音楽ナタリー Power Push - 小松未可子
みかこしはご機嫌ナナメ!? 苛立ちと闘争の「群青サバイバル」誕生の裏側
目が群青に染まり、サルビアが赤いワケ
──これまでのインタビューを通じて小松さんから受けた印象の1つに、細かく韻を踏んでみたり、恋愛とはまるで関係ない些細な出来事に着想を得て普遍的なラブソングを書いてみたりと、“小松未可子ならでは”の言葉やモチーフを持っている作詞家だというものがあるんです(参照:小松未可子「Sail away」インタビュー)。
ありがとうございます。
──で、今回はそういう方がアニメの世界観を歌うことを第一に考えた、ある種職業作詞家的な詞の書き方をしたわけですよね。
あっ、でも一昨年のシングルの「虹の約束」も「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」という映画の主題歌でしたし、作品に寄り添って詞を書くことに戸惑いはなくて。それに「サバイバルゲーム、ガンアクションをテーマにしたアニメのエンディングテーマです」というお題がなかったら、まず出てこなかった言葉もたくさんありましたし。私の中に眠ってはいたんだろうけど、これまで使うことのなかった鋭くて強い言葉を改めて咀嚼しながら自分のものにしていく作業は面白かったですね。
──じゃあ作詞はスムーズでした?
いいえっ!
──即答でしたね(笑)。
最初のデモをいただいたとき「まず“なんとなく”の詞を乗せてキーチェックをしましょう」というお話があったんですけど、そのキーチェック用の仮歌詞は全部ボツでしたから。そのあとも3回くらい書き直しましたし、細かい言葉遣いについてはレコーディング当日まで調整していましたしね(笑)。
──でも作詞は面白かったわけですよね?
毎日、歌にしたいほどドラマチックなことが起きるわけでもないですし、自分の日常を歌うのって限界があるんですよ(笑)。でも声優という仕事をしていて、アニメのテーマソングを歌わせていただいていると、さっきも言った通り、自分にとっては非日常であるアニメの世界観というテーマを与えていただけるんです。それをきっかけに普段の自分なら使わない言葉を探し当てたり、想像を膨らませたりするのはやっぱり面白いですね。今回であれば立花に寄り添いつつ、その一方で詞にも出てくる「戦場」と書いて「フィールド」と読むこの舞台にもしも私が立たされたら、何を思って、何をするんだろう?ということを考えるのはすごく刺激的でした。
──ある種のシミュレーションをすることで“小松未可子らしさ”を盛り込んでみた感じ?
そういう感じかもしれません。詞の世界の当事者ではないんだけど、「この状況に置かれたら私はこう考える」「こうしたい」というメッセージをきちんと盛り込めたな、と思っています。
──そうやってフィクショナルな舞台を設定してから詞を書くことって多いんですか?
ゼロではないですね。1stアルバムの「THEE Futures」の「情熱」という曲の詞は、作曲のPandaさんからいただいたデモのタイトルが「情熱」だったから「じゃあ『情熱』をテーマに」って書き始めたものですし。でも「私の中の情熱ってなんだ?」「部活はがんばってたけど、たぶんラテン調のこの曲がいう情熱はそういう情熱じゃないよな?」ってなっちゃって(笑)。それで「恋の情熱が冷めていく」という物語をまず作って、そこから「サルビアの赤って恋の情熱の色っぽいな」「真っ赤なサルビアからオレンジの夕日に視点を移動させたら、情熱が冷めていく様子を描けるかな?」と、自分の思う恋の情熱に似合う言葉を探すという書き方をしてみてるんです。
──詞の中で歌われる恋愛は実体験に基づいてはいないけど、サルビアの赤に情熱的なものを感じたことにウソはない、と。
そうですね。「群青サバイバル」であれば「君の目は群青に染まって…」というフレーズを書いたのには前野さんが演じている松岡(正宗)の目が青いからという理由のほかに「私がもし『フィールド』に立ったらきっとまず空を見上げるだろうな」と思ったから、という理由もありますし。あと「背中合わせの影」もそうですね。今年3月のアニメの制作発表に前野さんと一緒に出演させていただいたんですけど、2人で背中合わせになって小道具のトイガンを構えるポーズを作ってみたらすごく安心感があって「あっ、誰かに背中を預けられるのっていいな」と思えたから書けた言葉なんです。
小松未可子とSiNの共通点と相違点
──アニメ盤のカップリング曲「Trouble shooting」の作詞は作・編曲も手がけたSiNさん。……なんですけどトーンやマナーは「群青サバイバル」と同じ。ラウドロックに乗せて何かにイラついているし、抗っている主人公を歌っています。
