氣志團万博2020 ~家でYEAH!!~|やらないという選択肢はない、その思いから動き出したオンラインフェスの全貌

氣志團の主催により千葉・袖ケ浦海浜公園で毎年行われてきた野外フェスティバル「氣志團万博」。今年は9月26日と27日の開催が2月に発表されたものの、その後の新型コロナウイルス感染拡大により音楽業界、ライブシーンを取り巻く状況は一変した。開催日発表から5カ月を経た7月、今年の「氣志團万博」は東京都内のライブハウスにて1日限りのオンラインフェスへと形を変えて行われることがアナウンスされ、「氣志團万博」の開催を待ちわびていたファンを安堵させた。この1日限りのフェスには例年通りの豪華なアーティストが多数集結し、個性的なパフォーマンスを披露。配信を通じて「氣志團万博」の魅力を全国に届けることに成功したと言えよう。

台風直撃を受けて開催が危ぶまれた昨年に続き、今年も未曾有の事態に襲われた「氣志團万博」。オンラインでの開催を決めるまでの経緯、この形で「氣志團万博」を開催した意味、フェスを終えての現在の思いなどを、綾小路 翔(Vo)に存分に語ってもらった。

取材・文 / 宇野維正

とりあえず一歩踏み出さないと、完全に空白の1年になっちゃう

──今回、翔さんはかなり早い段階で例年通りの開催は無理だと判断されたと聞いています。フェスは、開催の決定、出演者のブッキング、出演者やタイムテーブルの発表、チケット発売とさまざまな段階があるわけですが、今回はブッキングと出演者発表の間での決断になったわけですよね?

綾小路 翔(氣志團)(撮影:上山陽介)

それでいうと、僕が一番粘るのはブッキングで、どうしても動かない山にどうやったら動いてもらえるか、その最終決断をどこまで待てるか。そのせめぎ合いの中で毎年やってきたというのが正直なところなんですけど、今年は第1弾発表を4月にすることは決めていて、それに向けて動いていたら、2月、3月とだんだん雲行きが怪しくなってきて。もともと今年はオリンピックの関係で資材の準備が間に合いそうになかったり、木更津の花火大会(木更津港まつり花火大会)とかの地域イベントも全部後ろ倒しになっていたりで、例年よりも1週間遅い日程で2日間での開催を予定していたんですよ。

──ただでさえオリンピックでいろいろなしわ寄せが来ていたうえに、新型コロナウイルスが来てしまった。

そうなんですけど、例年より1週間遅かったこともあって、悩める時間の余裕ができたという面もあったんです。7月や8月に予定されていたフェスの多くは、開催までの時間的にそういうわけにはいかなかったと思うんですけど。自分の頭の中には「中止」という文字はなかったので、どんな形でも開催する方法を探っていく中で、とりあえず2本のラインを走らせようと思ったんです。それが3月の終わりくらいですね。

──2本のラインというのは、例年通り袖ケ浦海浜公園で開催するパターンと、オンラインで開催するというパターンですよね?

そうです。その時点で通常開催は無理だろうとは思ってましたが、無観客の可能性も含めていつもの場所でやるか、オンラインでやるか。これはほぼほぼ直感みたいなものだったんですけど、いずれにせよけっこう早い段階でお客さんは入れられないだろうとは思ってました。

──昨年の「氣志團万博」開催後のインタビューでは、開催直前に現地を大型台風が襲ったことで、フェスを決行するかしないかの決断を迫られたときの葛藤について詳しく話していただきました(参照:「氣志團万博2019 ~房総ロックンロール最高びんびん物語~」綾小路 翔インタビュー)。結果的に昨年の「氣志團万博」は大成功に終わったわけですが、そのときに経験したさまざまなことが、今回の早い決断を促したところもあったんじゃないですか?

それは確かにあると思います。昨年は本当にいろんな要素が入り組んでいる中で最終的に判断させてもらったわけですが、今回の敵はちょっと強すぎたので。昨年史上最強の敵と戦って、それをなんとかどうにか乗り越えたはずだったのに、「え? まだ出てくんの?」って。もうこれ、「少年ジャンプ」なんじゃないかな?って。

──次から次へとラスボスが出てきて敵がインフレ状態になるという(笑)。

まさにそう。こんなことあるのかって。ただ、開催5日前に台風が襲ってきた昨年と違って、今年は時間だけはあった。世界を救うことはできないけれど、日本のエンタテインメント、日本のバンド業界の中で、とりあえず何か一歩踏み出さないと、完全に空白の1年になっちゃうんじゃないか、何かを起こす必要があるんじゃないかなって。ただ、その時点で有料のオンラインフェスというのがどういうものになるのか、まったく想像もつかなかった。サザン(オールスターズ)や(山下)達郎さんのようなレジェンド的大先輩が先駆ける形でライブや過去のライブ映像を有料配信されていて、動いてくれたのは大感動したし、大変勉強になったんですが、冷静に考えると我々のようなバンド主催のフェスの場合、必ずしも当てはまることばかりではないことにも気付いて。

──フェスとなると、その時点ではまったく前例がなかったわけですからね。

どう考えても有料にするしか方法がないだろうとは最初から思ってました。むしろ今後の音楽業界のためにも有料でやるべきだとも。でも、いったいいくらにすればみんなが観てくれるのかまったくわからなかったから、予算組みができないんですよ。でも、これまで20年間バンドをやってきて、いろんなところに顔を出してきた甲斐もあって、こんな前例がない試みに何社もスポンサーさんが付いてくれることになって。ようやく現実的に動き出すことができた。ただ、オンラインフェスのチケットを売るのって、本当に大変なんですよね。

