煩悩(Music Video)
  • 居場所(Making)
  • 嘘と煩悩(Making)
  • 908 FESTIVAL 2016 Opening Movie (TOKYO)
  • 908 FESTIVAL 2016 Opening Movie (OSAKA)
KREVA CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」
  • 2017年2月3日(金)埼玉県 戸田市文化会館
  • 2017年2月11日(土・祝)大阪府 オリックス劇場
  • 2017年2月12日(日)大阪府 オリックス劇場
  • 2017年2月23日(木)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2017年2月24日(金)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
  • 2017年3月3日(金)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
  • 2017年3月4日(土)宮城県 電力ホール
  • 2017年3月10日(金)茨城県 ひたちなか市文化会館 大ホール
  • 2017年3月20日(月・祝)福岡県 福岡市民会館 大ホール
  • 2017年3月31日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
  • 2017年4月2日(日)青森県 青森Quarter
  • 2017年4月9日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 2017年4月16日(日)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2017年4月22日(土)静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
  • 2017年5月11日(木)群馬県 高崎club FLEEZ
  • 2017年5月12日(金)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
  • 2017年5月20日(土)広島県 JMSアステールプラザ 中ホール
  • 2017年5月21日(日)香川県 高松festhalle
  • 2017年6月10日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2017年6月18日(日)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
KREVA(クレバ)

1976年、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録する。同アルバムのリリースツアー最終日では初の東京・日本武道館公演も開催した。2016年にビクターエンタテインメント内のレーベルSPEEDSTAR RECORDSに移籍。2017年2月に4年ぶりとなるオリジナルアルバム「嘘と煩悩」をリリースした。確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子、三浦大知、MIYAVI、鈴木雅之らメジャーアーティストとのコラボも多数。2011年より音楽劇「最高はひとつじゃない」の音楽監督も担当。ラッパーとしてのみならずビートメーカー、リミキサー、プロデューサーとしても高い評価を受けている。