音楽ナタリー Power Push - 小南泰葉
まっさらな自分を伝えたい リスタートの2ndアルバム
小南泰葉が12月2日に2ndアルバム「僕を救ってくれなかった君へ」をリリースした。
2013年5月に1stアルバム「キメラ」を発表した小南。彼女は約2年半ぶりのフルアルバムである今作「僕を救ってくれなかった君へ」にリスタートの思いを込めた。「『小南泰葉はこうあるべき』という自分の中の固定概念を取り払った」という本作には、小南の赤裸々な姿が浮かび上がるような15曲が並んでいる。
この作品のリリースを記念して音楽ナタリーでは本人にインタビューを行い、この作品が完成するまでの彼女の心の動きを探った。
取材・文 / 吉田可奈 撮影 / 小坂茂雄
固定概念を取り払いたかった
──1stアルバムの「キメラ」から約2年半ぶりにリリースされるニューアルバム「僕を救ってくれなかった君へ」が完成しました。前作を発表してから今までの期間を振り返ってみていかがですか?
「キメラ」をリリースしてからは、「いったいどれだけの人に小南泰葉らしい音楽を届けられたのかな?」ということばかりを考えていました。だけど、この新しいアルバムを出すと決まったとき「今回は、まっさらな自分を伝えたい」と思ったんです。「小南泰葉はこうあるべき」という自分の中の固定概念を取り払いたかった。
──「小南泰葉はこうあるべき」というのは?
私、これまでの作品やライブでは、自分が好きなものを自分の表現の全面に押し出していたんです。例えばステージに出る前に悪魔の呪文を手に書いたり、アルバムの名前に「キメラ」という大好きなモンスターの名前を付けたり。そういった“好き”の根本は変わっていないけど、それをどの程度“自分らしさ”として音楽に関連付けていくべきなのかを改めて考え直したというか。
──なるほど。
「小南泰葉って、いったいどんなイメージを持たれているんだろう?」って考えたときに、自分自身のことなのにわからないことがすごくあったんです。今まで私はライブに来てくれる人たちの声だけを信じてきたんですけど、お客さんからもらうファンレターにも基本的にはいいことばかりが書いてあって、そこに批判や指摘があったとしても1割くらいだし。そうしたときに、インディーズの頃から私のことを見てくれているスタッフやお世話になっているレーベルの方々が言ってくれる客観的な意見がすごく重要なんだなって気付いたんです。なので今回、Silky Voiceさんという信頼の置けるプロデューサーを立てて、作品全体を見てもらえるようにお願いしました。作品に「救済」というテーマを設定して、「もう一度真っ白なところからリスタートしたい」という思いから、MVや衣装のテーマカラーは白でいこうって決めました。
今までの自分の曲になかった新しい試み
──今作にはそういった背景があったんですね。では音作りに関して、変化したところはあったのでしょうか。
これまでは、例えば「嘘憑きとサルヴァドール」のようなロック色の強い曲が“小南泰葉らしい曲”だと思っていたから、そのイメージを崩してはいけないという気持ちがあったんです。だけど、最近ギター1本でのアコースティックライブを続ける中で、楽曲の原点である声とメロディと言葉の重要性に改めて気付くことができて。「こうじゃなきゃいけない、これが正解だ」っていう思いにとらわれず、すごくフリーな感覚でライブができるようになったんです。だから、今作では打ち込みに挑戦してみたりと、今までの自分の曲にはなかった新しい試みを採り入れています。デビューした当時とは違った可能性をすごく感じているんです。
──デビュー当時の小南さんの作品は、自身が抱いている苦しさやつらさを表現したようなものが多かったと思うんです。でも、いざ小南さんと話してみると、その作品の世界観とは裏腹にすごく元気で明るい。そのギャップがすごく印象的だったんですが、今作の楽曲は実際に会ったときの小南さんのイメージに近い印象を受けました。
そうかもしれません。今作では、今までだったら恥ずかしくて楽曲では表現してこなかった飾らない自分の姿を出している感覚です。「今なら出せるな」って思えたんですよ。中でも「ホームタウンシック」は、私は絶対こういうことは歌わないって決めてたような“素っ裸”な曲になっていて(笑)。この曲では、上京して数年経った今、故郷の家族を懐かしく思って「帰りたいな」と感じる気持ちを歌っているんです。以前の私だったら 「ここまで正直になってもいいのかな」ってすごく不安になっていたと思う。
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- ニューアルバム「僕を救ってくれなかった君へ」 / 2015年12月2日発売 / EMI RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3996円 / UPCH-29209
- 通常盤 [CD] / 3240円 / UPCH-20410
CD収録曲
- プレゼント
- ぼくを救済するうた
- 蜘蛛の糸
- NO-MAN
- 死ぬまで騙して欲しかった
- 傷
- 次の日のうた
- 白闇
- 3355411
- POP LIFE
- ホームタウンシック
- ブリリアントブルー
ボーナストラック
- ニャンだ!あいつ
- LET IT DIE
初回限定盤付属DVD
- 3355411 Music Video
- NO-MAN Music Video
- オープンセサムービー ディレクターズカット
- “らせんの糸ツアー2015” ドキュメンタリー
小南泰葉(コミナミヤスハ)
関西出身の女性シンガーソングライター。10代から音楽活動を始めるも、20歳になったときに活動を中断。その後、約5年にわたり音楽から離れていたが、2008年より活動を再開する。2010年6月に1stミニアルバム「UNHAPPY BIRTHDAY」をリリースし、毒のある歌詞とポップなサウンドで注目を集める。2011年には「FUJI ROCK FESTIVAL'11」に初出演。2012年5月にミニアルバム「嘘憑キズム」でメジャーデビューする。同年9月に映画「アシュラ」の主題歌「Trash」をメジャー1stシングルとしてリリースし、12月にはミニアルバム「121212」を発表した。2013年5月にはメジャー1stアルバム「キメラ」を発表。以降はライブ活動を精力的に行い、2015年12月に2ndアルバム「僕を救ってくれなかった君へ」をリリースした。