清春30周年記念インタビュー|“ミュージシャンとしての死”と“永遠” (2/2)

身近に感じる“ミュージシャンとしての死”

──今お話しされたような死生観をテーマにした楽曲作りは、今作「ETERNAL」にさらに色濃く反映されている気がしました。

うん、そうですね。50歳を超えると、人間としてはまだ死なないとしても、ミュージシャンとしての終わりは身近に感じるわけです。ファンにも「今のうちに残す作業に入るね」と言っていて。やっぱり終わり方は考えますね。自然にフェードアウトして、死んでいるのか生きているのかわからない状態になるのがいいのかな?とか、「引退します」と表明するのがいいのかな?とか、自分に合ったオチを考えてるんですよ。カート・コバーンみたいに、ほぼ全盛期に他界すると伝説になりますよね? でも、そういうのってなかなかあり得ないわけで。どんなエンディングがいいのかなっていうのは、ずっと考えてる。

──それって近い将来の話じゃないですよね?

もちろん、今すぐにミュージシャンとしての終わりを迎えたいわけじゃないけど、その日は必ず来るからね。25歳でデビューして30年が経ちましたけど、黒夢の結成から言うと35年ぐらいはやってる。なんだろう? 腑に落ちるところを探しているのかも。もちろんミュージシャンとしての死もあるし、人間としての死もある。身近な誰かが死ぬかもしれない。いろいろ起こり得る中で、今この瞬間こそが「ETERNAL」なんですよ。永遠に続くものじゃなくて、この瞬間しかないっていうのが「ETERNAL」。過去でもなく未来でもなく、毎回がその瞬間の連続。その繰り返しがたまたま続いているだけなので、「永遠に続くよ」というわけじゃなくて、いつでも終われると。“この瞬間は永遠だ”っていうのが、今回のアルバムのテーマですね。

──それこそ今作を聴いたときに、そんなことはないとわかっていますけど、これが最後のアルバムのつもりで作ったんじゃないかなと思ったんですよね。いい意味で、それぐらいの生死のメッセージを感じる1枚というか。

明確に終わりを考えているわけではないですけどね。10代で音楽の世界に憧れて、20代でデビューして、ありがたいことに55歳までサバイブして。アルバムで言うと、ソロで11枚、黒夢とSADSで5枚ずつ、ほかにもミニアルバムとかアコースティックアルバム、カバーアルバムも入れると、かなりの枚数を出してきた。ライブも膨大な数をやってきて、もうそんなには悔いはないのよ。多いときには年間100本以上もライブをやって、今回のツアーは60本でしょ。もはや「この日が最高」とか「最高じゃない」という差はないと思うんです。毎回「次のライブは最高のステージにする」と思ってるけど、ある人は「何年のこの日のライブが最高だった」と言うかもしれない。そうやって自分では更新できていても、死んだり引退したりして風化していくならばみんな同じだよね。「あの頃のデヴィッド・ボウイのライブが最高だった」とか「メタリカの2ndアルバムが最高だった」とかさ、もうみんなのモノになっているってことじゃないですかね。

──純粋な音楽の評価ではなく、「あのアルバムを学生時代に親友と一緒に聴いていたな」みたいな自分の思い出や心境も含めての“最高だった”に変わっていきますからね。

そういった意味での悔いはそんなにはないですね。黒夢が最高だと思う人もいるし、SADSが最高だと思う人もいる。外から見たときの“最高”っていうのは更新不可能なんです。なので結局は自分がどう思うかしかない。

100組くらい集めても絶対に負けない自信がある

──今、清春さんはどういうモチベーションで音楽を作っているんですか?

いいアルバムを作りたいと毎回思っているし、実際作ってるつもりです。次もまた作れるのであれば作りますし、「いいライブにするよ」という気持ちでいまだにやれている。それを念じられなくなったら作らない。体力と精神力の限界を迎えて根気が続かなくなって、「わー、清春さんはすごい!」と言われる喜びよりもつらさが勝っちゃったら。

──今回のアルバムを聴いて思いましたけど、体力と精神力はどう考えても増していますよ。

まあ、今の音楽のクオリティは昔の自分に負けてないですよ。歌もオリジナリティも、日本のそこらのミュージシャンに負けてない。3月からオーストラリアでツアーをやるんですけど、そこに日本の若手アーティストからベテランまで、本物と言われている人からそうじゃない人まで、100組くらい集めても同じ条件なら負けない自信があります。海外のステージは、日本で有名かどうかは関係ないので。ライブを観て恐怖を感じた人が、いまだにいないんですよね。というか、出てこなくなったなと思う。なんか芸人さんもテレビで下ネタ言えないとか、あるじゃないですか。誰かを叩けないとか、制限されるみたいな。僕はそういうの音楽の中でも一番関係なくやれる立場にいるし何を言われようが気にしない人になれたかな。そういう点も含めて、条件が同じならほぼ負けないですね。

