音楽ナタリー Power Push - 小南泰葉
まっさらな自分を伝えたい リスタートの2ndアルバム
“特等席”に置いた「プレゼント」
──1曲目の「プレゼント」も、シンプルなタイトルからして今までの小南さんの楽曲とは一線を画すナンバーですよね。
そうですね。「プレゼント」は初めて打ち込みを採り入れた曲なんです。この曲は&mkzさんがオケを付けてくれたんですけど、初めて聴いたときは自分の曲のように思えなくて。自分の曲が生まれ変わったようなオケの斬新さがすごくうれしくて、私、号泣してしまったんですけど……&mkzさんには「曲を汚された」と悲しんで私が泣いているんだと勘違いされてしまいました(笑)。この曲は母から子へ贈るプレゼントの曲なんです。最近妹が妊娠して、来年甥が産まれるんですよ。
──そうなんですね。
自分が曲を作るとき、「命のリレー」というテーマはそれこそデビューの頃からずっと持っているんですけど、現実に妹が次の世代へ命のバトンをつなげてくれたという事実に感動して。彼女にこの曲をプレゼントしたくて、曲順もアルバムの“特等席”である1曲目に置きました。
──小南さんは子供好きなんですか?
いや、子供はすごく苦手で(笑)。赤ちゃんをどう抱いていいかすらわからないんです。でも、最近ライブに小学生くらいの子が来てくれるんですよ。その子がとにかくかわいくて! すごく小さくて、ライブハウスの柵にしがみついて私の歌を聴いてくれるんです。そういう姿を見ていると、以前と比べて子供に対しての苦手意識が薄れてきた気はしています。人間、こうやって丸くなっていくんですね(笑)。年齢的に周りの友達が赤ちゃんを産み始めたりしているので、「自分も……」と思うこともありますが、今はやっぱり、私にとっての子供は自分の曲だから。それをちゃんと育てていかなくちゃいけないなって思います。
ギターにしがみつきながらメロディに気持ちを乗せた
──今作のリード曲は「傷」という楽曲です。この曲についてもお話を伺えますか?
はい。実は私、去年の夏に大切な人とお別れしたんです。そのときに、心がボロボロになってしまって……。お別れする前に作った「白闇」という歌では恋愛依存について歌っているんですが、「白闇」を作っている最中は「私はこんなふうにはならないし、自由奔放に生きていたい。誰かに縛られるなんて絶対に嫌だ」とまで思っていたんですよ。なのにいざ自分のパートナーがいなくなると、その相手の存在の大きさを痛感して何もできなくなってしまったんです。身体が芯から冷えていって、まるで氷を抱いているような感覚になって……。そうしたら、しまいには感情がどんどん研ぎ澄まされて、すべてのことに対してすごく敏感になっていきました。自分がヒットマンに狙われているかのように、周りのすべてを疑うようになってしまったんです。
──というと?
例えば、帰宅後最初にすることが家に泥棒が入ってないかの確認なんですよ。紙袋を見ると「この中には爆弾が入っているんじゃないか」って疑ったり(笑)。そんな感じだから何も手に付かなくなっちゃって、さすがに「これはダメだ」と思い直して。ギターにしがみつきながら、何も考えずにメロディにそのときの気持ちを乗せたのが、この「傷」っていう曲なんです。自分の中ではすごくつらい心境の中で生み出した曲なんだけど……ライブで歌うと、みんな「あの曲はいい曲ですね」って言ってくれるんですよ。
──すごくつらい渦中にいるからこそ生まれる曲があって、皮肉にもそういった曲がリスナーに響く、っていうことは往々にしてありますよね。
そうかもしれないです。そういう曲って、歌詞を書くときに言葉選びをしている感覚がなくて。私の場合、「どんな言葉を使えばいいだろう」とか、ものすごく考えて書くパターンと何も考えずに書くパターンがあるんですけど、後者のほうが言葉をこねくり回していないぶん、伝わる力が強いのかもしれないですね。今回のアルバムに入っている楽曲の歌詞は、どれも自分の赤裸々な気持ちを伝えるような思いで書いたんですけど、嘘のない言葉ってそのときの自分の心情を思い出すし、ライブで歌っていても感情移入しちゃう。それはすごく恥ずかしいことでもあるんですけど、恥ずかしいと思うことも今後はどんどんやっていきたい、って思えています。
お客さんと育てた「蜘蛛の糸」
──収録曲には今年の始めの「らせんの糸ツアー2015」から歌い続けてきた「蜘蛛の糸」もラインナップされていますね。
はい。この曲は1年間かけてお客さんと育ててきたようなナンバーだから、歌うといろんな景色が見えますね。ライブでお客さんとコール&レスポンスをしたりできる曲だし、今後大切な曲になっていくと思います。
──これまでの小南さんのライブはじっくり歌を聴かせるものだったけど、この曲があることでお客さんと一緒に楽しむパートができますよね。
そうですね。みんなで盛り上がりたいです。
──では最後に、リリースに向けての思いを聞かせてください。
今回、この作品を誰に聴いてほしいかな?って思ったとき、何かにすがりたい人や救われたい人、今何かと闘っている人に聴いてほしいって思いました。このアルバムが、みんなの傷を癒せるようなものになればいいなって。今は、早くみんなに聴いてほしいなという思いと、どんな反応が返ってくるんだろうっていう思いが自分の中で行ったり来たりして、ドキドキしています。
- ニューアルバム「僕を救ってくれなかった君へ」 / 2015年12月2日発売 / EMI RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3996円 / UPCH-29209
- 通常盤 [CD] / 3240円 / UPCH-20410
CD収録曲
- プレゼント
- ぼくを救済するうた
- 蜘蛛の糸
- NO-MAN
- 死ぬまで騙して欲しかった
- 傷
- 次の日のうた
- 白闇
- 3355411
- POP LIFE
- ホームタウンシック
- ブリリアントブルー
ボーナストラック
- ニャンだ!あいつ
- LET IT DIE
初回限定盤付属DVD
- 3355411 Music Video
- NO-MAN Music Video
- オープンセサムービー ディレクターズカット
- “らせんの糸ツアー2015” ドキュメンタリー
小南泰葉(コミナミヤスハ)
関西出身の女性シンガーソングライター。10代から音楽活動を始めるも、20歳になったときに活動を中断。その後、約5年にわたり音楽から離れていたが、2008年より活動を再開する。2010年6月に1stミニアルバム「UNHAPPY BIRTHDAY」をリリースし、毒のある歌詞とポップなサウンドで注目を集める。2011年には「FUJI ROCK FESTIVAL'11」に初出演。2012年5月にミニアルバム「嘘憑キズム」でメジャーデビューする。同年9月に映画「アシュラ」の主題歌「Trash」をメジャー1stシングルとしてリリースし、12月にはミニアルバム「121212」を発表した。2013年5月にはメジャー1stアルバム「キメラ」を発表。以降はライブ活動を精力的に行い、2015年12月に2ndアルバム「僕を救ってくれなかった君へ」をリリースした。