氣志團「THE YⒶNK ROCK HERØES」インタビュー|ヤンクロック界のアベンジャーズ、ライブ活動休止直前に放つ充実のニューアルバム

氣志團のニューアルバム「THE YⒶNK ROCK HERØES」が元日にリリースされる。

氣志團がオリジナルアルバムを発表するのは2017年8月発売の「万謡集」以来。しかし「万謡集」はさまざまなアーティストからの提供曲を収めたアルバムのため、純粋なオリジナル作品のリリースは2016年1月発売の「不良品」以来、実に7年ぶりとなる。

ひさびさの新作リリース、そして同時に発表された1月3日の東京・日本武道館でのワンマンライブ開催はファンにとってうれしい話題となったが、11月には綾小路 翔(Vo)が声帯炎治療とリハビリに専念するため武道館ライブを最後に無期限のライブ活動休止に入ることを発表(参照:氣志團が武道館公演を最後にコンサート活動休止、綾小路翔の声帯炎治療のため)。このアルバムと武道館ライブが、今後の氣志團の方向性を示すものとなることは間違いないだろう。

音楽ナタリーではアルバムを完成させた氣志團のメンバー全員へのインタビューを行い、ライブ活動の休止やニューアルバムについての話を聞いた。彼らの言葉は充実感と希望に満ちた、武道館後も前向きに進んでいくことを予感させるものだった。

取材・文 / 宇野維正撮影 / 斎藤大嗣

丈夫さにかまけて長年負担をかけてきたツケ

──純粋なオリジナルアルバムとしては7年ぶりとなる「THE YⒶNK ROCK HERØES」、大変楽しませていただきました。でもこれ、1月3日の武道館公演の直前のリリースですよね。せっかくこれだけ充実した作品が完成したのに、お客さんは聴き込む時間がほとんどないんじゃないかと。

綾小路 翔(Vo) 本当は11月に出すつもりで動いてたんですけど、自分のことでいろいろあってレコーディングが遅れてしまって。でも、武道館の前に聴いてなくても大丈夫! 氣志團のGIGはいつだって予習いらないんで!

氣志團

氣志團

綾小路 翔(Vo)

綾小路 翔(Vo)

──心配している方も多いと思うので、最初に先日「コンサート活動無期限休止」の発表をされた翔さんのコンディションについてお伺いしていいですか?

綾小路 最初に喉に異変を感じたのは2021年のライブハウスツアーが始まってしばらくしてからだから、昨年の4月くらいだったんです。なんかリハで急に声が出づらいなって感じるようになって。まあ、20年ずっとやってれば、こういうこともあるのかなって思ってたんですが。以前も本番中に声帯出血をしてしまい、なかなかのジャイアンリサイタルをかましてしまったこともありましたしね(笑)。

──でも、今回も含め、ステージに穴を開けたりとかはなかったですよね?

綾小路 はい、それはなかったんですけど。ただ、今回は徐々に徐々に違和感を覚えるようになっていって。今回のアルバムのデモを録ってるときに、いよいよこれはマズいぞと。

西園寺 瞳(G) レコーディングのときが一番しんどそうだったよね。

綾小路 そう。レコーディングに支障が出るようになってきたので、いろいろな病院で検査を受けたり、いろいろな治療やお薬を試したりして。その間にも、ライブやイベントにお呼びがかかることも多くて、1回きりのステージだったら乗り切れる謎のスキルみたいなものも身に付けてきてたんですけど、これはどっかで一度止めて治療に専念しないとヤバいなって。本当は今度の武道館のあとにアルバムツアーも予定していたんですが、それはちょっと「ごめんなさい」することにして。

──アルバムの制作費をツアーで回収しないといけないこの時代に。

綾小路 本当にそうですよ。レコード会社にとってはたまったもんじゃない。めちゃくちゃな大打撃を与えてしまった(笑)。でも、この先のことを考えると、どこかで1回歌唱そのものを休止して、喉の治療やトレーニングやリハビリをしないと、もう持たないかもしれないというところまできてしまったので。

──何か大きな手術をするとか、そういうことではないわけですね?

綾小路 はい。写真を見ても一目瞭然なんですけど、声帯の形状自体はとてもキレイだってどのお医者さんからも言われてるんですよ。でも、その丈夫さにかまけて長年負担をかけてきたツケが回ってきたんでしょうね。だから、とりあえずしばらく歌唱活動だけは止めて。体は全然元気なので、ほかの活動はいつも通り続けていくということにしたんです。

西園寺 瞳(G)

西園寺 瞳(G)

早乙女 光(Dance & Scream)

早乙女 光(Dance & Scream)

バンドの中での役割を明確にイメージして作ったアルバム

──メンバーの皆さんは、今回の翔さんの件をそれぞれどのように受け止めているんでしょう?