──それこそこのアルバムを聴かせていただいて、恐怖を感じたんですよ。というか、僕は小さい頃から清春さんの音楽には恐怖を覚えていて。

うん、うれしいですね。

──初めて清春さんの音楽に出会ったのは、小学生のときに聴いたSADSで。当時はギターの音がどうとかドラムがどう鳴っているのかとか、そういう音楽の因数分解ができないぐらい幼かったんですけど、とにかくスピーカーから、こっちに迫ってくるような恐怖を覚えたんですね。で、大人になった今は別の恐怖を感じるんですよ。やまなみ工房のアウトサイダーアート(参照:清春「JAPANESE MENU / DISTORTION 10」インタビュー)みたいに、不純物が入っていない表現。そこに対する恐怖です。ここまで神経を研ぎ澄ませて作品を作っている人がいるのか、とおののくんです。

今は丸すぎるものが当たり前なのが本当によくなくて。MCで敬語を使うとか考えられないし、バンドのことを“さん”付けで呼ぶとか、変だなあと思うんですよ。お笑いには面白い人もいっぱいいるけど、音楽では面白い人がそんなにいない。“刺せるか刺せないか”で言うと“刺せる”人が減った。だから「恐怖を感じるな」「ちょっと一緒にやりたくないな」と思う人はあんまりいなくて。みんなはどうすれば人気が出るかを第一に考えるというか、シンプルに売れる / 売れないでやってるじゃん? それを永遠にやるのは間違いで。大事なのはすごいかどうかなんです。すごかったら人は集まるし、そうでなければ去っていく。基本はそこだと思ってるけど、新時代ではなかなか難しいですよね。

──清春さんが思う、音楽業界の問題点って具体的にはどこでしょう?

一緒にオーストラリアでツアーをする、BorisとアメリカのBRONXってバンドでギターを弾いている日本人と話してて。2組とも世界中でツアーをしてるんだけど、「僕らもそうだし、清春さんとか日本で活動している人たちって、ニューアルバムの曲をツアーでやらなくなるじゃないですか? せいぜい2曲ぐらいで。残りの10曲って作る意味あります?」って話になったんですよ。で、「確かに、なんで作るんだろうね?」と。Spotifyで流し聴きして「アレ? この曲カッコいいじゃん」ってなりやすい時代かもしれないけど、問題点はたくさんある。とにかく無駄が多い。今回のアルバムも作りながら「数年後やらない曲があるだろうな」とか「この曲は聴かれないだろうな」とすでに思ってた。たまにフェスに出ると、「IWGP」(ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」の主題歌「忘却の空」)が盛り上がるんだけど、それって音楽じゃなくない?って。お祭りではあるけど、クリエイトではないし、健全じゃないよね。新曲とか新作のアルバムは、もはや自分とファンの意思確認のために作るもの。どう思って生きているかの確認のために作る部分が大きいし、それは外側には届かない。それでも、やるからには1枚1枚にベストを尽くすんですけどね。今評価されなくても、僕がいなくなったあとに「清春さんっていう人がいたじゃん」「あの人実はカッコよかったよな」と気付いてもらえる場合も稀にあるかもだから(笑)。

「最後まで清春カッコよかった」と思われるように

──今年3月からは全国ツアー「debut 30th anniversary year TOUR 天使ノ詩『NEVER END EXTRA』」が開催されます。来年2月まで続く大規模なツアーですね。(※取材は2月末に実施。)

清春としてのツアー最大の本数なんですよ。30周年ということで、僕のキャリアをおさらいするというか。黒夢やSADSのライブもやりますし。思い入れが強い会場でもやる。今までやってきた会場、やってこなかった会場も含めてたくさんライブをします。まあ、30周年は1回しかありませんからね。

──最後に、今後の展望を教えてください。

演奏をする立場として、あと何年かやっていくんだったら、やっぱり人としてミュージシャンとしてカッコよくいたいです。清春でいる以上は、清春らしくいるべきで。「この前、街ですれ違ったんだけど、カッコよかったな」とかそういうのも大事だしね。あとは変に意識して人に気を使うとか、優しくするとかじゃなくて、もっと愛される人間になりたいです。「あの人といるとうれしくなる」とか「力が湧く」と思ってもらえるような存在になれたらいいなと思います。それと……もうすぐ60歳が見えてくるので、いいおじいちゃんになりたいですね。嫌われないおじいちゃん(笑)。

──清春さんが35歳のときに発売されたCDブック「清春35X」で、「布施明さんが57歳!? すごいね、ミック・ジャガーだね」と言っていましたけど、いよいよ清春さんもその年齢に追いつきますね。

