「氣志團万博2018」特集|平成最後の「万博」を終えて綾小路 翔が思うこと

氣志團主催の野外フェスティバル「シミズオクト Presents 氣志團万博2018 ~房総爆音爆勝宣言~」が、9月15日と16日に千葉・袖ケ浦海浜公園にて行われた。

同会場では7回目の開催となった今年も、ベテラン勢から常連組、フェスに新たな風を吹き込む若手まで幅広い年代とジャンルのアーティストが集結した。昨年の氣志團結成20周年のアニバーサリーイヤーを経て、夏の終わりの風物詩として定着しつつある「氣志團万博」だが、首謀者・綾小路翔(Vo)は今後の展開についてまだまだ新たな意欲を抱いているようだ。平成最後の「氣志團万博」を終えた綾小路に現在の心境を語ってもらった。

取材・文 / 宇野維正 メインカット撮影 / 青木カズロー

まだ「氣志團万博」はいろんなことが足りてない

──9月15日、16日の開催からちょっと時間が経ってしまいましたが、今年も「氣志團万博」を振り返るインタビューをさせていただきます。今年もステージ上はもちろんのこと、ステージの裏でも本当に1日中走り回っていましたが、あのあとオフは取れましたか?

それが、その後もずっといろんなイベント続きで。和田アキ子さんの50周年記念ライブ(「AKIKO WADA 50th ANNIVERSARY『WADA fes.』~断れなかった仲間達~」)や、HYDEさんのハロウィンパーティ(「HALLOWEEN PARTY 2018 supported by XFLAG」)や……。

──「氣志團万博」を続けてきたことで、お声がかかったら出ないわけにはいかないイベントも増えてきている(笑)。

綾小路翔(中央)(撮影:青木カズロー)

それはそうですよ! ももクロ(ももいろクローバーZ)さんにもし何か頼まれたら、もうどこからでも馳せ参じますから(笑)。それはもう、戦国時代の大名が、何か戦があったら駆け付けるみたいなものですね。逆に、いわゆるロックフェスからはあまりお呼びがかからなくなってきて、今年いわゆるロックフェスに出たのは1つかな。いよいよロック界から切り離されつつある(笑)。僕ら、どんなところに出て行っても全力ですっごくいい仕事するんですけどね。ちゃんと全体を見て、そのイベントに何が足りていないかっていうのを的確に判断して、「これだ」というものをちゃんとやる。もしかしたら、そういう用意周到すぎるところが嫌がられているのか(笑)。「氣志團万博」をやっていると、今度は出演者の立場になっても、呼んでもらったイベントにどうやったら恩返しができるかとか、すごくよくわかるようになっちゃったんですよ。体力的には今のほうが大変なのに、今のほうが大変なことをやってるんですよね(笑)。

──「氣志團万博」をスタートされた頃の翔さんは、主催者側も出演者側もビジネスライクになってきているフェスシーンへのカウンター的なものをやりたいとよく言ってましたよね。そういう意味では、アーティスト主催フェスを中心にけっこうフェスシーン全体の空気も変わってきたような気がしていて。そういう機運が生まれる大きなきっかけになれたんじゃないですか?

無駄にハードルを上げてしまったとも言えますね。「あれ? ケータリングってこんなにがんばんなきゃダメなの?」とか(笑)。

──そこは相変わらずぶっちぎりですよ(笑)。

でも、たまに大きなイベントに出してもらうと、ヘコむことだらけですよ。まだ「氣志團万博」はいろんなことが足りてないんだなって。そういう場で、自分たちにしかできないことはなんなのかってことを改めて考えさせてもらったり。「氣志團万博」の最初のコンセプトは「知らないアーティストを知らないままで終わらせてほしくない」「聴かず嫌いをしてほしくない」ってことでしたから。そのために煽りV(出演者の登場前に流れる紹介ビデオ)にもすごく力を入れてきて。そういう気持ちが、ちょっとずつは伝わってきたのかなって実感はあります。

細分化されたジャンルとジェネレーションのギャップをどう埋めるか

──そういうフェスを主催するアーティストのキュレーション力って、日本だけでなく、世界的にも今とても重要になってきていて。今夏のアメリカを見ていると、ビッグネームを集めた大型フェスがチケットが売れずにいくつも中止になった一方で、そこまでビッグネームではないアーティストのキュレーションが行き届いたフェスがあっという間に完売になったりっていう状況なんですよね。

なるほどねえ。「氣志團万博」が抱えてきた難しさっていうのは、アーティスト主催フェスでありながら、ジャンルがバラバラなことなんですよね。日本の状況を見ていると、やっぱりジャンルで固まったフェスが強いんですよ。例えばラウド系やパンク系のフェスだったら、思う存分にダイブもできるしモッシュもできるしってことで、お客さんが安心して参加することができる。「人気者を集めただけのフェス」だと、よっぽどうまくやらないと、いわゆる“地蔵”が出現することになる。

──お目当のアーティストの出番待ちのお客さんが、前方にずっと陣取っちゃうやつですね。

普通にやるとそうなるんですよ。すごいアーティストにはすごいファンが付いてるので。だから、大切なのは結局のところ、そのフェスそのものをどれだけ愛してもらえるかにかかっているんですよね。

──そういう意味では、氣志團万博は年々そういう信頼感を増してきているように、現場にいてヒシヒシと感じます。

ありがたいことですね。

──ただ、それでも昨年はわりと1日目は若手のパンク / ラウド系、2日目はベテラン大御所系って感じで分かれてましたよね。それが、今年またミックスされていた。その理由は何だったんですか?

