大好きなアニメを追いかけ回す作詞術

──詞は喜多村さんと河合さんの共作になっていますけど、喜多村さんがタイアップものの詞を書くのって……。

初めてですね。

──なのにすごく職業作家的な詞の書き方をしているのにも驚きました。「掌位」「岐神」「仄」、そして「シドニア」と、作中のキーワードをとにかく盛り込む、本当にアニメソングらしいアニメソングを書いていて。

「シドニアの騎士」のことが好きすぎた結果なんです（笑）。打ち合わせのときに「『シドニア』っていうのはこういう作品なんですよ！」って熱弁を振るってたら、皆さんから「そこまで好きな上に、アニメにも出演しているんだから、喜多村さんも詞を書いてみたらいいんじゃない？」っていうお話をいただきまして。で、好きなアニメの詞を書かせてもらえるうれしさのあまり、ついタガが外れたというか……。

──あはははは（笑）。そのエゴのありようも面白いですよね。タガが外れたなら、もっと喜多村さんの主張したいことも歌っちゃってもいいのに。実際、前のシングル「Birth」ではテーマソングに採用されていたアニメ「神さまのいない日曜日」のテーマとご自身の共通点を見出した上で、山崎寛子さんに作詞を依頼したわけだし（参照：喜多村英梨×小松未可子「キタこし」特集）。

むしろ大好きな「シドニアの騎士」のことを追いかけ回すのが楽しくなっちゃって（笑）。なんかいつもこの話ばっかりしている気がして恐縮なんですけど、やっぱり私は声優アーティストなんですよね。声優としてアニメ制作の現場に深く関わりつつ、そのアニメの楽曲を歌えるのは、アーティスト一本で活動している方々にはない、私ならではの強みだし、そうやって音楽を作れることは私にとってすごく楽しいことなんです。だから「掌 -show-」の詞も私のエゴが丸出しになってはいるんですよ。「今から大好きな『シドニア』のエンディングテーマを歌うからマイクをよこせ！」って感じで書いた詞ですから（笑）。

──あと詞を読んでいてもう1つ気になったのが、アルファベットがほぼ出てこないことなんです。

頭の「Ah…」と、あとタイトルの「-show-」くらいですね（笑）。

──ただ「Ah…」はコーラスだし「-show-」は「掌」の読み仮名だから。詞の本編にはホントにアルファベットや外来語が出てこない。

それも声優アーティストである私が作詞に参加している意味なんだと思ってます。アニメ版の「シドニアの騎士」では街の看板とかメカの操作パネルとか、作品の中に出てくる文字がすべて日本語、ひらがなとカタカナと漢字で描かれていて。セリフも「シェルター」が「格納庫」に書き換えられてたりするんです。映像の中だけじゃなくて、私たちが手にする台本に至るまで、とにかく外国語や外来語を減らしている現場のことを深く知っている私が同じように日本語で詞を書けば、アニメと楽曲をより深くリンクさせられるんじゃないかなって思ったので。

100点を取れることがわかっているテストを解く感覚

──「掌 -show-」は「シドニアの騎士」のテーマソングである一方で、喜多村さんのシングルでもある。実際のところ、そうはなっていないので愚問なのかもしれないんですけど、作品に傾倒しすぎると喜多村英梨らしさが失われるかもしれないというおそれは……。

特にはなかったですね。言葉を選んで、文字を書いているのは私自身だし、歌っているのも私なので。私がやりたい音の真ん中に私の声と私が選んだ言葉があれば、ちゃんと「喜多村英梨」ってクレジットされたシングルになるだろうなって思ってました。あとこれは原作の弐瓶（勉）先生の作品の特徴の1つだと思うんですけど、この作品って実はセリフがあまり多くないんですよ。絵は雄弁にいろいろなことを語っているんだけど、言葉はあまり紡がれていない。そういう作品に私なりの新しい言葉を与えるという表現に挑戦することもできた。今は好きなアニメのことを歌えた上に表現欲求というエゴも満たされた状態というか、なんかすごくスッキリしてます。

──作詞自体はスッキリ進められました？

河合さんが書いてくださった第一稿をエディットするっていう形で書き始めたんですけど、なんというか「これ、100点取れることがわかってるテストみたいなんですけど、解かなきゃダメっスか？」って感じでした（笑）。

──あはははは（笑）。そのくらいスムーズだった、と。

すごく楽しく書けましたし、「6分くらい尺があったらなあ」とも思ってました。もっともっと書きたいことがあったので。

「思いっきりブラックメタルをやってやりました」

──一方カップリングの「Greedy;(cry)」は「掌 -show-」とはまた別種のエゴが働いている1曲ですよね。クワイヤっぽいキレイなコーラスが始まったなと思ったら、突然デスボイスが入って、あとは6分間高速でツーバスを踏みまくるトラックに乗せて、耽美でダークな詞をまあ威勢よく歌っている（笑）。

思いっきりブラックメタルをやってやりました（笑）。ただこの曲は「掌 -show-」とは切っても切れない、「掌 -show-」ありきの曲だと思っていて。アニメのタイアップものでありつつも、私の好きな海外のメタル系、ラウド系っぽい「掌 -show-」を作ることが許されている今だからこそ、発表できた曲なんだろうなって。この曲が1stシングルの「Be Starters!」のカップリング曲だったら「コイツ、何考えてんだ!?」って思われたと思いますし（笑）。

──確かに学園ラブコメの「まよチキ！」のオープニングテーマ「Be Starters!」のカップリングが「Greedy;(cry)」だったらビックリしたと思います（笑）。

ですよね（笑）。でも「Greedy;(cry)」を迷いなくカップリングに選べたのは「掌 -show-」のおかげ。リード曲とカップリングでガラっとテイストが変わるわけではない。どちらもちゃんとメタル系、ラウド系の延長線上にある曲だからですし。で、アレンジについても実はある意味「掌 -show-」と同じなんですよ。やっぱりAメロ、Bメロ、サビっていう歌モノを作るつもりはなかったですし。