ナタリー PowerPush - きのこ帝国

爆音の中で光る歌 佐藤が語るアルバム「eureka」

曲を書くのは石を集めることと似ている

──続いて「春と修羅」の歌詞なんですが、冒頭から「あいつをどうやって殺してやろうか」って。おっかないんだけどそういうこと考えるのも「めんどくせぇ」ととれる内容で。

佐藤(Vo, G)

そうですね。けっこう時間が経ってから書いた詞ですね。当時の気持ちから時期が遠ざかってから書いたから多少冷静になって、めんどくさいことをめんどくさいと言えるようになったというか。真に受けて真面目に考えて、自分で自分を追い詰めたりすることってあると思うんですけど、そういう時期では書けなかったかもしれないですね。まあライブでそういう曲をやることでストレス発散になるところもあるし(笑)。

──(笑)。吐き出さないと気が済まないってことでもない?

えっと……曲を書いてるときは吐き出すっていうイメージよりも、絵を描いたりとか、池で好きな石を集めたりみたいなことと似てて、ごく自然にやってる曲のほうが多くて。つらい時にうわーって書いたような曲もあるにはあるんですけど、基本的にフラットな状態で書いてます。うわーってなってるときはギターを触る気にもなんないですから(笑)。夜、ほっつき歩いたりして自分の中でひと段落ついてから書くことが多いですね。

──でも怒りや失望はモノを作るモチベーションになっている?

大いになりますね。性格だと思うんですけど、とにかく何かにつけて考えこんでいたんで、そういうのが曲とか音楽にはつながってる気はしてて。

──大きい音でギターを鳴らすこともつながってますか?

無心になれるのはいいなと思います。最近でこそわりと整頓して聴きやすくはしてるんですけど、昔はもうカオスでした、轟音で。でもその中にいるときが一番気持ちいいですね、日常の中では。アルコールとかに近いものがあると思います。音に溶け出していくような。

──CDではそうした轟音で鳴ってる部分と、佐藤さんの歌が真ん中にあって聞こえてくる部分のどちらもあきらめてないというと変ですけど、そういう印象があって。

そうですね。どっちも引き立てるのはとても難しいんですけど、今回、バンドの奥行きを出しつつ歌が真ん中にあるものを作れたので、それはひとつバンドの成果かなというふうには思えてます。

──やっぱり歌は真ん中にあってほしい?

最初やりだした頃はわりと歌をないがしろにしてて、とにかく爆音で変な曲をやろう、みたいな。でももっとよくなるにはメンバーそれぞれの武器とか、バンドの持ってるいいところを全部磨いていく必要がある。そのときに歌が台無しではどこにも届かないなと思って、そこからはちゃんと……やっぱり人間が聴くのは人間の声だって思うし、そこを大事にしようと思ってからはけっこう変わりました、バンドは。

気持ちで聴いてほしい

──ただカッコいいサウンドじゃなくて、聴いた人が自分の切なさやつらさと重ねられる部分があるのが、きのこ帝国は強いなと思います。

ありがとうございます(小声で)。やっぱり気持ちで聴いてほしいなあっていうのはありますね。琴線に触れる何かがないと自分もそのCDを聴かないので。やっぱりどこかメロディや歌詞にグッとくる部分がないと聴いててしんどいし、ちゃんと魂というか気持ちのこもった曲ばかり作っていきたいなというのはずっと思ってるんですけど。音楽ってその人がこういう人生を歩んで、こういうことがあったけど、今こうしてるみたいなことを、文章なんかよりも曖昧に、断定的じゃなく書くものだと思ってて。だからこそ、それを聴いてラクになったりっていう作用が生まれたらいいなって。

──そうですね。ところで佐藤さんのブログを読んだんですけど……。

ごはんのことばっかり(笑)。

──そうそう、バランスのいい食事をしてて(笑)。

心がけてます。大学生の頃は生活が一番破綻するじゃないですか。寝なかったり食べなかったり。その頃こんにゃくにハマったときがあって、そしたら食べ物を受け付けなくなっちゃって、ひさしぶりにごはん食べても吐くみたいになっちゃって。それまで食べ物をおろそかにしてたっていうか。その頃から食べられるものを増やそうと思って意識して。

──そんなにひどかったんですか?

昼間、太陽を見ることなんてなかったし、若い頃しかできないような生活でしたね。部屋もグチャグチャで。今思えばちょっと精神的に囚われてたときで、いろんなことがちゃんとできなかったんですけど、今はバンドもいい方向に向かってる状況なんで、ま、生活くらいはちゃんとしようと思って(笑)。

──(笑)。そういう時期もあって、今は身体のことも気遣うようになって、それでも出てくる感情とか思いがリスナーとしては楽しみですけど。

ちょっと心配ですけど、枯渇していくんじゃないかみたいな。でも身体がちゃんとしてないと地方に遠征にも行けないし。バンドとしてやってく決意ができてからは健康は気にしてますね。

──ある種のジレンマ?

そうですね。みんなこうなるんですかね? でもたぶん大丈夫だと思います(笑)。

佐藤(Vo, G)
1stフルアルバム「eureka」 / 2013年2月6日発売 / 2520円 / DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT / UKDZ-0139
1stフルアルバム「eureka」
収録曲
  1. 夜鷹
  2. 平行世界
  3. 春と修羅
  4. 国道スロープ
  5. ユーリカ
  6. 風化する教室
  7. Another Word
  8. ミュージシャン
  9. 明日にはすべてが終わるとして
きのこ帝国(きのこていこく)

佐藤(Vo, G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村“コン”(Dr)の4人によって2007年に結成されたロックバンド。翌年から下北沢、渋谷を中心にライブ活動を開始し、2枚の自主制作アルバムをリリース。2012年5月に初の全国流通CD「渦になる」をリリースし話題を集める。2013年2月に1stフルアルバム「eureka」発表。