ナタリー PowerPush - キノコホテル
過去のイメージをくつがえす マリアンヌの逆襲
2012年末に電気ベース担当・ジュリエッタ霧島が加入し、新体制となったキノコホテル。その第1弾作品となるミニアルバム「マリアンヌの逆襲」は、昭和歌謡 / ガレージGS直系と取られがちだったキノコホテルのイメージをくつがえす異色のカバー集となった。
ナタリー3度目となる今回のインタビューでは、キノコホテル支配人・マリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)に、バンドの現状と「マリアンヌの逆襲」に収められた6曲のカバーについて詳しく聞いた。
取材・文 / 臼杵成晃
新従業員、ジュリエッタ霧島
──キノコホテルは昨年末に新しい従業員、ジュリエッタ霧島(電気ベース)さんが加入しました。お披露目の場となった12月20日の実演会(参照:キノコホテル、超絶テクの新従業員「ジュリエッタ霧島」加入)は僕も拝見しましたが、サウンドがいい方向に大きく変化したなと感じました。
そうね。彼女はすごくテクニックのある子だから。
──てきめんにリズムが太くなったし、変な話ドラムのファービー(ファビエンヌ猪苗代)さんも釣られてレベルアップしているような(笑)。
あら、やっぱりおわかりになりますか? ファービーのドラムのアラが目立たなくなった。こう言っちゃ悪いけど、もうすでにエマちゃん(前任の電気べース兼秘書・エマニュエル小湊)と比べてどうこうなんて言わせない勢いで、ジュリ島は今ばく進中なの。素晴らしいことですよ。
──まだ半年足らずではありますが、バンドのこの変化は結果的に大成功ですよね。
そうね。今のところ正解だったと思います。
──支配人から見て、正解だと思えるのはどのあたりのポイントが大きいですか?
彼女(ジュリ島)は前のめりでグイグイ引っ張っていく人だから、必然的に曲のスピード感は増したし、歌謡曲だのGSだのといったイメージから離れて新しいところに向かっているキノコホテルの今の方向性と彼女のプレイがうまくマッチしている、そんな気がします。あとこれは次元が低い話だけど、ミスタッチしなくなったことね(笑)。人間誰しもステージでとちることはあるけど、それをごまかすのもテクニックのうちでしょう。彼女も「間違っちゃいました」なんて言うんだけど、歌ってる私が気付かない程度に収めてくれるの。新しい可能性というか、彼女になら多少高いハードルを課してもしっかりこなしてくれるだろう、という期待感もあるわね。
──あれだけ力強いベースプレイを見せておいて、口を開いたら“萌え声”だった、というのもいいですよね(笑)。
あれはオヤジ連中への訴求力が高いでしょうね。いわゆるギャップ萌えっていうのかしら。なかなかいい逸材が入ってきてくれたものです。
──ほかのバンドに加入するのと違って、キノコホテルだと独自のルール、就業規則がありますよね。そのへんへの順応はどうなんでしょうか。
彼女はまだ入ったばっかりなのでなるべくコミュニケーションを取るようにはしています。お酒を飲みながらね。彼女はいろいろな音楽をやってきた子だけど、話を聞いてると、キノコの従業員として制服を着てベースを弾くことにも彼女なりに楽しみを見出してくれているみたいね。なかなか難しいんですよ、やっぱり。プレイはうまくても「私はこんなカッコでやりたくない」って子も中にはいるでしょうし。
──酒飲み仲間としても安心できるタイプ?
そうね。2人でがっつりテキーラ飲んだりして(笑)。お酒強いから彼女は。
どんなジャンルの音楽をやってもキノコの音になるという確信
──前作「マリアンヌの誘惑」でもサウンド面で大きく変化したキノコホテルが、新体制一発目にどんな作品を出すのか大きく注目されていましたが、これはみんな驚いたんじゃないかと。
あらあら、そうかしら。
──カバー集としては「マリアンヌの休日」(2010年8月発売)に続く2作目となりますけど、セレクトされた楽曲の振れ幅とチョイスセンスには意表を突かれました。前作とは同じカバー集でもまったく趣旨が異なるというか。
全然違いますね。前の作品からは3年ぐらいかしら。まあ、こうも変わるのかと。
──1970年代後期のパンクや80's、ニューウェイブ的なものまでチョイスされていて。「昭和40年代の歌謡曲 / GS」というイメージから脱却したバンドの姿勢が如実に出ていますよね。1960年代の楽曲も入ってはいるけど、解釈の仕方が以前とは変わっているような。
ええ。ここ数年は自分の曲作りにも変化があって、今はGSや歌謡曲に収まらない、もっとアバンギャルドなもの、キッチュな感じの音楽がやりたいなという気持ちが大きいの。そこでカバーをやろうと思ったときに、もはや年代に寄りかかるような態度はいらないなと。「マリアンヌの休日」のときはまだ歌謡曲の範疇からマニアックなものを選ぶような、ちょっと何かに縛られている自分がいたんですけれども、今回は自分が若い頃から好きで聴いていて、ずっと頭に残っている曲を本当にジャンルレスに選んだ感じ。そう考えられるようになったのは、どんなジャンルの音楽をやってもキノコの音になる、という確信をここ数年で得ることができたからだと思う。
──セレクトされた楽曲の時代背景はさまざまですけど、どの曲も共通して、オリジナルを今聴くと若干のいなたさを感じるんですよね。リズムが弱かったりテンポが遅かったり、音全体にパンチがなかったり。キノコホテルのカバーは、そのいなたさを補完してブラッシュアップしたような印象があります。
そうなんです。基本的にどんな曲をやるにしても「原曲よりいい、と全員に言わせてやる」という気持ちがあって。そうじゃなきゃカバーやっても意味がないですからね。
収録曲
- エレキでスイム(オリジナル:東京ブラボー)
- ノイジー・ベイビー(オリジナル:カルメン・マキ)
- 今夜はとってもいけない娘(オリジナル:泉朱子)
- かえせ!太陽を(オリジナル:麻里圭子)
- すべて売り物(オリジナル:アーント・サリー)
- 悪魔巣取金愚(オリジナル:休みの国)
キノコホテル
マリアンヌ東雲を中心とした女性だけの音楽集団。60'sロックンロール / ポップス、パンク / ニューウェイヴ、プログレ、ラテンロックなどさまざまな音楽性を取り込んだ独自の世界観を展開し、高い評価を集める。2010年2月にはアルバム「マリアンヌの憂鬱」でメジャーデビュー。2012年には「東雲音楽工業」を設立し、同年12月5日に移籍第1弾となる最新アルバム「マリアンヌの誘惑」を発表した。現メンバーはマリアンヌ東雲(キノコホテル支配人 / 歌と電気オルガン)、イザベル=ケメ鴨川(電気ギター)、ファビエンヌ猪苗代(ドラム)、ジュリエッタ霧島(電気ベース)の4人。2013年5月1日にはカバーミニアルバム「マリアンヌの逆襲」をリリースする。