小林武史|アルバムのこと、現在のこと、これからのこと

新しい潮流が出てくる可能性

──そのほか、小林さんの今後の展望があれば聞かせていただけますか。

小林武史

展望とは違うかもしれませんが、最近サブスクリプションサービスなんかで新しい音楽を聴くわけです。特にヒップホップは言葉と打ち込みで成立するし、今の時代を映していていいと思うんだけど……そういった楽曲がメインになっている状況を踏まえて、どこか打ち込みやコンピュータのみで作っていくのは厳しくなるんじゃないかと感じていて。それらを否定するわけではないけれど、電子音だけじゃ汲みきれないものってすごくあるなって。

──汲みきれない?

そういうものだけで音楽の未来が進化していくとはあまり思えなくて、やっぱり生楽器が必要なのではと感じています。生楽器はクラシックやジャズの領域などでは生き続けてはいくだろうけど、そういったものではない何か新しい潮流が生まれないか、と。

──新しい潮流。

関連してですが、昨日思ったことがあって。僕がプロデュースを手がけている代々木VILLAGEのMUSIC BARにはサブウーファーを転がしていて、昨日行ったらものすごい低音が回っていたんです。

──はい。

スーパーローってトランス感は得られるけれど、楽曲の文化的な香りや、その曲で作り手が伝えたいことなどをすべて包んでしまうんです。Led Zeppelinだって、ジョン・ボーナムはものすごいドラムを叩くし、ジョン・ポール・ジョーンズのベースだってすごいですけど、音源を聴くとそれほどローは膨らませてはいません。だからこそ、彼らの息吹や息遣いが伝わってくると思う。

──なるほど。

音楽の近代化が起こったバッハの時代から、まだ500年も経っていないですよね。その間クラシックの領域ではいろいろなブームがあって。それからしたら、ロックが生まれてから、エレキギターを買う人が減っているような現在までなんてとても短いタームです。音楽から生の楽器がなくなっていくことはないと思いますけど、生楽器を使った音楽の中心がこれからも永遠にバッハ、モーツァルト、ブラームス、The Beatlesみたいなことなのか。そうではない、新しい潮流が出てくる可能性はあると思うんです。

──そういうモードになられたのは最近なのですか?

最近、クラシックをビンテージのオーディオで聴くようになったり、クラシックのピアノをコード解析して弾いたりしていることがきっかけかもしれません。そうやって向き合うとやっぱり生楽器の音って素晴らしくて、それ抜きにしてこの先進化していくのは難しいんじゃないかと感じています。先のことはまだわからないですが、そういった部分を見据えて試行錯誤していきたいという欲求はありますね。

バンドがベストな状態を続けるのは大変

──ちなみに昨今では海外のチャートの中心はヒップホップと言えそうですが、日本はいまだにバンドミュージックが人気ですよね。

いい悪いではなくて、確かにバンドって、日本だけがすごく残っています。女子高生バンドからおじさんバンドまで、そういったコミュニティとしてのバンドもたくさんありますし。でもクリエイティブチームと捉えたときに、“その形がベスト”という状態で続けていくのって実は大変なことなんじゃないかと思うんです。

──クリエイティブチームとしては、バンドという形態はさほど寿命が長くないということですか。

小林武史

例えばThe Roling Stonesみたいにインタープレイの応酬みたいなことをやっているバンドと言うか、“ロックの歌舞伎”みたいな型を作っているバンドであれば、自由だから長生きできると思いますけど(笑)。そのストーンズだって、「ストーンズらしい曲を新しく作ろうぜ」って言っても、なかなか……だと思う。そうは言っても、やっぱり1人より絶対チームはあったほうがいいと思うんです。そして1人の人間に対して、そういうチームがいくつかあるようなことがあってもいい。日本のバンドを見ていると、いまだに1つのチームで続けていくことへの“契り”みたいなものを大事にしているところがありますよね。

──クリエイトしていくうえで、それぞれがもう少しフレキシブルでもいい、と。

その意味では確かにコンピュータのみでやっていくと自由なんですけど。でもコンピュータで作られた音楽って、聴いていて何をやっているのかがよくわかってしまうところがあって。サブスクリプションサービスのプレイリストを聴いていると、そういった最近の音楽でも“いい”と思えるものもたくさん出会えます。でも、だけど……って(笑)。

──だけど(笑)。先ほどの話に戻ってきましたね(笑)。

“いい傾向”になっているだけという気もしていて。いろいろ聴けるけれど、「自分と同じものを持っているな」と思えるようなアーティストを探し当てる喜びが得られているかとなると……正直わからないですよね。

V.A.「Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods」
2018年4月4日発売 / UNIVERSAL SIGMA
小林武史「Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods」

[CD] 3240円
UMCK-1595

Amazon.co.jp

収録曲
  1. to U / Bank Band with Salyu
  2. ハートアップ / 絢香&三浦大知
  3. Happy Life (unreleased version) / 中島美嘉×Salyu
  4. What is Art? / Reborn-Art Session(櫻井和寿 小林武史)
  5. my town / YEN TOWN BAND feat. Kj(Dragon Ash)
  6. reunion / back numberと秦基博と小林武史
  7. 太陽に背いて / 佐藤千亜妃と金子ノブアキと小林武史
  8. 陽 / クリープハイプ×谷口鮪(KANA-BOON)
  9. こだま、ことだま。 / Bank Band
  10. 魔法(にかかって) / Salyu×小林武史
  11. 70(Live version) / novem(大木伸夫[ACIDMAN]、ホリエアツシ[ストレイテナー]、黒木渚、桐嶋ノドカ、小林武史)
小林武史(コバヤシタケシ)
小林武史
音楽プロデューサー、キーボーディスト。Mr.ChildrenやSalyu、back numberといった数多くのアーティストのプロデュースを手がける。「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」といった映画音楽も担当し、2010年公開の映画「BANDAGE(バンデイジ)」では監督も務めた。2003年、坂本龍一、櫻井和寿(Mr.Children)と共に一般社団法人「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進のほか「ap bank fes」の開催、東日本大震災の復興支援など、さまざまな活動を行っている。「Reborn-Art Festival」では、実行委員長、制作委員長を務める。2018年4月には自身のワークスアルバム「Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods」をリリースした。