小松未可子|ポジティブな花咲く新しい地図

置き方次第で意味や受け取り方が変化する曲

──7曲目の「My sky Red sky」は編曲にfhánaがQ-MHzとの共作でクレジットされていて、さらにfhánaのメンバー全員が演奏とコーラスで参加しています。

fhánaさんの音楽性とQ-MHzさんの音楽性があり、そこに自分が重なって。田淵さん曰く“fhána方式”の展開も織り交ぜられています。towanaさんの声は1本芯のある、マイクの乗りもいい音で、私はその真逆と言える声なので、どう混ざり合うのか予想もできなかったんですけど、ミックスされた音を聴いてみたら、まるでここで対バンが行われているような。

──その場でセッションしているような感じですよね。towanaさんはクレジット上はコーラスですけど、あたかも小松さんと2人で掛け合いをしているみたいな雰囲気で。

はい。fhánaのみんなとステージに立ってる絵が浮かびますよね(取材後の4月16日に行われた小松の自主企画ライブ「Humming Maps vol.2」で2組による対バンが繰り広げられ、実際に「My sky Red sky」でのコラボレーションが実現した)。

──8曲目の「だから返事はいらない」は「Imagine~」のカップリングで、やしきんさんがアレンジとギターで参加しています。1曲目の「また」に続いて、今度は「だから」。

あははは(笑)。この曲もマイナー調に行くようで、サビで一気にハネるような。

──この曲も「新しい街 新しい自分 動きはじめた物語」と新生活のドキドキがある内容で、アルバム全体に通底するテーマ性が感じられます。

小松未可子

この曲や「Imagine~」は、ライブなどで歌うシチュエーションによって、ガラッとイメージが変わる曲だなと思います。テーマがはっきりしていて、どこに置いても1曲として成立するものもあると思うんですけど、この曲は曲順次第で意味や受け取り方が変化して、次の曲に自然とつながっていくんです。「すごく多面性のある曲なんだな」とライブで歌っていくうちに発見しましたね。

──アルバムの中では、唯一のバラード「流れ星じゃないから」へとつながる流れに置かれています。

ここにきて初めて、最後まで切なく終わります。最後の「叶わない」に全力を注ぎました(笑)。

──言葉も含めて非常に美しく、演奏でも室屋“大先生”光一郎さんのバイオリンがさらにドラマチックに盛り上げています。

アルバムとしてここでひと区切りという流れがあって、歌詞を通して見ても、ここで一旦終わってるんですよ。最初はもっと前のほうに置く案もあったんですが、私には「バラードは最後に、いろいろあったからこその気持ちを吐き出す受け皿」という考えがあって。曲順によってアルバムの雰囲気って全然変わってくると思うんですが、そこの感覚は畑さんとすごく一致してました。畑さんとは「乙女の歌は非常に共感できますね」「それわかります!」というディスカッションがたくさんありました(笑)。

「表面上は見えないけど、ずっと殴り合ってるよね私たち」

──確かに流れとしては「流れ星じゃないから」でアルバムが終わっても違和感ない統一感がありますけど、このアルバムはさらに3曲あるんですよね。しかも次の10曲目は本作の中でも一番にぎやかな「Lonely Battle Mode」という。

この切り替えがまさに女子ですよ(笑)。「叶わない……」ってシュンとした直後にデデデデン!みたいな(笑)。次に進んだら後ろを振り返らない感がすごい。この流れはすごく好きですね。

──ライブでは間違いなく盛り上がるタイプの曲ですし、終盤はシンガロングしている様子がありありと浮かびます。つんのめりそうな勢いで「会いたい論」を歌った内容で、作詞はQ-MHzですが、ここで歌われていることは小松さんの持論でもあるんでしょうか。

これはまさに!ですね。男子はこれを聴きなさい!と(笑)。平行線をたどる男の子と女の子の相容れないバトル……「表面上は見えないけど、ずっと殴り合ってるよね私たち」って(笑)。

──それで最後は会場内の男女でシンガロングするわけですね(笑)。その勢いのまま、次の「HEARTRAIL」も疾走感のある楽曲で。アルバム全体にあるポジティブな疾走感は、小松さん自身が今そういうモードなのかなと予測していたのですが、今日の話を聞くに、小松さんの隠れたポテンシャルをQ-MHzが見出した結果だと。

これまで踏み込んでこなかった領域なので、自分としては本当に挑戦の多いアルバムでした。でも「HEARTRAIL」は自然に気持ちよく入り込めましたね。「Imagine~」よりテンポも速めで、明るめな部分もあって、でも無理した明るさじゃなくて。Q-MHzさんと組むことになって、まず自分から「こういう曲が歌いたい」というイメージをお伝えしていたんですけど、「HEARTRAIL」はそれが反映された曲でもあるんです。

