「やっぱり運命なんだ」って思ったんです
の子 僕は「恋雨」を読んで自分の人生と重なる部分を感じました。僕もあきらと同じ、陸上部だったんですよね。
眉月 そうそう。それもあとで知って「うおー!」ってなりました(笑)。
の子 僕も夏が好きだし、自分が好きな風景が描かれてるなって思って。まあ、読みながら感情移入してたのはどっちかって言うと店長だったけど。「うれしいけども! ダメだよ、橘さん!」みたいな(笑)。
──神聖かまってちゃんには「らんっ!」(2012年発売アルバム「楽しいね」収録)や「陸上部の夏」(2017年発売アルバム「幼さを入院させて」収録)のように陸上部をテーマにした曲がありますよね。
の子 僕の曲は全部、完全に実体験なんですよ。「恋雨」は僕の曲と世界観が近いから、読んでいてシンパシーを感じるところがありました。
眉月 私が「映画の主題歌はかまってちゃんがいい」って永井聡監督に伝えて返事待ちだったときに、ちょうど「陸上部の夏」を収録したアルバムが出たから、「やっぱり運命なんだ」って思ったんですよ。「やっぱりかまってちゃんを提案して正解だった!」って。これを読んでる人からは「あなたはファンだから運命とか言いたいだけでしょ」って思われちゃうかもしれないけど(笑)。
の子 今回眉月さんの推薦で映画の音楽を作らせてもらえたのも、僕は運命感じたりしてます。
眉月 それは運命なんですかねえ……? 確かにきっかけを作るのは運命もあるかもしれないけど、そこから先に進むのに必要なのはその人が持つ実力だから。今回かまってちゃんの曲のカバーが主題歌になって、の子さんとmonoさんが劇中音楽を制作したのは、絶対に実力と才能によるものなんですよ!
の子 逆に言えば、実力と才能があったとしても、きっかけがないとどうにもならないですよ。風の噂で聞いたんですけど、眉月さんは監督にかなりガツンとかまってちゃんを推してくれたそうで。
眉月 ははは(笑)。でも推しはしましたけど、あれはただの宣伝ですから。今のかまってちゃんに足りないのは宣伝なんです。実力も才能もあるバンドなので、正しく知ってもらえればみんなハマるはずなんですよ。宣伝が圧倒的に足りない!
の子 それ、僕はなんて答えればいいのかわかんないや。いろいろチャンスを踏みにじって宣伝しづらいバンドにしてきたのは自分だから(笑)。やっぱり世間のイメージってデカいです。いまだに危ないやつだってイメージを僕に持っている人はいますからね。
かまってちゃんと「恋雨」はどちらも闘っている
──ここまでの眉月さんの話を聞くと映画の主題歌が「フロントメモリー」になった理由は理解できるんですけど、確かに「かまってちゃんが過激なバンド」という印象を持っている人たちは、かまってちゃんと「恋雨」のイメージが結びつかないかもしれません。
の子 そうですよね。
眉月 監督との最初の顔合わせのときに、私が「ぜひかまってちゃんの曲を使ってください」ってお願いしたら、監督は「眉月さんの中で、もっとしっとりとしたバラードみたいな曲が流れてるんだと思ってた」って言ったんです。それに対してかまってちゃんは激しいロックのイメージだから驚いたって。たぶん、ほかのみんなもそうなんだろうなと。
の子 世間的にはやっぱりそういうイメージですよね。でもいろんな曲を聴いてもらえばそんなことはなくて、今回の劇中音楽みたいなピアノ曲も作るし。
──眉月さんがかまってちゃんに惹かれた部分というのも、「青春時代の鬱々とした感情をネガティブに吐き散らすバンド」みたいな、多くの人々が思い描いているイメージとは違うんだろうなという気がします。
眉月 私がかまってちゃんを好きな一番の理由は「いつも闘ってるから」なんですよ。「ドアを閉めて布団の中で泣くことにしました」って曲なんかないじゃないですか。「殺してやる!」くらいの気持ちが出てるじゃないですか。「恋雨」も闘ってる人たちのお話なんですよ。「たとえみっともない姿になろうが、とにかく一歩踏み出す」っていう。
の子 確かに、「恋雨」で描かれているのは一度挫折を味わった人たちの心の葛藤ですね。
眉月 私は闘う人を応援したいのはもちろんなんですけど、闘えないでいた人にこのマンガを読んで「自分も闘えるかもしれない」と思ってもらえたらうれしい。「闘わなきゃいけない」とかそこまで押し付けがましいことは言いたくないけど。
──「恋雨」はそのタイトルもあって、ラブストーリーだと思って単行本を手に取ったり映画を観に行ったりする人が多そうな気がしますが、登場人物が闘っているというのはよくわかります。
眉月 連載が始まった当時まだ無名の新人だったので、手に取ってもらえるようにわかりやすく宣伝しなければという方針もあって「年の差ラブストーリー」というキャッチコピーにしていたんです。でも私は始めから恋愛ストーリーとしては描いていなかったし、当初から編集さんとも「恋愛がメインの話じゃない」って話はしていたんですよ。別に読者を騙したわけじゃないんです。
の子 まあ、作品への入口を作ることは大切ですよ。
眉月 だから私の中に、恋愛メインの話を読みたい方への後ろめたさがずっとあって。1巻のときからずっと「ラブストーリーって言わないほうがよかったかな」って悩んでたし、恋愛の物語って紹介されるたびにちょっと申し訳なさがあったんです。でも今は、あきらは陸上に、店長は小説に恋をしているわけだから、恋愛の話と言えば恋愛の話だよなと私の中で納得してます(笑)。
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monoくんの才能が開花しました
- 音楽:伊藤ゴロー
<参加アーティスト> の子/mono(神聖かまってちゃん)、柴田隆浩(忘れらんねえよ)、澤部渡(スカート)
「オリジナル・サウンドトラック『恋は雨上がりのように』」 - 2018年5月23日発売 / Warner Music Japan
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[CD]
2808円 / WPCL-12897
- 収録曲
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- ひびのそれぞれ
- 渡り廊下
- 走るあきら!
