ナタリー PowerPush - キノコホテル

マリアンヌの誘惑 思惑 独白

キノコホテルのレーベル移籍第1弾作品となる最新アルバム「マリアンヌの誘惑」が完成した。今作ではサウンド面も大きく進化し、ボッサやスカ、ニューウェイブといったさまざまな要素が取り入れられた、「昭和歌謡テイスト」「ガレージサウンド」といった世間のイメージを拭払する1枚に仕上がっている。

キノコホテルの全てを統括する支配人、マリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)は先日、アルバムアートワークの解禁とともに「キノコホテルは12月9日のキネマ倶楽部での公演を以て現在の4人による営業を終了致します」という意味深な声明文を発表した。レーベル移籍、アルバム完成というこのタイミングで、支配人はなぜキノコホテルを“新装開店”するのか。ナタリーではこの真相に迫るべく、都内某所の支配人室を訪ねた。

取材・文 / 臼杵成晃 ライブ写真撮影 / 齋藤真理

生活も交友関係も変わらない

──前回のインタビューが2010年初頭、メジャー1stアルバム「マリアンヌの憂鬱」がリリースされる直前でしたけど、このときはとにかく「キノコホテルがメジャーで活動するの!?」という驚きが大きくて。かれこれ3年近く経ちましたが、実際メジャーでの活動はいかがですか?

どうもこうも、別になんら変わったことはないわ。

──ビジュアルや楽曲にまで口を挟まれるような、いわゆるメジャー的な縛りは……キノコホテルに関してはあまりなさそうですよね。

実演会の様子

そもそも縛ろうとしないレーベルを選びましたから。何かを強要されることもなかったし。逆にね、あまりにも放っとかれすぎて不安になったぐらいよ。これでいいの?って疑問を持ってしまうくらいだったわ。交友関係? お酒飲まないと人と話せないから(笑)。インディーズの頃からほとんど変わってない。地味よ……フフフ。

──それこそCDの流通形態が違うだけ、みたいな。

そうそう、そんだけ。私が知らなくてもいいような大人の話だけ。実演会もメジャーだからといって急に大バコに昇格したりするわけじゃないし、すごく地道にコツコツと。「ああ、これがメジャーの世界なんだわ」みたいなことはないわね、全然。

──「メジャーの縛りに苦心するキノコホテル」の図にも、意地悪な目線で期待していたんですけどね(笑)。結果、音楽的にはどんどんやりたい放題になっているような印象もあって。

ホントに何も言われないのよ。最近はどこもそうなのかしらね。おかげさまで大変気楽にやらせてもらっているわ。

私のパンティを食い入るように観てる輩ばっか

──音楽面で言うと、インディーズ時代の昭和ガレージ的なイメージから、リリースを重ねるごとにどんどん変化してきた印象があります。実演会では初期楽曲のアレンジ、特にリズムの解釈がどんどん黒い方向、黒人音楽的なグルーヴに変化していますよね。

うんうん。

──今回のアルバムに収められている「#84」は昨年あたりから演奏されていますが、この曲はそういう変化の中から生まれたのかなと。

ベース(エマニュエル小湊)は元々ソウルなんかを好んで聴いていたタイプで、ドラム(ファビエンヌ猪苗代)は縦ノリの人だから、あの曲も最初はリズムがちぐはぐで。「ちゃんと合わせなさいよ。曲をナメんじゃないわよ」って2人を徹底教育して、練習に練習を重ねてステージでもスタンダードナンバーにすることで仕上げていったの。お客を踊らせるような曲にしたかったわけ。

──お客さんの反応はこの3年で変わりましたか? 僕は東京での実演会しか観たことがないんですが、いつも最前列あたりに陣取るようなコアなファンの方たちは、そんなにガンガン踊るようなタイプではないような……。

そうなのよ。メンバーに「客を踊らせろ」と言ったところで、キノコホテルの客は踊らない。固まって私のパンティを食い入るように観てる輩ばっかだから。

──あはははは(笑)。

実演会の様子

まあ踊るようなタイプの客じゃなかったとしても、踊らせるつもりで演奏しろよってことで。でも別にね、キノコホテルを黒いバンドにしたいわけじゃないし、それに私、今はもういかにグルーヴするかみたいなことにはあんまり興味がなくて。いっそニューウェイブあたりに行ってみようかしら。あくまで今の気分ですが。

──それは意外ですね。確かに2曲目の「球体関節」では聴き慣れないシンセのアルペジオが入っていて驚きました。サウンドに関してはこれまで以上にバラエティに富んだアルバムとなっていますが、支配人としては最初どのような作品を構想していたんですか?

思いつくままに曲を書いて、ジャンルの垣根を越えてキノコホテルの最新型を提示したかったの。まさかスカの曲が入るとは思ってなかったけど。

──「悪魔なファズ」ですね。なぜこれはスカのビートに?

わかんないのよ。酔っぱらってたから。

──酒のせい(笑)。

沖縄で実演会をやったときに、ホテルで酔っぱらって5分で作った曲なの。常日頃からね、ディスコビートの曲が1曲欲しいと思ってたわけ。ステージ映えするようなね。そしたら急にあの曲のサビが浮かんできて、まあ、スカでも良いかって思ったわけなの。

ニューアルバム「マリアンヌの誘惑」/ 2012年12月5日発売 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ

CD収録曲
  1. 四次元の美学
  2. 球体関節
  3. 業火
  4. 愛と教育
  5. その時なにが起こったの?
  6. エロス+独裁
  7. 恋のチャンスは一度だけ
  8. 回転ベッドの向こうがわ
  9. 悪魔なファズ
  10. #84

※限定豪華BOX盤「夜の玩具箱」のみシークレットトラック+1曲

限定豪華BOX盤付属DVD 収録内容
2012年6月16日恵比寿リキッドルーム実演会「サロン・ド・キノコ~水も滴る好いおんな」ライブ映像
  1. エロス+独裁
  2. 球体関節
  3. 愛人共犯世界
  4. もえつきたいの
  5. 真っ赤なゼリー
  6. 砂漠
  7. 危険なうわさ
  8. 回転ベッドの向こうがわ
  9. 非情なる夜明け
  10. 愛と教育
  11. キノコノトリコ
  12. キノコホテル唱歌
  13. 静かな森で
  14. キノコホテル唱歌II
  15. マリアンヌの恍惚
キノコホテル(きのこほてる)

2007年6月、支配人のマリアンヌ東雲(歌と電子オルガン)を中心に結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、2008年12月には現在のメンバーであるイザベル=ケメ鴨川(電気ギター)、エマニュエル小湊(電気ベース)、ファビエンヌ猪苗代(ドラムス)が揃った。都内を拠点に精力的な実演活動を行いながら、自主制作でシングル「真っ赤なゼリー」、会場限定CD「キノコホテル実況録盤」、映像作品「キノコホテルの夜明け~初期実演会」、CD&DVD「サロン・ド・キノコ~実況録音盤」を発表。オリジナル楽曲はすべてキノコホテル支配人・マリアンヌ東雲が手がけており、その独特の世界観は各方面から高い評価を集めている。2010年2月3日にアルバム「マリアンヌの憂鬱」でメジャーデビュー。2012年にはヤマハミュージックコミュニケーションズ内に「東雲音楽工業」を設立し、12月5日に移籍第1弾となる最新アルバム「マリアンヌの誘惑」を発表した。