オンラインの可能性に気付かされた
──「氣志團万博」は、出演者がただ自分のスロットに出演するだけじゃなく、「氣志團万博」だけの特別なステージを見せてくれる場として定着してきたわけですけど、それが配信でもちゃんと実現できていたということですね。
そこは本当にありがたかったですね。演者としても、とても刺激になるステージばかりでした。今年の「氣志團万博」以降、オンラインライブへの抵抗がなくなって、自身でもやるようになったとおっしゃってくれた方もいて。「氣志團万博」が、オンラインでもライブをやることで、こんなに喜んでくれる人がたくさんいるんだってことに気付いてもらえるきっかけに少しでもなれたんだとしたら、それは音楽業界全体のことを考えても、すごくやった甲斐があったと思いますね。始める前は不安しかなかったですから。
──具体的に、どういう不安が大きかったんですか?
何をもって成功とするのか、そのゴールがわからないのが一番の不安でしたね。ただ、これはあくまでも自分の体感ですけど、今回はこれまで毎年「氣志團万博」に来てくれていたお客さんだけじゃなくて、その外側にいたお客さんにも「氣志團万博」を広げることができた気がするんです。これまで、例えば去年、新しい地図の御三方に出ていただいたときのように、ファンの方は膨大な数がいるけれど、そのファンの中にはフェスに行ったことがないお客さんもたくさんいて、それで二の足を踏んでしまう人もたくさんいたようなこともあったと思うんですよ。でも、それがオンラインということで、わりと気軽に観てもらえたんじゃないかなって。例えば渋谷すばるくんを目当てに今回観てくれた人が、女王蜂のライブを観てびっくりする。逆もしかり。キッシーズもモノノフも腹ペコもジッターも清掃員も、みんなで好きをシェアしあえる世界。みんなが好きを肯定し合い、みんなの好きが浸透……いや、むしろ蔓延のほうがニュアンス近いかな。そんな楽園作り。自分が「氣志團万博」でやりたかったことはそういうことなので。
──オンラインフェスにはオンラインフェスの可能性があるってことですね。
そうなんですよ。今年こんな状況になって、その中でどうしても「氣志團万博」を止めたくないという思いでやったことなので、自分としてはあくまでも今年1回限りのつもりで開催したわけです。でもこの段階では今後のこともわからないですし、来年の「氣志團万博」をどうするかということとは別にしても、オンラインの可能性にいろいろ気付かされることがあって。だから、今回の「氣志團万博」はほかでオンラインライブやオンラインフェスをやってる方々にも参考にしてもらいたいし、そこにシェアできる情報があったら、自分としてはいくらでもシェアしたいと思ってます。
「いつか袖ケ浦に来てあの風景を見てください」
──カメラワークなどの技術面でも、ライブハウスからの配信という環境でできる可能性を大きく広げるものになっていて、そこにはとても感心しました。
ありがとうございます。実際のフェスでもそうでしたけど、オンラインフェスも、やっぱり一度やってみると、いろいろな新しいアイデアも浮かんできますし、新たに試したいこともたくさん出てくる。そういう意味では「氣志團万博」にとってだけでなく、我々氣志團にとってもすごく実りのあるものになったんですよね。オンラインという場で、もっともっと面白いことができそうだなって。
──単純に、来年の「氣志團万博」はリアルとオンラインで同時にやりたいということではなくて?