- 密かな想い
- あきらの想い
- いつかの手品
- 恋は雨上がりのように メインテーマ
- そして 雨上がる
- 近藤と小説 1
- あきらの片思い
- so true love
- 中途な夢
- あきらとはるか
- 近藤と小説 2
- スーパームーン 大事なこと。
- みずき
- B.G.M.
- みずきの記録会
- 恋は雨上がりのように~加瀬のサンドイッチ~
- 近藤のテーマ
- 恋は雨上がりのように~停電の夜~
- 近藤と小説 3
- 恋は雨上がりのように~浜辺~
- 恋は雨上がりのように~夜明け~
- フロントメモリー / 鈴木瑛美子×亀田誠治
- フロントメモリー feat. 川本真琴 / 神聖かまってちゃん(ボーナストラック)
- 鈴木瑛美子×亀田誠治「フロントメモリー」
- 2018年5月11日配信開始
- 神聖かまってちゃん「ツン×デレ」
- 2018年7月4日発売 / unBORDE
-
[CD]
3132円 / WPCL-12890
- 収録曲
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- 33才の夏休み
- 塔を登るネコ
- 8月の駅
- 秋空サイダー feat. たかはしほのか
- 犯罪者予備君
- トンネル
- 決戦の日
- ラムネボーイ
- 26才の夏休み
- 大阪駅
- 「恋は雨上がりのように」
- 2018年5月25日(金)全国公開
- ストーリー
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橘あきらはファミレス“ガーデン”でアルバイトとして働く高校2年生。バツイチ子持ちの冴えない店長・近藤正己に密かに恋心を抱く彼女は、ある雨の日に「あなたのことが好きです」と思いのたけを打ち明ける。けがによって陸上競技を断念した17歳のあきらと、文学に情熱を注ぎながら小説家になれなかった45歳の近藤。止まっていた2人の時間が、静かに動き始める。
- スタッフ
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監督:永井聡
原作:眉月じゅん「恋は雨上がりのように」(小学館)
音楽:伊藤ゴロー
主題歌:鈴木瑛美子×亀田誠治「フロントメモリー」(ワーナーミュージック・ジャパン)
- キャスト
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橘あきら:小松菜奈
近藤正己:大泉洋
喜屋武はるか:清野菜名
加瀬亮介:磯村勇斗
吉澤タカシ:葉山奨之
西田ユイ:松本穂香
倉田みずき:山本舞香
久保佳代子:濱田マリ
九条ちひろ:戸次重幸
橘ともよ:吉田羊
- 「恋は雨上がりのように」公式サイト
- 映画「恋は雨上がりのように」公式 (@koiame_movie) | Twitter
- 映画「恋は雨上がりのように」 (@koiame_movie) | Instagram
- 「恋は雨上がりのように」作品情報
©2018 映画「恋は雨上がりのように」製作委員会 ©2014 眉月じゅん/小学館
- 神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)
- の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の4人からなる“インターネットポップロックバンド”。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ビデオクリップの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2014年9月にフルアルバム「英雄syndrome」、2016年7月にミニアルバム「夏.インストール」を発表。2017年4月から放送のテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」にエンディングテーマとして「夕暮れの鳥」を書き下ろし、同曲を収めたシングル「夕暮れの鳥 / 光の言葉」を5月にリリースした。7月4日にはニューアルバム「ツン×デレ」の発売も決定している。
- 眉月じゅん(マユヅキジュン)
- 神奈川県横浜市出身の女性マンガ家。2007年に開催された集英社主催の「第1回金のティアラ大賞」で「さよならデイジー」が銅賞を受賞する。2014年から2016年にかけて「月刊!スピリッツ」、2016年から2018年にかけて「ビッグコミックスピリッツ」で連載された「恋は雨上がりのように」が大ヒットを記録。同作は2018年1月にフジテレビ「ノイタミナ」枠でアニメ化され、同年5月には小松菜奈と大泉洋のダブル主演で実写映画化された。