──通常のイベントでは発売日に券売が大きく動くわけですけど、オンラインの場合は一番売れるのは開催直前だと最近よく聞きます。

HYDE(Photo by Ryuya Amao)

そう。動きが真逆なんです。でも、だからといって開催前日に何万枚も売れるかっていったらそうとは限らなくて、きっと段階を踏んでいくことが大切なんですよね。なのに、今回はほとんどを最初に一気に発表しちゃったんですよ。もう1カ月前ということもあって、焦っちゃって(笑)。

──同じオンラインライブでも、きっとフェスならではのやり方があるんでしょうね。

そうなんです。オンラインフェスだと、それこそ「FNS歌謡祭」や「音楽の日」みたいなテレビの音楽番組とも比べられることになってしまう。あんなに出演者が豪華なテレビの音楽番組がタダで観られるのに、どうしてオンラインフェスに5000円も6000円も払うんだ、って。もちろん、中身は全然違うわけですけど、そう考える人の気持ちもわかるんです。そこで自分がこだわりたかったのは、そういうテレビの音楽番組とは別次元のカメラワークや照明やセットで。正直、そこのクオリティに達しているオンラインライブってまだないなって思ってたんですよ。

──オンラインフェスならではの強みをどこに置くかってことですよね。

本当は、毎年やっているあの袖ケ浦の会場から中継したかったんです。でも、それは制作費的にもありえないし、時期的にも関係者だけとはいえそれだけの人を1カ所に同時に集めるのは行政の許可が下りないだろうって。あと、生配信で場所が特定されちゃうと、会場の周りにも人が集まる可能性もあるわけで。

──なるほど。

だったら、「誰にもわからない場所でやろう」と思って、山奥にリサーチに行ったり、いろいろゴチャゴチャやってたんですけど、結局ゼロからステージを組むことになったら、膨大なお金がかかることがわかった。それで、一番身近な場所であり、今一番大変な思いをしているライブハウスから配信するということに頭を切り替えることにしました。それと、配信する時間の問題もあって。いつものフェスだったら、朝10時前に始まって、夜9時前まで半日ずっとやっているわけですけど、それって、現地でお客さんがごはんを食べたり、あちこち移動したりと、そういう時間を含めた長さなわけで。それと同じ時間、テレビやパソコンの前にいてもらうことは、どう考えても現実的じゃない。それで、どうしてもスロット(出演枠)も限られることになって。

アーティストそれぞれでライブへの向き合い方は違う

──結局、氣志團を含めて全15組が出演したわけですけど、これはもともと今年予定していた「氣志團万博」の2日間に出演する予定だったアーティストの中からの全15組ということですよね?

いや、オンラインフェスに切り替えてからオファーをした方も中にはいます。当然、予定していた出演者の中にはいろいろな計画や事情を抱えている方々がいらして、生配信ライブは難しいという方もいました。それは仕方がないことだと思います。

EXITとDJ OZMA。(撮影:上山陽介)

──でも、結果的に森山直太朗さん、ももいろクローバーZ、東京スカパラダイスオーケストラ、ゴールデンボンバー、HYDEさん、Dragon Ashといった常連組、米米CLUBのようなレジェンド枠、サンボマスター、瑛人さん、EXIT、女王蜂のような初出演枠、渋谷すばるさんのようなヤメジャニ枠と、非常に「氣志團万博」らしいというか、「氣志團万博」でしかあり得ないバランスのラインアップになりましたよね。

ヤメジャニ枠って……そんな枠ないですから!(笑) とにかくオンラインだろうがなんだろうが、ちゃんと「氣志團万博」にしないといけない!という強い思いがあって。ただ、何しろすべてが初めてのことですからね。誰もがおいそれと乗っかれるわけではなく、ポリシー的なものも含め、静観する、という姿勢の方たちが決して少なくなかったのも事実です。だからこそ今年を成功させて、来年こそ安心して出てもらおう!という前向きな気持ちにつながりました。

──ダイブやモッシュのないライブはライブじゃないという考え方もわかります。

岡崎体育(撮影:上山陽介)

そりゃあできるものならねえ、思いっきりやらせてあげたいけれど、今最も許されないことだからねえ……だからこそ、演者としての真価が問われるときが来ましたよね。ディスプレイの向こう側にいる人や、無言で着席している観客をどう楽しませるのか、という。ノリや温度ではごまかせないので。かと思えば、ものすごく演奏のうまいバンドから「編集ができるならいいんだけど、生配信は……」とか意外なことを言われたりすることもあって(笑)。あれはびっくりした。かわいいかよ!って(笑)。本当にアーティストそれぞれ、ライブへの向き合い方が違うんだなってことを知る貴重な経験になりましたね。あと、例えば岡崎体育くんも、聞くところによると「配信だと自分のライブの面白さが出せないんじゃないか」って若干ナーバスになっていた時期もあったみたいなんですけど、土壇場になって「いいアイデアが思いついた」「配信で『氣志團万博』に出る理由が思いついた」って言ってくれたんです。それで出てくれることになったり。

──画面にパソコンの文字を映し出したりと、配信ならではの仕組みを駆使したステージになってましたよね。

最高でしたね。ホント天才。でも、「あれはここでしか使えない技で、ほかでもやるとパターン化されちゃうから、今回は『氣志團万博』以外のフェスには出ません」って(笑)。グッと来ましたね。あと、例えばHYDEさんはその前にご自身のオンラインライブでいろいろなノウハウを蓄積されていて、「氣志團万博」では何の打ち合わせもしていないのに、まるで魔王のごとくカメラをすべて自分で操るというとてつもないライブを見せてくれて。そうやって、皆さんがいろんな底力を見せてくれる場になっていました。