小林私|気鋭のシンガーソングライターが語る 弾き語りや動画配信への思い、創作活動のルーツ

理想の音とギター

──以前、インタビューで「アコギ1本の弾き語りが自分の本質的な表現」という旨の発言をされていましたが、アコギ1本の弾き語りに対してどういった美点を感じていますか?

持ち運びとかの気軽さはあるし、ラグがないというのも大きいです。例えばDTMをやるとなったとき、ドラムを打ち込んでそれをあとから流して聴くのって、僕の中ではちょっとテンポが悪いんです。音楽は絵画と違って時間にとらわれている芸術だと思うんですけど、だからこそ、時間的なラグも生まれやすくなってしまう。僕にとって自分の中から出てきたものと、外にアウトプットするものになるべく時間差がないほうがよくて。なので、自分の求める“生”感は、アコギで弾き語るのがしっくりくるんですよね。

──なるほど。なるべくダイレクトなものがいい。

小林私

軽音楽部にいたからわかるんですけど、バンドを組むとメンバー内で曲を共有して、練習して合わせるという工程を踏むから、最終的な完成品ができるまでに時間がかかりますよね。僕はそれが待ちきれない。なので、新曲を作るとすぐに配信で披露しちゃうんです(笑)。自分から出てきたものと、それを発表する場が近しくあってほしいという感覚もあるんです。

──今の話を踏まえて、小林さんにとって「いい音」とはどういう音ですか?

聴いていて一番心地いいのは、自分で聴くためにスマホのボイスメモで録った新曲のデモの音ですね。それが、自分がやりたい表現の質感だと思います。別に音質がいいわけでもないし、テンポが整っているわけでもないし、ピッチが補正されているわけでもないけど、その状態が一番いいなと感じる。アコギの音の一番気持ちのいい聴き方って、自分で弾いたものを自分で聴くことだと思うんです。ライン録りをするとギターの中のマイクで録った音が流れるし、サウンドホールにマイクを置いて録るやり方も、結局、聴こえるのはサウンドホールの真直下で出る音なわけですよね。それよりも、アコギを抱えたときに自分の耳に聞こえている音が一番気持ちいいと思う。それは自分で弾かないとわからないし、レコーディングで再現できるものではないから、難しいなと思うんですけど。

──いただいた資料を見ると、今回の作品の中で「飛日」「花も咲かない束の間に」「共犯」というアコースティックの3曲に関しては、「ギターの音がよすぎてしまった」とご自身でコメントされています。ここにある「音のよさ」というのは、おそらく今言っていただいた「音のよさ」とは違ったベクトルのものですよね。

そうですね。今回のレコーディングで使ったのはシンガーソングライターの根本。さんという人から借りたテイラーのアコギなんですが、普通に「いい音だな」と思ったんですよ。みんなが共通認識できる「いい音」というか。一緒にレコーディングしていたがんばれまさしげさんも、「こばやん、これは正解だ」って言っていましたから(笑)。そこは僕も同意しましたね。気持ちのいい音の抜け方をしているなって。

──今の音のお話もそうですし、そもそも音源としてパッケージングすること自体、本来小林さんが求める速度に比べると、ラグはどうしても生まれてくると思うんですよね。だからこそ、ネットの生配信で弾き語ることが重要だったりもすると思うんですが、最近のレコーディングでの作品作りに関してはどういったスタンスで向き合っていますか?

やっぱり人と関わって作っていく以上は仕方のないことだと思います。そもそも僕、大学1年生のときにグループワークがすごく苦手だったんですよ。でも、大学3、4年になって、友達がちゃんとできてしゃべるようになってから、人が関わることによって生まれる面白さもあるんだなと思うようになったんです。美大出身者って、偶発性が好きな人が多いんですよね。自分だけの手でやってもうまく描けるけど、あえて別の人の手を挟んでみると、自分が思ってもみなかったことが起こる。そういう偶発性が好きだし、それがさっき言った驚きを生むことにつながっていくので、その驚きのためなら、全然、時間差も待てるなと今は思います。

がんばれまさしげと美月リカ

──今作では、1曲目「後付」と2曲目「サラダとタコメーター」の編曲にがんばれまさしげさんがクレジットされていますが、編曲に関しては基本お任せする感じですか?

そうですね。お互いに相談したり、確認しながらやることもありますけど、僕はなるべくならお任せしたいなと思っていて。せっかくもう1人の作家が絡むのであれば、その人の作家性も見たくなっちゃうんですよ。まさしげさんの場合は僕と真逆の作家性の人で。僕はライブ感が一番好きな人間で、アコギ1本でライブをするときも「今日はちょっとテンポを崩してみよう」とか、曲を遅くしたり速くしたりできる自由度が効く状態が好きなんですけど、まさしげさんはクリック命の人で、BPMが決まったらそこにちゃんと合わせていく。あと、僕はライブでやりやすいように簡単なコードしか弾かないんですが、まさしげさんは変則的なコードがめちゃくちゃ好きな人。例えば、アコースティックアルバムの「包装」(2021年5月発表)には「遊歩する男」という曲があるんですけど、あの曲はもともとのコード進行にディミニッシュみたいな、ちょっとオシャンなコード進行をまさしげさんが加えたんです。そういうのも、自分にない感覚で面白いんですよね。

──現在、そのがんばれまさしげさんと、美月リカさん、小林さんの3人で「株式会社がんばれ」という会社を運営しているんですよね。

3人が代表取締役で社長っていう。理由は、社長が3人いたら面白いから(笑)。まあ、キングギドラですね。

──(笑)。会社を立ち上げたのはどういった経緯があったんですか?

