monoくんの才能が開花しました

眉月　劇中音楽は自分が担当するシーンを観ながら作ったんですか？

の子　そうですね。もらった映像を再生しながら。ウチの機材では映像と録音を同期させることができないから、映像データを再生してから演奏して、みたいな感じでやりました。

眉月　店長とあきらが「ダメだよ」「なんでですか？」って車内で言い合ってるシーンですよね。

の子　そうそう、あと図書館のシーンもやらせていただきました。

──劇伴は誰がどのシーンを担当しているのか映画本編では説明されていませんが、図書館のシーンは明らかにの子さんとmonoさんだろうなというのがわかりました。

眉月　図書館の音楽はかまってちゃんっぽいですよね。

の子　うん、かまってちゃんの曲を聴いてくれている方々だったら「あ、これはの子が作ったメロディだ」ってわかってくれると思います。手癖が出てるので（笑）。劇中曲を作らせていただくのは初めてだから、いい経験になりました。1秒のズレもダメとか、すごい正確さを求められるんですよ。monoくんと2人で作ったけど、たぶん1人だとメゲてたかもしれません。それに今回monoくんがかなり活躍してて。あの人のアレンジの才能が開花しました。

眉月　monoさんとの子さんが組んだっていうのも熱いですよね。メンバーの誰かとコンビで何かを作ったことってあるんですか？

の子　たぶんmonoくんと2人で曲を作ったのは初めてです。今回は僕がメロディを作って、アレンジをmonoくんに手伝ってもらったんだけど、「えっ？ コイツこんなことできるんだ！」って、ホントにビックリしたんですよ。すごくいろんな経験をさせていただいて、手応えは抜群にありました。

眉月　監督は「変わったことをやりたい」って思って、劇中音楽を複数のロックバンドに作ってもらうことにしたみたいで。それでかまってちゃん以外にも忘れらんねえよさんとスカートさんにオファーして、オープニングにポルカドットスティングレイさんの曲を使うことになったんです。でも、バラバラな印象はなくて全部まとまってるし、映画全体がMVみたいで、すごく面白いと思いましたね。その面白い試みのきっかけを自分の作品が作れたのかなって思うと、すごくうれしいです。

の子　きっかけにはなってますね。僕が作った曲にしても、「恋雨」って作品があったからこそ生まれたメロディなので。実は僕が主題歌のつもりで書き下ろした曲はボツになったんですけど（笑）、それも「恋雨」に感化されて作った曲でしたし。

眉月　の子さんの曲って映画に合ってると思うんですよ。アニメ映画でも実写映画でも合うと思う。“第2の久石譲”襲名待ったなしですよ。

の子　ありがとうございます。メチャクチャ持ち上げますね（笑）。

眉月　宮崎駿に久石譲がいるように、の子さんも誰かにとっての久石譲になってほしい。久石譲の音楽って聴けばわかる“久石譲節”があるけど、かまってちゃんもそうじゃないですか。

の子　“の子節”はありますね。

眉月　私は1本通してかまってちゃんが音楽を担当した映画を観てみたい。たぶんすごく美しい映画になると思います。

の子　当然、僕も1本通して音楽を作ってみたいですけどね。今回は経験として、いきなり全部じゃなくて数分だけでよかったなと思ってるけど。一度経験したからにはいずれ全部やってみたいです。

──今度はピアノ曲だけでなく、ギターや打ち込みを使った曲を作るのもよさそうですね。

の子　もし依頼があればほかの楽器でもこういうことはできると思うんですけど、「恋雨」は自分の中でピアノのイメージが沸いてたんで、それを形に残せてよかったです。

「できます。彼なら作れます」

──「フロントメモリー」のカバーを聴いての、の子さんの感想は？

の子　すごいよかったですよ。自分には思い付かないようなアレンジで、いい意味で大人の音楽に変わったと思いました。声も魅力的ですし。

眉月　亀田誠治さんのアレンジは、メロディがすごくわかりやすくなりましたよね。かまってちゃんの曲ってすごく美しいんですけど、いろんなメロディが重なり合っている曲が多いから、慣れてない人が聴くとどのメロディを追えばいいのかわかりづらい気がしていて。ファンになればそこがいいところなんだけど、初めて聴く人には亀田さんバージョンみたいにシンプルなアレンジのほうが、メロディのよさがダイレクトに伝わるかも。

の子　うんうん、そうかもですね。「フロントメモリー」って、最初に自分のデモをアップしたときは、あんまり反響なかったんですよ。

眉月　えっ、そうなんですか！

の子　僕がパソコンでの曲作りを始めたばかりの頃で、仕上げがすごいヘタクソだったのもあるけど、最初はみんな「？」って反応で、今ほどいい反応はなかったです。言ったらメンバーですらそうでしたもん。monoくんだって「何がいいんだかまったくわからない」って言ってたし（笑）。

眉月　かまってちゃんの曲って不思議なんですよね。何回も聴いてると、突然ものすごくよくなる曲が多いんですよ。なんでかわからないけど。聴いているうちにだんだん曲の形がつかめて、スッと全体の音が聞こえてくるみたいな。それに気付くともう止まらないんです。

──お話しぶりを聞いていると、眉月さんがどれだけかまってちゃんファンなのかがよくわかりますね（笑）。

眉月　ははは（笑）。監督に最初にかまってちゃんを推薦したときに「眉月さんは単にかまってちゃんファンだから推してるだけなんじゃないのか？」って疑われてて、「もしそうだとしたら、遊びじゃないんだからその話は飲めないよ？」みたいに言われたんですよ。それで「映画の音楽はどんな曲でも作れなきゃダメなんですよ？ ロックだけじゃなくクラシックとか。その彼に本当にできるんですか？」って、ものすごく試すような質問をされて。私、全然知らないのに「できます。彼なら作れます」って返事しました。「言ったもん勝ちだろ、なんとかなる」って自分に言い聞かせて（笑）。たぶん監督的には、本当にできるかどうかよりも「ここまで不安にさせても推してくるってことは、それだけの理由があるんだろう」というのを重要視してかまってちゃんを採用してくれたんだと思います。あと、私があまりにも言いすぎて洗脳されたところもあると思う。

の子　わはは（笑）。

眉月　監督も脚本を直してるときにずっと「フロントメモリー」を聴いていたそうで、「なんでかわかんないけど、やっぱりこの曲が合いますね。本当に不思議ですけど」って言ってたんですよ。

の子　やっぱり描いてる思春期感が共通してるんですかね。僕も実際に映画で曲が流れてるのを客観的に聴いて、「合うな」って思いましたから。

眉月　だから決して私が押し付けたわけじゃないです。あくまで監督の意思で主題歌が「フロントメモリー」になったんです（笑）。この映画が宣伝になって、たくさんの人に「えっ？ かまってちゃんにこんな一面が？」って思ってほしいですね。

の子　うん、そうですね。

眉月　ホントに反応が楽しみ。ファンの人が聴いてどう感じるのかも楽しみだけど、今までかまってちゃんを全然知らなかった人たちの反応とかすごい楽しみです。