そっか! あと2年でその年齢になっちゃうもんね。十数年前に、郷ひろみさんが55歳で55本のツアーをやったって知って当時すごいなと思ったし、氷室京介さんが50歳のときも50本の全国ツアーをやっていてすごいなと思ったりしたんですよ。で……僕は60本やっちゃいますからね。

──ハハハ、そうなんですよ。

そういうことがどこまでできるのか?って感じですけど、「最後まで清春カッコよかった」と思ってもらえるように、まだまだがんばりたいです。若くいたいとかじゃなくて、その年齢ごとのカッコいい自分でありたいですかね。

公演情報

清春 debut 30th anniversary year TOUR 天使ノ詩「NEVER END EXTRA」

  • 2024年3月25日(月)東京都 UNIT
  • 2024年4月11日(木)東京都 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
  • 2024年4月25日(木)東京都 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
  • 2024年4月28日(日)神奈川県 Yokohama Bay Hall
  • 2024年4月29日(月・祝)大阪府 Shangri-La
  • 2024年5月4日(土・祝)東京都 Veats Shibuya
  • 2024年5月6日(月・祝)神奈川県 Billboard Live Yokohama
  • 2024年5月17日(金)大阪府 Billboard Live Osaka
  • 2024年5月24日(金)東京都 Billboard Live Tokyo
  • 2024年6月8日(土)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
  • 2024年6月9日(日)岐阜県 CLUB ROOTS
  • 2024年6月15日(土)山梨県 KAZOO HALL
  • 2024年6月29日(土)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 2024年6月30日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 2024年7月7日(日)東京都 GARDEN 新木場FACTORY
  • 2024年7月13日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2024年7月14日(日)三重県 M'AXA
  • 2024年7月20日(土)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2024年7月27日(土)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2024年8月3日(土)宮城県 darwin
  • 2024年8月10日(土)千葉県 KASHIWA PALOOZA
  • 2024年8月11日(日・祝)千葉県 KASHIWA PALOOZA
  • 2024年8月17日(土)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
  • 2024年8月18日(日)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
  • 2024年8月24日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2024年8月31日(土)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
  • 2024年9月5日(木)東京都 新宿ReNY
  • 2024年9月8日(日)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
  • 2024年9月14日(土)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2024年9月15日(日)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
  • 2024年9月22日(日)和歌山県 和歌山CLUB GATE
  • 2024年9月23日(月・祝)大阪府 ESAKA MUSE
  • 2024年9月28日(土)青森県 青森Quarter
  • 2024年9月29日(日)岩手県 Club Change WAVE
  • 2024年10月5日(土)大阪府 Yogibo META VALLEY
  • 2024年10月6日(日)静岡県 LIVE ROXY SHIZUOKA
  • 2024年10月12日(土)滋賀県 滋賀U★STONE
  • 2024年10月13日(日)京都府 KYOTO MUSE
  • 2024年10月27日(日)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール
  • 2024年10月30日(水)※オフィシャルファンクラブ・INOS会員限定ライブ
  • 2024年11月3日(日・祝)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2024年11月4日(月・振休)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2024年11月8日(金)愛知県 名古屋MUSIC FARM
  • 2024年11月9日(土)愛知県 名古屋MUSIC FARM
  • 2024年11月10日(日)愛知県 名古屋MUSIC FARM
  • 2024年11月16日(土)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
  • 2024年11月17日(日)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
  • 2024年11月23日(土・祝)神奈川県 Yokohama Bay Hall
  • 2024年12月1日(日)神奈川県 SUPERNOVA KAWASAKI
  • 2024年12月14日(土)愛媛県 WStudioRED
  • 2024年12月15日(日)香川県 高松MONSTER
  • 2024年12月21日(土)福岡県 BEAT STATION
  • 2024年12月22日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
  • 2024年12月29日(日)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
  • 2024年12月31日(火)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2025年1月8日(水)東京都 新宿LOFT
  • 2025年1月12日(日)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
  • 2025年2月9日(日)東京都 東京ガーデンシアター

プロフィール

清春(キヨハル)

1968年生まれ、岐阜県出身。1991年にロックバンド・黒夢を結成し、ハードかつ独創的なサウンドで人気を集める。1994年にメジャーデビューを果たし、1999年に活動停止。その後自身のレーベルを立ち上げ、新バンド・SADSを結成する。TBS系ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」の主題歌「忘却の空」を2000年にリリースし、大ヒットを記録。同曲を収録したアルバム「BABYLON」はオリコンチャートの週間ランキングで1位を獲得した。2003年にSADSの活動を停止し、DVDシングル「オーロラ」でソロデビュー。2024年にメジャーデビュー30周年を迎え、3月に11thアルバム「ETERNAL」をリリースした。同月より全国ツアー「清春 debut 30th anniversary year TOUR 天使ノ詩 『NEVER END EXTRA』」を行い、およそ1年をかけて約60公演を実施する。