小林私

なんでだっけ……。(取材現場に同行していた美月リカに向かって)酔ってたんでしたよね?(笑) 僕と美月リカさんとまさしげさんが出会ったのが去年の2月なんです。まさしげさんが美月リカさんとの仲介役になって、その場を作ってくださって。一応仕事なので僕はキチっと構えて行ったんですけど、2人はベロンベロンで「会社作っちゃおうよー」って(笑)。で、僕が「まさしげさんがいるから、会社名は株式会社がんばれにしましょう!」と言ったんです。もう次の月にはレコーディングして、MVも撮ってました。面白かったですね。役所に行って「がんばれ様ー」って呼ばれて(笑)。

──(笑)。この活動形態には、しっくりきていますか?

そうですね。自由が効くので。人が多すぎると、伝言ゲームみたいな感じで物事が伝わりづらくなると思うんですけど、3人という少人数だと共有しやすい感覚はあります。あと、3人とも気持ちの悪いオタクだから(笑)、そういう意味でも楽だなって思います。オタクはオタクの友達を欲しがるし、気持ち悪い話をしたいんですよ。

──小林さんは会社が抱えるタレントでもあるわけですが、自分自身の世の中に対する打ち出し方に対して、意見が割れることはありませんか?

最初の頃はめちゃくちゃぶつかりました。僕は今の感じで自由にやっていきたかったんですけど、美月リカさん的にはもうちょっと二枚目のキャラクターでやっていきたいという考えがあって。それで、今のTwitterのアカウントを消すか消さないかという話になったんですけど、僕がめちゃくちゃ嫌がったので、新しくもう1個アカウントを作ることになったんです。でも、今は出会ってから1年ぐらい経って感覚を共有できるようになったと思います。もちろん、他人だから全部が全部同じ感覚にはならないんですけどね。例えば、僕は絵画をやる人間だし、舞台が好きな人間だから、わりとコンセプチュアルなものが好きだったりするけど、まさしげさんはバンドマンだから音に対しての造詣も深くて、すごく音楽的なんです。で、美月リカさんは写真家でもあるし、視覚情報が好きな人で。3人とも好みの方向性はバラバラなんですが、バラバラだから一緒にやる意味があるし、それが楽しいなと思います。

少年時代とフラストレーション

──お話を聞いていて思うのですが、小林さんは身体的な表現を求めているという部分もあるんですかね?

それもあるし、単純にでっかい声を出すのが好きなんです。舞台はでっかい声を出していい場所だから、好きです(笑)。

──それはストレス発散のようなことですか?

僕は小中学生の頃、スーパー根暗くんだったので。小学校6年間の生活は、学校に行って、中休みに図書室に行って本を借りて、その本を昼休みまでに読んで、昼休みに本を返してまた借りて、それを家で読んで、また次の日の中休みに本を借りに行くっていう、それだけの繰り返しでした。外で遊ぶのは全然好きじゃなかったし。でも、やっぱり目立ちたいじゃないですか。

──そういう思いもありますよね。どうしても。

小学生のときの学芸会で、ちょっと目立つ役に勇気を出して立候補したんですけど、「お前じゃないだろ」みたいな空気になり、結局その役はかわいい女の子がやることになって。僕は村人Bみたいな役で、台詞は「やめるんだ!」だけ(笑)。

──ははは(笑)。

そういうことに対するフラストレーションがずっとあったんですよね。「目立ちたい」という感覚が。あと、インターネットも大きいですね。テレビに出る人は段階を踏んでいくけど、インターネットはアップロードさえしちゃえば成り立つ。「これなら俺もできるんじゃないか」っていう、その気軽さが憧れを身近にしてくれた感じがあります。そこから高校で軽音楽部にも入って、徐々に舞台に立てる場も増えたけど、それでもやっぱり「目立ちたい」欲求は一生解消されないんですよね。

──ずっと満たされないものがあるんですかね。

「満たされない」っていうと恥ずかしいな(笑)。大勢の前に立って何かするのは面白いなっていう感覚はずっとあります。ただ、高校の文化祭で初めてライブをやったときに緊張しすぎて頭真っ白になっちゃって。MONGOL800の「小さな恋のうた」を歌ったんですけど、完全にすべての動きが止まっちゃったんですよ。それで、講堂の端っこでずっと体育座りをしてしょげていたという経験もありますね(笑)。

──今の小林さんの生配信の様子からは想像が付かないですね。

そこはもう、場数ですね(笑)。

──子供の頃からたくさん本を読んでいたのなら、小説家や詩人を目指した時期はなかったんですか?

まあ一応、中学くらいの頃には小説を書いていたんです(笑)。当時、「モバスペブック」というサイトがあって。今でいう「小説家になろう」みたいなサイトなんですけど、なまじ小説を読んでいるぶん、自分が書けないのもはっきりわかっちゃったので、あんまり投稿しなくなっちゃいましたね。今でも何かを書きたくなったらnoteにショートショートを投稿したりするんですけど、それでもやっぱり自分の言いたいことや表現したい言葉は音楽が一番ハマっている状態です。この先、小説や詩を書くこともあるかもしれないですけどね。

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