そうですね。特にフェスの場合は、配信はやりたくないというアーティストの方もいますし、それはもちろん尊重すべきなので、リアルとオンラインは別のものとして考えなければならない部分もあって。とは言え、乗り越えられる方法もないわけじゃない。だから今は、いろんな可能性が広がったという感じですね。
──フェスって物語じゃないですか。特に「氣志團万博」は、ももクロにせよ、HYDEさんにせよ、岡崎体育さんにせよ、その物語を引き受けてステージに立ってくれるアーティストがたくさんいるフェスですよね。そういう意味でも、今年どういう形にせよこうして止まらなかったのは、とても大きいんじゃないかなって。
何もわからない中で「やらないという選択肢はない」というところから始めたわけですけど、本当にそれはよかったと思ってます。
──今後の「氣志團万博」の継続性という点からも、今回の収益については気になります。たぶん何もわからない中でも、収支的に最低限のラインと、そのうえでの目標値というものがあったと思うんですけど。
おかげさまで、最低限のラインというのはかなり早い段階で超えることができて。苦境にあるライブハウスやライブのスタッフにちゃんと還元することも目的の1つでしたから、そこはまずホッとしました。ただ、僕はいつも最悪のことも考えながらも目標は高く設定するので、残念ながらそこには全然届かなかったです(笑)。でも、きっと自分以外の周りの人たちが予想していたよりは、いい結果が出せたんじゃないかなって。後悔する点があるとしたら、プロモーション。誰もが初めてのことにビビりすぎていたんでしょうね。宣伝予算が少なすぎた気がします。もっとしっかりとした宣伝ができていたら、さらに多くの人に観てもらえただろうなって。こういう部分は運営に任せきりだったので、とても反省しましたし、そういうことも含めてすべてが勉強になりました。逆に、ビビってたからこそ、早い段階で配信にシフトして実現することができたという面もありますしね。
──ただ、「氣志團万博」のアイデンティティという意味では、やっぱりオンラインだと地域性が出せないという問題もありますよね。
本当にそうなんですよ。自分は今年、一度ライブハウスから配信でやると決めてからは、もう前しか向かないって気持ちでやってきたんですけど、そんな中で初出演してくれたサンボマスターはちゃんと千葉にこだわった演出を準備してきてくれたりして、あれを見てちょっと我に返るようなところもありました(笑)。配信したライブハウスの現場では、もちろんすべてのアーティストのライブを観させていただいたんですけど、特に今回初出場の方々には、来年以降、いつか袖ケ浦に来てあの風景を見てくださいって話はさせていただきました。あと、毎年話しているように、バックステージでいろんなアーティストがワチャワチャ交流してくれるというのも、僕にとって「氣志團万博」の一番の喜びで、入れ替わり立ち替わりライブハウスに来ていただいた今回はそれがどうしても叶わなかったので、そこは翼をもがれたような気持ちになりましたね。
今はピンチをチャンスに変えることができるタイミング
──でも、今日は全体的にすごく前向きな話ができて安心しました。今年、「氣志團万博」がオンラインフェスとして開催されると発表されたときは、裏ですごく大変なことになってるんだろうなと思っていたので。
いや、本当に大変なことになっていて、実現したくてもできなかったことも山のようにあったんですけど、なんとか自分は目標に向かって走りきることができて、そのまま今も走り続けている感じです。問題はうちのメンバーですよ。彼ら、本当に家にいすぎていて、今回の準備でひさびさに会ったときにはもう氣志團でもなんでもない、普通のおじさんたちになってましたから(笑)。僕は氣志團にとって、今はピンチをチャンスに変えることができるタイミングだと思ってるんですよ。今回配信でいろいろやってみて、もしかしたら俺らはこの環境にけっこう合ってるんじゃないかなって。
──ステージでやってる小ネタとか、生で観てるとよくわからないこととかありますしね(笑)。
そうそう。カメラが寄ってくれるからこそ伝わるようなこともあるので。フェスやイベントを作る立場としても、今年はできませんでしたが、中継だったり、収録だったりを使うことで、さらに広く新しくつながることができるアーティストの方もいるんじゃないかなって。今はそういう新しい可能性のことばかり考えてますね。デビュー以来ずっと途絶えていたインプットも、1日中Nintendo SWITCHやるかAmazon Prime VideoやNetflixを観るという生活を送ってたステイホーム期間に、めちゃくちゃできましたからね。
──もともと翔さんは、鬼のように膨大なインプットを携えてデビューしたわけですからね。
それなのにこんなアウトプットしかない人生を何年も送ってきて、その間ずっと若い頃インプットしてきた貯金を切り崩してきた(笑)。それがちょうど空っぽになっていたところだったんです。
──来年は氣志團にとってデビュー20周年、「氣志團万博」も10回目と、めちゃくちゃデカい年ですよね?
そうなんですよ! 俺たちこれを逃すとアニバーサリーイヤーをあと10年待たなくちゃいけなくなる(笑)。本当は今年からいろいろ仕込んで、来年に向けて華々しい活動をしなくちゃいけなかった。そのことを考えると、もうニヤニヤと薄笑いするしかないですね。もうどうしたらいいのかわからない(笑)。
──ダメじゃないですか(笑)。
いや、「氣志團万博」をやったおかげで目が覚めましたよ。だから、とりあえず普通のおじさんになってしまったメンバーの目を覚まさないと(笑)。