清竜人|令和元年に何を思う

自分が何者でもないことに対するフラストレーションがものすごくあった

──ここからはライブでも披露されていない新曲についてお話を伺いたいと思います。アルバムリード曲の「青春は美しい」は瀬尾さんがアレンジを担当されたバラードです。

今まさにそういう時期を迎えているような子たちのコーラスを入れつつ、青春時代や思春期を描いたバラードを入れたいなと思っていて。それが瀬尾さんのサウンドにすごく合うんじゃないかと考えたところから、この曲を作りました。

──「青春」をテーマにした理由はなんですか?

今回のアルバムは日本人ならではの哀愁や郷愁、懐かしい気持ちやセンチメンタルな気持ちの美しさを描いた楽曲で構成したかったので、その中の1つとして思春期の楽曲が入っていても違和感がないかなと思ったところです。青春も人生のターニングポイントとして振り返ったときに哀愁や郷愁を感じる時期の1つだと思うんですよね。

──わりと破天荒な生き方をしてきた清さんにとっての青春はどういったものですか?

清竜人

途中で辞めちゃったけど高校生の頃……10代後半の時期。もしくは清 竜人25の第3夫人(清亜美。現在は今野亜美名義で活動)が「清 竜人25は青春でした」と言っていましたが、今振り返ると、俺にとっても若干その気配がある(笑)。そういう甘酸っぱさというか、仲間と一緒に何かを作るみたいな時期が青春なんじゃないですかね。恋愛的な意味での青春はパッと出てこなくて、どちらかというと音楽に何か時間を費やしていた時期に青春の匂いがしますね。一生懸命アルバイトしてお金貯めて、劣悪な街のスタジオで弾き語り1本でレコーディングして、レコード会社に送って、そこから電話がかかってきたあのときの感じ。いまだに鮮明に思い出せますもん。やっぱりそういうのが青春だったのかなと思いますけどね。

──清さんはどちらかと言うとクールでドライな人だと思っていたので、そういう人が考える“青春”がどういうものなのか興味があったんですよね。

そういうイメージ持たれる方が多いと思うし、雑に性格を分別するならば確かにちょっとドライだったり、クールだったりするほうかもしれませんが、10代の頃は創作へのモチベーションや自分が何者でもないことに対するフラストレーションがものすごくあって。今以上に破天荒だったのが青春時代だったなと思います。でも、もしかしたらこれから来るかもしれないですよ(笑)。「これが青春だったんだ」みたいな。

日本的なメロディと合うボッサのリズム

──「25時のBirthday」は今まで清さんの楽曲に意外となかったボサノバテイストですね。

これはまさにボッサをやりたいと思って作ったんです。ボッサの要素を少し取り入れた「Zipangu」という楽曲はありますけど、ベーシックなボサノバの曲が自分にはなかったので。日本的なメロディとボッサのリズムって合うんですよね。もちろんうまく落とし込まないといけないですけど、その辺りの塩梅を僕なりに考えてJ-POPに仕立てた楽曲です。

──いわゆる“和モノ”と呼ばれる1960~70年代の歌謡曲のシーンにも、村井邦彦さんや筒美京平さん、浜口庫之助さんといった作家さんがボッサの要素を取り入れたおしゃれな楽曲を数多く残しています。この曲はそういった歌謡曲の文脈の先にあるボッサという印象でした。

そういうテーマの楽曲もJ-POPや歌謡曲にありますし、最近も出てはいるんでしょうけど、数は少ないイメージあるので、もっとシーンに増えてもいいんじゃないかという思いも込めました。

時の流れが怖くなるときに

──「あいつは死んであの子は産まれた」は歌謡曲というよりも唱歌の領域ですね。

これはアルバムの最後の曲をどうしようか考えたときに、まだふさわしい曲がないなってところから始まって。これまでのアルバムでは、次の作品につながるメッセージを込めた楽曲を最後の曲にしていたことが多いんです。「WORLD」(2010年2月発売)だったら弾き語りの曲(「ラヴ」)でしたし、「WORK」(2013年10月発売)だったらすごく短いパンクの曲(「I Don't Understand」)からTOWNにつながった(参照:清竜人インタビュー 清 竜人25&TOWN 2つの狂騒を過ぎて)。今回弾き語りの曲もなかったので、次への含みを持たせつつ、アルバム最後の曲として作りました。

──さらっと聴ける短い曲ながら、哲学的な深みのある歌詞になっていますね。

人生のどこかのタイミングですごく響くような歌詞にしたつもりはあります。つらい思いをしたときでも、幸せすぎるときでも、やっぱり時間が経つスピードが怖くなるタイミングがあるじゃないですか。そういうタイミングに寄り添える楽曲になればいいなと。

ソロ活動は続けたい

──これからアコースティック編成のライブツアーがありますが、「平成の男」から「REIWA」までの流れはこのツアーで閉じることになるんでしょうか? 今までのことを考えると、また次の展開も考えているのかなと思いますが……。

清竜人

清 竜人25やTOWNを挟んで、ソロでのアルバムリリースは約6年ぶりなんですよね。なので今回は終わるのがちょっと口惜しい感じがあるというか。今後新たなプロジェクトを始めるのもアリだし、考えたいと思っているけど、その中でもソロでの制作やパフォーマンスもできたらいいなと思っていて。今まではそのモード以外のライブはしないスタイルでしたけど、このアルバムを作ったことで、ほかのプロジェクトと並行してアコースティックライブがあっても不自然じゃなくなったんじゃないかなと。今までよりも柔軟に考えられたらいいなと思っています。もう1つ言うなら、今まではカウンターカルチャーとして作品作りをしてきたんですが、今後はトレンドのど真ん中な曲や時代にすごく迎合した曲を作っても面白いかなと思っています。

──急にトラップやフューチャーベースを作ったり。

そうそう(笑)。刺激のあるものを作りたいなと常々思っていて。業界の中の自分の立ち位置としても、やっぱりこれまでになかったものを作らなきゃいけないという自分勝手な使命感があるし。そこは変わらずにやって行きたいなと思っています。最近音楽を聴かない若い子が増えているのは悲しくて。全世代に聴かれるのが一番ですけど、音楽離れしている層が楽しめるコンテンツや楽曲を考えられたらいいなと思っていますね。