BiSHのステージの様子。(撮影:釘野孝宏)

やっぱり客層がわりときっぱり分かれちゃったんですね。昨年やってみて面白かったのは、パンク / ラウド系の日には、これまで来てくれなかった地元の若い子がたくさん来てくれたんですよ。木更津とかに住んでると、そっち系の若いバンドを見る機会があまりないみたいで、彼らは喜んでくれたんですけどね。

──大人からすると、木更津から東京なんてアクアラインですぐって感じですけどね……。

地元の10代の子たちにとっては、そこに大きな壁があるんですよ。今年、準備のために前々日からずっと木更津のホテルに泊まっていて、夜にふらっと地元の居酒屋に行ったんです。そこで、地元のギャルたち──と言ってもそこそこ年はいってたんですけど(笑)──が大騒ぎしていて、見つかっちゃったんですね。「もしかして、氣志團じゃね?」って(笑)。でも、彼女たちは1人もその週末に「氣志團万博」があることを知らなかったんですよ。「なんで来てんの?」って(笑)。いやー、まだまだだなって。

──駅にポスターとかは貼ってないんですか?

いや、地元民たちは何をするにも自動車に乗っていて、家から職場まで完全にドアトゥドアで生きていて、1日に5分くらいしか歩かないものなんですよ。

──そうかあ。

そういう方たちにも気付いてもらうためには、まだまだやるべきことはたくさんあるなって。その意味では、地元の若い子がたくさん集まってくれた昨年の1日目はとてもよかったんですけど、やっぱり自分がやりたいことは、そういう子たちにも伝説の人たち、今年で言うならTHE ALFEEみたいなレジェンドのライブを体験してもらいたくて。「氣志團万博」をやり始めた頃は自分と同世代とか、それこそ地元の先輩とかに、「オレ、やりましたよ! こんなすごい人、木更津に呼んじゃいましたよ!」みたいな気持ちがあったんですけど。

──故郷に錦を飾る、的なやつですね?

はい。でも、その気持ちはもうなくなって。

──というか、呼ぶべき人はほとんど呼びましたもんね。

まあ……そうと言われればそうなんですけど(笑)。でも、これまでほとんどほかのフェスには出てこなかった方々を呼びたい、という気持ちは今もすごくあって。

──それはずっと言ってましたよね。

そういう人たちにどうやって出てもらうかっていうのは、自分がフェスをやってる醍醐味の1つなんで。あと、これだけ細分化されてしまったジャンルとジェネレーションのギャップみたいなものを、どうやって埋めていくかっていう。

シミズオクト Presents 氣志團万博2018
~房総爆音爆勝宣言~

氣志團の主催で9月15日、16日に千葉・袖ヶ浦海浜公園にて行われた野外フェスティバル。2003年と2006年に氣志團の大型野外ライブとして開催された「氣志團万博」が、2012年より会場を袖ヶ浦海浜公園に移し、フェス形式で行われるようになった。現在の形式では7回目の今年は2日間合わせて34組が出演。氣志團は万博史上初の両日大トリを務めた。

出演者

9月15日

YASSAI STAGE

森山直太朗(OPENING CEREMONY ACT) / SiM / JUN SKY WALKER(S) / レキシ / Dragon Ash / 和田アキ子 / マキシマム ザ ホルモン / 氣志團

MOSSAI STAGE

オメでたい頭でなにより(WELCOME ACT) / KEYTALK / 岡崎体育 / 04 Limited Sazabys / coldrain / BiSH / 竹原ピストル / 打首獄門同好会

9月16日

YASSAI STAGE

AMEMIYA(OPENING CEREMONY ACT) / ゴールデンボンバー / グループ魂 / 東京スカパラダイスオーケストラ / ももいろクローバーZ / 10-FEET / HYDE / THE ALFEE / 氣志團

MOSSAI STAGE

DJダイノジ(WELCOME DJ) / ベリーグッドマン / LiSA / ORANGE RANGE / the GazettE / 森山直太朗 / ヤバイTシャツ屋さん / MIYAVI

番組情報

WOWOWにて「氣志團万博2018」を12時間にわたり独占放送決定!

初日

  • 前編WOWOWライブ
    2018年11月23日(金・祝)12:00~
  • 後編WOWOWライブ
    2018年11月23日(金・祝)15:00~

2日目

  • 前編WOWOWライブ
    2018年11月23日(金・祝)18:00~
  • 後編WOWOWライブ
    2018年11月23日(金・祝)21:00~
氣志團(キシダン)
1997年に千葉県木更津で結成。メンバーは綾小路翔(Vo)、早乙女光(Dance & Scream)、西園寺瞳(G)、星グランマニエ(G)、白鳥松竹梅(B)、白鳥雪之丞(Dr / 2014年3月より活動休止中)の6名。“ヤンクロック”をキーワードに、学ランにリーゼントというスタイルでのパフォーマンスが話題を集め、2001年12月にVHSビデオで“メイジャーデビュー”を果たす。「One Night Carnival」「スウィンギン・ニッポン」などヒット曲を連発し、2004年には東京ドームでのワンマンライブも開催。2012年からは地元千葉県にて大規模な野外イベント「氣志團万博」を主催し、ほかのフェスとは一線を画するラインナップで多くの音楽ファンの支持を集めている。結成20周年を迎えた2017年8月にはら豪華アーティストの楽曲提供によるアルバム「万謡集」を発表。今年8月、「氣志團万博2018」公式テーマソングの「週末番長」をシングルリリースした。