──そしてこの曲が、アルバムのリード曲という扱いになるんですよね。

最後から2番目でようやくリード曲というのも、ある意味挑戦的な流れですけど。田代さんからは「イントロを作るだけで8時間ほど悩んだ」というお話を聞きました。コード進行も、明るすぎない、かといって暗くなりすぎない、不安定にコードが展開していくような流れを作るのに悩まれたそうで。

──確かに基本はメジャーコード進行なんだけど、決して明るいだけじゃない響きですね。

どっちに行くんだろうみたいな不安定感がありますよね。あと、田淵さんは「この曲はまずテンポを先に決めた」とおっしゃってました。「Imagine~」を基準に、テンポが速くてただ底抜けに明るいと私のキャラには合わないし、サビを明るくするならAメロBメロは少し翳りがあって……と細かいところまで考え抜いて作ってくださいました。

──そしてラストの「my dress code」では、小松さんがマリンバで演奏にも参加しています。マリンバの演奏歴については1回目のインタビュー(参照:小松未可子「冷たい部屋、一人 / 夏至の果実」インタビュー)のときにお聞きしましたけど。

小松未可子

私がマリンバを弾けるということで、田代さんからいろいろとマリンバに関する調査をされました(笑)。これは「マリンバを使った曲を作ろう」と始まった1曲で、以前にもマリンバを使った曲がありましたし、マリンバ奏者として参加した作品もありますが(参照:Sotte Bosse、みかこしがマリンバ弾く秦基博カバー音源)、マリンバありきで1曲作るとなると想像が付かなくて。私はクラシックを演奏する目的でマリンバを習っていたので、自分が歌うポップスとしてどういう曲になるのかなと思っていたら、こうきたかと。

──やはり前向きでさわかやさのある歌詞ですけど、この先へとつながっていく余韻も残る内容で。

そうですね。ラストの曲でもあり、始まりの曲でもあるなって。

制限を外してどこまでも

──ここまでの話を聞いていると、Q-MHzの皆さんによる「小松未可子キャッチー化計画」が行なわれているみたいですね。細かいエディットを加えて磨き上げていき、ブランニュー小松未可子を見つけ出していくような。

ブランニュー感はすごくあります。時間はかなりかけていて、去年の9月くらいから、みっちりやっていました。打ち合わせして作って録っての繰り返し。現場で作られていくものがすごく多いなと感じるレコーディングでした。終わってみるとあっという間だけど、短いようで長くも感じた……本当に地図の上を旅した感覚のアルバムになりました。

──いろいろ新たな挑戦を重ねたことにより、「だったらこれもできるんじゃないか」「これはまだやってないんじゃないか」とさらに挑戦してみたいことが増えたりもした?

いっぱい出てきましたね。「この曲の延長戦上でこんな曲ができるんじゃないか」って。例えば「また、始まりの地図」をもうひと広がりさせるとどういう曲になるのか、あとやっぱりジャズは未知数なところが多かったので、もっと掘り下げてみるとどんな曲が出てくるだろうかとか。マリンバだってもっと違うテイストで生かせるかもしれないし、やりたいことは今までよりもっと見えてきましたね。

──漠然としたアイデアもうまく翻訳して咀嚼してくれる、Q-MHzという心強いチームも味方にいますし。

そうですね。難しいことにもどんどん挑戦していけたら。

──音楽とは離れたところで、人として、女性としてどんなふうになりたいという目標は?

私が「Blooming Maps」なんてポジティブなタイトルを付けられるようになったんだ、という驚きがあるので(笑)、それこそ自分が枝分かれしていって花を咲かせていくような……今までは自分で「いやいや、私はここまででしょ」と制限をかけていたところがたぶんどこかにあったので、制限を外してどこまでいけるのかを試していきたいですね。

小松未可子
小松未可子「Blooming Maps」
2017年5月10日発売(2017年5月17日配信開始) / TOY'S FACTORY
小松未可子「Blooming Maps」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
3900円 / TFCC-86585