星グランマニエ(G) 何かやるってなると全力でしかやれない人なので、ここはちゃんと休んだほうがいいと思いましたね。

西園寺 隣で見てて「しんどそうにしてるなあ」とは思ってたんですけど、そういうのって、メンバーに言われると逆に気にしちゃうじゃないですか。だから去年とかは言わないようにしてて。でも、今年に入ってから「どこかで休んだほうがいいんじゃないか」って話は自分からもするようになりましたね。ありがたいことにいろいろ話をいただくことも多いんですが、放っておくと全部やりたがっちゃう人だから。だから、ようやくという思いはあります。難しい判断でしたけどね。

白鳥松竹梅(B) でも、日本にいる限り、この人はおしゃべりするじゃないですか。だから、本当はアフリカとかに行ったほうがいいんじゃないかと思います。

 半年くらいバリとかに行っちゃうとか?

綾小路 バリだと「パーリーピーポー!」ってやっちゃうんじゃない? だから、本当に行くとしたらアフリカだろうな。

西園寺 でも、ツアーをしないで、このアルバムどうやって売ります?

星グランマニエ(G)

星グランマニエ(G)

白鳥松竹梅(B)

白鳥松竹梅(B)

──そうですよね(笑)。ただ、7年前の「不良品」の時代から比べても、音楽シーンや音楽産業におけるアルバムの位置付けって大きく変わってきたじゃないですか。だから、ちょっと前だと「7年ぶり!」って感じでしたけど、今ではそうなるのもわかるな、と。実際、その間も氣志團はずっと精力的に活動を続けていたわけですし。

綾小路 そうですね。その間に、僕らもステージが一番重要だなっていう考え、1回1回のライブにどれだけ意味を持たせられるかが大事だという考えになってきましたし。若い世代のバンドと対バンする機会も、僕らから誘うだけじゃなくて、誘ってもらえることも増えてきて、その中で刺激を受けることも多かったですし。もともと僕らはインディーズ時代からどちらかというと作品よりパフォーマンスで知ってもらってきたところもあったので、「ライブの時代」になったことはそんなに悪いことでもなかったのかもしれないと思うようになっていたんですよね。だから、今回のアルバムもみんなで集まったときに最初に作品のイメージとして投げかけたのは「GIGで生きる楽曲」ってことだったんですよ。ステージでパフォーマンスをするところまでイメージした曲を持ち寄ってほしいって。

──「木更津グラフィティ」(2010年リリースのアルバム)の頃だったと記憶してるんですけど、一時期、氣志團はロックンロールバンドとしてのアイデンティティに立ち返ることで、バンドとしての存在意義を確認する方向に向かってた時期もありましたよね。もちろん、今回のアルバムにもそういうバックトゥルーツ的な曲もありますけど、肩の力がいい感じに抜けてますよね。

綾小路 結局、「GIGで生きる曲」といっても、そのイメージの受け取り方は全員違うんですよね。それがこのアルバムの楽曲のバリエーションになっていて。あとは、自分のコンディションの問題も影響してると思うんですけど、ここで今の自分たちの持てるすべてをとにかく全部出しきってしまおうみたいな、集大成アルバム的な方向になっていったというのはあるかもしれません。

西園寺 「ステージでのパフォーマンスを想定して」というミッションは、自分にとってけっこう難しいものだったんですね。だから、とりあえずいい曲を書くことに集中しようと。その結果「違うんだよね」って言われたらしょうがないなって。それでも、「この曲では(早乙女)光くんをこうやって生かしたい」とか、そういうバンドの中でのそれぞれの役割は明確にイメージして作っていって。翔やんの当初の考えとは違う作品になったのかもしれないけど、このバンドにしかできない楽曲というところでは、自分としてはやりきれたのかなって。

氣志團

氣志團

綾小路 もともと自分はアルバムのときはガチガチのコンセプトを設けて作りたいタイプなんですけど、みんなが持ち寄ってくれた曲を聴いているうちに、今回はそういうアルバムじゃないほうがいいなと思うようになっていったんですよね。アルバムの中で核になるような曲は自分で作って、あとはバンドの化学反応に任せようって。せっかくの25周年記念盤だし、うちのバンドはみんななんでもできるんだぞってことを証明してやろうと。それで、1人1曲メインボーカルをとろうということにもなって。