ナタリー PowerPush - 喜多村英梨
関係者にして愛読者!究極の“シドニアファン”が見つけた1つの解
「河合さん、短いっス!」
──「Greedy;(cry)」ってAメロ、Bメロ、サビっていう構造から逃れようとしていることがひと目でわかる楽曲ですよね。というのも歌詞カードがすごくイビツなんですよ。A、B、サビっていう展開が2コーラス分あるっていう構成になってないから、段落ごと、ブロックごとの文字量と行数が全部違う(笑)。
あはははは(笑)。「シドニアの騎士」の中で私は仄姉妹っていうクローン人間の声を担当してるんですけど、彼女たちって顔や声は同じなんだけど、それぞれが抱いている感情はバラバラなんです。みんないろんな感情や表情を見せるんですけど、それってクローンの姉妹じゃなくて一個人でも同じじゃないですか。笑っているときもあれば怒っているときもあるし、顔では笑っているんだけど心の中では「コイツ!」って思っているときもあるし。仄姉妹を演じさせてもらったこともあって、そういう感情の移り変わりを音にできないかな?って思ってたんです。私のボーカルや楽器隊の質感や聞こえ方が6分の間、絶えず変化し続ける曲を作りたかったというか。
──そういうお話を作編曲の河合さんにしたら、この凶悪な1曲ができあがってきた?(笑)
あっ、でも最初にいただいたデモの段階では3~4分くらいの曲だったので「河合さん、短いっス!」と(笑)。
──河合さん困ってませんでした?(笑)
「すみません、作曲家人生初の難産です」っていうメールが届きました(笑)。だから改めて密に連絡を取り合って細かく打ち合わせをさせてもらったんですけど、河合さんとはこの曲を制作する前に「掌 -show-」を作っていたので、今回のシングルで私がやりたいこと、提示したい音はわかってくださっていて。最終的には私の思い描いたもの以上の曲ができあがりました。例えば「Greedy;(cry)」って何カ所か詞とメロディが繰り返すパートがあるんですけど、そこも楽器の重ね方やアレンジが全部全然違っていたりしますし。
声優アーティストだから誰にも曲に触らせない
──「掌 -show-」も同じだとは思うんですけど、この詞を書いていたのってアルバム「証×明 -SHOMEI-」の制作時期と……。
ほぼ同時ですね。
──でも「証×明 -SHOMEI-」の収録曲のうち喜多村さんが作詞した「sentiment」や「\m/」(メタルピース)とは明らかに違う。「sentiment」では自身の気持ちを飾らない言葉で歌って、「\m/」ではタイトルからして言葉遊びをしているんだけど……。
その2曲ほど喜多村英梨の人生や、喜多村英梨というキャラクターを反映させた詞にはなってないですね。
──まさにそういう印象を受けたんです。人の感情の移ろいになぞらえて、とにかく展開し続ける曲を作りたかったという話が象徴していると思うんですけど、「Greedy;(cry)」の詞はメッセージ性よりも、言葉を音として機能させることを優先させているんじゃないか。ボーカルをいかにハードに鳴り響かせるかにこだわったのかなって。
もちろんメッセージも盛り込んではいるんですけど、確かに声の響かせ方や質感に対するこだわりのほうが強かった気はします。それも喜多村英梨の開けてなかった引き出しの1つというか、いっぱいあるやりたいことの1つだったので。「sentiment」や「\m/」みたいな詞も私のしてみたい表現の1つではあるんだけど、その一方で声優という仕事の中で培った言葉の選び方や声の質感、発声法みたいなものをメタルサウンドの中で生かしてみたいっていう気持ちもありましたから。だからこの曲って誰にも触らせてないんですよ。
──「触らせていない」?
曲の中で声を発している人が私しかいない曲なんです。主旋(律)はもちろん私ですし、ハモも自ハモ。クワイヤっぽいコーラスも全部私の声だし、あと私はバーサク(荒れ狂った)モードって呼んでるんですけど(笑)、イントロのブレイクに入ってるデスボイスも私の声ですし。それだけに歌録りにはすごい時間がかかってるんですけど(笑)。主旋は順調に録れたんですけど、コーラスだけで5、6パートくらい歌ってみたり、いろんな声の素材を録るのがとにかく大変で。だけどそれだけに愛着がハンパない曲なんですよね。
キタエリ、化粧ポーチの中身を語る
──「自分の声の響かせ方や質感にこだわりたい」といったアイデア、喜多村さん言うところの「引き出しの中身」ってどういうときに補充してるんですか?
これは音に限らずなんですけど、日々生活していて「これスゲーかっけえ!」って思えるものや出来事に出会ったら、それをしまっておくようにはしています。あとはほかのアーティストさんの曲を聴いているとき「こういうテイストの曲に私のボーカルが乗ったらどうなるんだろう?」っていうイマジネーションが湧いてきたら、そのアイデアもしまっておく。で、その引き出しごと普段から持ち歩くようにしているって感じですね。そういう意味では引き出しじゃなくて、化粧ポーチみたいなものかもしれないですね。「今日は化粧直しをしないかもしれないけど」っていう日でも一応カバンの中に化粧ポーチを入れておくように、使う / 使わないはひとまず置いておいて、常にアイデアのストックを持っておくようにしているので。次の曲を作るときに絶対に使うっていうわけではないんだけど「今だ!」っていうタイミングがいつ訪れてもいいように。その瞬間アイデアを取り出せるようにしておきたいんです。
──じゃあ今後、化粧ポーチの中から何が飛び出てくるのかは……。
「お楽しみに」って感じですね(笑)。「掌 -show-」と「Greedy;(cry)」を通じて喜多村英梨の核心に近いサウンドを提示できた今だからこそ、このままステップアップしていって“喜多村節”みたいなものを確立できたらいいなと思っている一方で、階段を登った先の道がもし分岐していたら「あっ、左にも行けるんだ」って感じで、また新しいことを始められたら面白いだろうなとも思ってますし。
- ニューシングル「掌 -show-」/ 2014年5月14日発売 / スターチャイルド
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1944円 / KICM-91517
- 通常盤 [CD] 1234円 / KICM-1517
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CD収録曲
- 掌 -show-(テレビアニメ「シドニアの騎士」エンディングテーマ)
- Greedy;(cry)
- 掌 -show- off vocal ver.
- Greedy;(cry) off vocal ver.
初回限定盤DVD 収録内容
- 掌 -show- Music Clip
喜多村英梨(キタムラエリ)
「キタエリ」の愛称で知られる声優、ボーカリスト。2003年に声優としての活動を開始し、出演作品は「フレッシュプリキュア!」「魔法少女まどか☆マギカ」など多数。歌手としては2004年4月にデビューを果たし、2011年にスターチャイルドに移籍。3枚のシングルがヒットを記録し、2012年7月にリリースした1stフルアルバム「RE;STORY」はオリコン週間アルバムランキング最高5位をマークする。同11月には4thシングル「Destiny」を、2013年1月に5thシングル「Miracle Gliders」を、8月には6thシングル「Birth」を、そして2014年4月に2ndフルアルバム「証×明 -SHOMEI-」を発表。さらに翌5月にはアニメ「シドニアの騎士」エンディングテーマとなる7thシングル「掌 -show-」をリリースした。