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小松未可子「Blooming Maps」通常盤

通常盤 [CD]
3000円 / TFCC-86586

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CD収録曲
  1. また、はじまりの地図
    [作詞・作曲・編曲:Q-MHz]
    Guitar:新井弘毅 / Bass:田淵智也 / Drums:SHiN / All Other Instruments:黒須克彦
  2. Imagine day, Imagine life!
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、広川恵一(MONACA)]
    Strings Arrangement Supervisor:神前暁(MONACA)/ Guitar:堀崎翔 / Bass:田淵智也 / Drums:城戸紘志 / Violin:室屋光一郎、徳永友美 / Viola:安保恵麻 / Cello:奥泉貴圭 / All Other Instruments & Programming:広川恵一(MONACA)
  3. Catch me if you JAZZ
    [作詞・作曲:小松未可子、Q-MHz / 編曲:Q-MHz、伊藤翼]
    Guitar:三澤勝洸(パスピエ)/ Bass:ナナガイケジョー(SCOOBIE DO) / Drums:ショボン / Violin:室屋光一郎 / All Other Instruments:伊藤翼
  4. ランダムメトロノーム
    [作詞・作曲:小松未可子、Q-MHz / 編曲:Q-MHz、清水哲平]
    Bass:黒須克彦 / Drums:かどしゅんたろう / Guitar & All Other Instruments:清水哲平
  5. 純真エチュード
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、eba]
    Bass:黒須克彦 / Drums:かどしゅんたろう / Guitar & All Other Instruments:eba
  6. 硝子の地球儀
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、齋藤真也]
    Guitar:海老澤祐也 / Bass:田淵智也 / Drums:SHiN / Violin:室屋光一郎 / All Other Instruments:齋藤真也
  7. My sky Red sky
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、fhána]
    Guitar:yuxuki waga / Bass:黒須克彦 / Drums:SHiN / Keyboards:佐藤純一 / Sampler::kevin mitsunaga / Chorus:towana
  8. だから返事はいらない
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、やしきん]
    Bass:田淵智也 / Drums:城戸紘志 / Violin:室屋光一郎 / Guitar & All Other Instruments:やしきん
  9. 流れ星じゃないから
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、重永亮介]
    Guitar:新井弘毅 / Bass:田淵智也 / Drums:ショボン / Violin:室屋光一郎 / All Other Instruments:重永亮介
  10. Lonely Battle Mode
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、やしきん]
    Brass Arrangement:井上泰久(RightTracks Inc.)/ Bass:黒須克彦 / Drums:かどしゅんたろう / Trumpet:高荒海、田沼慶紀 / Tenor Sax:井上泰久 / Trombone:半田信英 / Guitar & All Other Instruments:やしきん
  11. HEARTRAIL
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、堀江晶太]
    Guitar:堀崎 翔 / Drums:SHiN / Violin:室屋光一郎 / Bass & All Other Instruments:堀江晶太
  12. my dress code
    [作詞・作曲・編曲:Q-MHz]
    Guitar:三澤勝洸(パスピエ)/ Bass:田淵智也 / Drums:ショボン / Piano & Organ:成田ハネダ(パスピエ)/ Marimba:小松未可子 / All Other Instruments:田代智一
初回限定盤DVD収録内容

Music Video

  • HEARTRAIL

「Humming Maps vol.1 @ SHIBUYA CLUB QUATTRO 2017.01.22」(Live Video)

  • エンジェルナンバー
  • short hair EGOIST
  • 純真エチュード
  • Imagine day, Imagine life!
  • ふれてよ
  • だから返事はいらない
小松未可子TOUR 2017 "Blooming Maps"
  • 2017年7月22日(土)東京都 TSUTAYA O-EAST
  • 2017年7月29日(土)愛知県 SPADE BOX
  • 2017年8月6日(日)大阪府 Music Club JANUS
小松未可子(コマツミカコ)
1988年11月11日、三重県生まれの声優、歌手。2010年にアニメ「HEROMAN」の主人公ジョセフ・カーター・ジョーンズ役で声優としてのキャリアをスタート。2012年1月より放送のアニメ「モーレツ宇宙海賊」では主人公・加藤茉莉香の声を務め、4月には同アニメのイメージソング「Black Holy」で個人名義による歌手デビューを果たす。2012年、2013年には埼玉・さいたまスーパーアリーナでの「Animelo Summer Live」に、2014年1月には東京・日本武道館での「リスアニ! LIVE 4 SUNDAY STAGE」に出演するなど、大規模フェスにも数多く招聘される。2016年9月よりTOY'S FACTORYに所属し、同月Q-MHzプロデュースによるシングル「Imagine day, Imagine life!」を発表。2017年5月には引き続きQ-MHzの全面プロデュースで通算3枚目のオリジナルアルバム「Blooming Maps」をリリースし、夏の東名阪3都市を回る単独ツアー「小松未可子TOUR 2017 "Blooming Maps"」を行う。