KIRINJI|目まぐるしい変化を遂げたバンド編成の8年間

堀込高樹という作家のクセ

──昨年11月の「cherish」発売時のインタビューで、高樹さんはアルバムが発売されたタイミングについて「2020年のリリースになってしまうと世の中のモードや自分の気分も変わってしまいそうだから、今のこの気分のまま早く作ろう」と考えたとおっしゃっていました(参照:KIRINJI「cherish」特集|堀込高樹と千ヶ崎学が語るサウンドの正しい答え)。実際2020年を迎えて創作に対する考えや気分は変わりましたか?

ダンスミュージックやヒップホップ、あとはシティポップと呼ばれるものがここ5、6年ずっと再評価されていますよね。「cherish」をリリースした頃は、その流れもそろそろ終わると思っていたし、「次作は方向性を変えよう」と考えていました。でもInstagramを開くと、海外のシティポップファンからのフォローが今も毎日10人ずつぐらい増えてるんですね。「時間がない」や「killer tune kills me feat. YonYon」、あとは「『あの娘は誰?』とか言わせたい」のタグ付けの通知が来たりして。そういうのを見ると「海外だとまだこのへんの曲がカッコいいと思われるんだな」と思うし、もう少しこういう音楽を突き詰めてみたいという気持ちも出てくる。

──音数の少ないミニマルなトラックの流行が意外と長く続いているなという個人的な印象があるんですが、トレンドが固定化しているような違和感は感じませんか?

堀込高樹(Vo, G)

ちょっとはあります。自分で言うのもなんですけど、TWICEの新曲を聴いて「あれ? これKIRINJIみたいじゃん」と思ったりするわけですよ。「なんかTWICEと似たようなことやってんな、俺」みたいなね(笑)。だけど、その中でも自分の作家性はあまり変わっていないと思うので、どこにでもあるものにはならないという気はしています。

──堀込高樹という作家のクセは表現形態が変わろうと提供曲だろうと如実に出ますよね(笑)。この作家としてのクセの強さをご本人がどのくらい自覚しているのか、すごく気になっていたのですが。

アイマス(THE IDOLM@STER)に楽曲提供したときも、自分ではすごくアイマスらしい曲ができたと思ったのですが、プロデューサーさん(「THE IDOLM@STER」ユーザーの呼称)たちの耳からすると「こんなの全然アイマスじゃない」という感じらしいんですよ(笑)。Negiccoに提供したときも「彼女たちらしい曲ができた」と思ったんですけど、いわゆるアイドルソングからは逸脱しているみたいで。自分が書く曲はやっぱりクセがすごいんだなと。

昔の曲と新しい曲を全部やる

──また新たに編成が変わることで、今まで表現してきたものが変わることも少なからずあると思いますが、今後はどういった活動をしていこうと考えているのでしょうか?

堀込高樹(Vo, G)

とりあえず「自分が出すものは全部KIRINJI名義でいい」という気持ちです。「ネオ」の頃まではアコースティックな曲とエレクトリックな曲を一緒のライブでやってきたけど、そこをもっときれいに分けてやっていこうと思っています。「今回はこういう趣旨です」というのを明示して、過去の曲も含めていろんなフェーズごとに見せていきたい。20年以上やってると、それなりに曲も増えてきちゃって「あの曲やらないの?」と言われることもあるので。だからこれからは「昔の曲と新しい曲を全部やる」みたいな活動にしたいと思っています。

──この先の自分の音楽家人生みたいなことも考えます?

まだあまり考えていないですね。仮に70歳まで生きるとして、あと20年。けっこう先があるなという感じもしますけど、年を重ねれば重ねるほど、昔みたいに自分のことだけ考えていればいいというわけでもなくなるでしょうしね。

──音楽に対する興味が薄れそうになることはない?

今のところそういう不安はないですが、ぼんやりしてると本当に置いていかれますよね。今年の夏は忙しくて新しい曲を聴いたり、本を読んだりする時間が全然取れなくて。いろんな活動をやりたいと思っても、インプットする時間がないとすぐ息切れしちゃうと思うので、そこは心配です。

──ちなみに最近興味を惹かれた音楽は何かありますか?

浦上想起さんは面白いと思いましたね。「なんでそんな複雑なことできるの?」と思ったりもします(笑)。長谷川白紙さんや君島大空さんも、すごくアカデミックなことを若さゆえの勢いで表現していて。そういうのを聴くと「こんなのできないわ」と思っちゃいますね。でも下の世代にも負けてられないので、もう少しがんばりますよ(笑)。

公演情報

KIRINJI LIVE 2020
  • 2020年12月9日(水)東京都 NHKホール
  • 2020年12月10日(木)東京都 NHKホール
堀込高樹(Vo, G)