この曲は「青春×機関銃」の挿入歌なんです。だからテイストが近いものになったんだと思うんですけど、面白いなと思ったのがSiNさんの詞にも私の詞にも一人称が出てこないんですよね。
──確かに「群青サバイバル」には「君」、「Trouble shooting」には「キミ」という二人称は出てくるのに、一人称はないですね。
SiNさんに「なんで一人称を書かなかったんですか?」って聞いたら、「『青春×機関銃』の立花が周りから男の子だと思われている女の子だから『僕』も『私』も似合わない」という答えが返ってきて。私もまったく同じ理由で一人称を書かなかったので、同じものを読んだ2人が同じことを感じていたのは面白かったし、素敵なことだと思いましたね。
──あとお2人とも何かに抗う姿を描いてはいるけど、闘うことが正義だとは言っていないですよね。小松さんは「立花の正義感は内なる闘争心を正当化するものでもある」と言っていたし、SiNさんは「一番正しいことは何? 一番悪い人は誰?」とまさに正義と悪を断じきれない主人公の姿を描いている。
それだけ「青春×機関銃」という作品が“強い”んですよね。私とSiNさんが「青春×機関銃」の原作を読んで感じたこと、歌にしたいと思えたことが一致したのはなぜか?といったら、原作のメッセージが強烈だったからだと思いますし。ただ、描こうとした主人公の姿はまったく違っていて。私は闘争心に駆られる姿、“野獣”みたいな姿を描いてみたんですけど(笑)、SiNさんの描く主人公は「一番正しいことは何? 一番悪い人は誰?」という詞の通り、立ち止まって少し冷静になっている。立花という人物から同じ印象を受け取っていながら、2人が切り取った姿が違っていることも楽しんでもらえるとうれしいですね。
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- ニューシングル「群青サバイバル」 / 2015年8月26日発売 / STARCHILD
- 青春盤 [CD+DVD] 1944円 / KICM-91622
- 機関銃盤 [CD] 1296円 / KICM-1622
- アニメ盤 [CD] 1296円 / KICM-91621
青春盤および機関銃盤 CD収録曲
- 群青サバイバル
[作詞:小松未可子 / 作曲・編曲:ナカムラヒロシ] - トウキョウ・ミッドスカイ
- 群青サバイバル off vocal ver
- トウキョウ・ミッドスカイ off vocal ver
アニメ盤 CD収録曲
- 群青サバイバル
[作詞:小松未可子 / 作曲・編曲:ナカムラヒロシ] - Trouble shooting
[作詞・作曲・編曲:SiN] - 群青サバイバル off vocal ver
- Trouble shooting off vocal ver
青春盤 DVD収録内容
- 「群青サバイバル」MUSIC CLIP
小松未可子「ハピこし!ライブ2015」
2015年11月7日(土)
東京都 TOKYO DOME CITY HALL
小松未可子(コマツミカコ)
1988年11月11日、三重県生まれの声優、歌手。2010年にアニメ「HEROMAN」の主人公ジョセフ・カーター・ジョーンズ役で声優としてのキャリアをスタート。2012年1月より放送のアニメ「モーレツ宇宙海賊」では主人公・加藤茉莉香の声を務め、4月には同アニメのイメージソング「Black Holy」で個人名義による歌手デビューを果たす。7月にはミニアルバム「cosmic EXPO」、11月7日に2ndシングル「冷たい部屋、一人 / 夏至の果実」を、2013年2月13日には1stフルアルバム「THEE Futures」をリリース。同7月には3rdシングル「終わらないメロディーを歌いだしました。」を、12月には4thシングル「虹の約束」を発表する。またその一方で2012年、2013年には埼玉・さいたまスーパーアリーナでの「Animelo Summer Live」に、2014年1月には東京・日本武道館での「リスアニ! LIVE 4 SUNDAY STAGE」に出演するなど、大規模フェスにも数多く招聘される。そして同年11月、ナカムラヒロシ(i-dep)とサイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)を制作陣に迎えたシングル「Latimer road」をリリース。そして2015年8月、ナカムラのスコアによるシングルにして主演アニメ「青春×機関銃」のエンディングテーマ「群青サバイバル」を発表した。