ナタリー PowerPush - キノコホテル

マリアンヌの誘惑 思惑 独白

ほかの人が飽きるよりも先に飽きちゃう

──スカやニューウェイブというキーワードは、今までのキノコホテルにとってはかなり距離のあるものでしたよね? さらにはジャズっぽいツービートや高速ボッサのような展開もあったり。それが今作に取り込まれているのはなぜですか?

1枚のアルバムをざっと聴いたら似たような曲ばっかり、みたいなことってあるでしょう。キノコホテルは、「ジャンル」なんていうくだらないワードからいかに解き放たれるかを考えながら成長してきたつもりなの。同じようなことをやっていると飽きるのは当たり前で。私は特に飽きっぽい人間だから。知らない奴に「ああ、もうキノコホテル飽きたな」なんて言われる前にその先を行きたいの。 今回はまあ、模索してる感じよね。今後のキノコホテルを。着地点を探してる感じ。

──じゃあ今作に関しては「いろんなことをやる」というのが前提にあって。それについて、ほかの従業員の皆さんはどのような反応を?

実演会の様子

別に私からわざわざ「こういう方向性で」って説明するわけじゃないわよ。ただ曲を書いていって「演奏してちょうだい」って伝えるだけで、別にアルバムのコンセプトについて3人に理解してもらう必要もないから。3人とも訊いてこないしね。「どういうアルバムになるんですか?」なんて。

──こういう音でこういうリズムで、というのをただ指示するだけ?

前はデモテープを作って渡してたんだけど、最近は横着しちゃって。

──ははは(笑)。スカの曲ならただ「スカのリズムを鳴らせ」と。

ええ。それだけ。

──「いろんなことをやる」を実践した結果、狙いどおりのサウンドができましたか?

そうね。今回一番活躍したのはパーカッションかもね(笑)。この方が彩りを加えてくれたことでどうにか形になった曲もいくつかあるわ。でもね、スカでもボッサでもホンモノになっちゃったらつまんないから。胡散臭さ、インチキ臭さが残ってたほうが面白い部分もあるし、ちょうどいい塩梅に着地できたんじゃないかしらね。

当初の構想よりポップなアルバムになったわね

──5曲目の「その時なにが起こったの?」はリード曲としてビデオクリップも制作されていますが、これをリード曲に選んだのはなぜですか?

私はホントのところ別の曲にしたかったんだけどね。「愛と教育」で映像が撮りたかったのよ。「その時~」は今のキノコホテルとしては幾分ポップすぎるから、アルバムの中では完全に脇に回ってもらうつもりだった。でも「愛と教育」で映像を撮ったところで、どこもオンエアしてくれなかったら意味がないですよ!って説得されたのよ、大人たちに(笑)。

──ああ、内容的に(笑)。

それでアルバム全体のコンセプトも少し変更したのよ。結果、当初の構想よりポップなアルバムになったわね。

──じゃあ、本来はもっとエグい内容の……。

挑発的な曲ばっかり並べて、今までキノコホテルをGSとか歌謡曲って目線でしか見てなかった奴らを全員殺戮する勢いで(笑)。「ちょっと激しいアルバムでも作ろうかしら」なんて思ってたんだけども。

──少しだけメジャーアーティストっぽい判断ですね(笑)。

そう言われればそうね、うふふふ……。まあ、聴いてもらえないと意味がないんだから。

このお尻は信藤さんも褒めてくれたわ

──ポップということで言えば、今回はアートワークにもかなり注目が集まっています。ピチカート・ファイヴなどを手がけてきた信藤三雄さんがアートディレクションと映像監督を担当するということで、ナタリーでニュースを配信した際にも大きな話題になりました。

信藤さんは前々からキノコホテルに興味を持ってくださってたみたいで、「いつか一緒にやってみたい」っておっしゃってたというのは耳にしてたのよ。でも私はアートワークも映像も、全てにおいて口出しする人間だから、信藤さんにお願いすることはできないなと思ってたの。信藤さんのような大御所の方にうるさくガミガミ言えないじゃない、さすがに。だからあえて避けて通ってたようなところがあって。

──なるほど。

でも実際はね、かなり希望を聞いてくれる方なの。「こっちのアングルからも撮ってもらえませんか?」「私、キーボードの上に乗ったほうがいいと思うんだけど」って提案すると「じゃあやってみよう」って必ず乗ってくれるの。逆にそれだけ柔軟な人だからこそ、あれだけのものを作ってこられたんだと思うけど。

──信藤さんの描くロック観には独特の色気がありますけど、キノコホテルとの相性は予想どおりドンピシャでしたね。アートワークの方向性は信藤さん任せで?

そうね。こんなに思い切って別の方にお任せしたのは初めて。今までは全てにおいて口うるさく細部まで関わるスタンスでやっていたから。信藤さんはギリギリまでアイデアをご自身の中で温めて、最後の最後でパッとひらめくタイプの方なの。今回は期待と不安の入り交じった気持ちでいたわ。

──写真も信藤さん自らの撮影ですけど、支配人ご自身で見ていかがですか?

初回盤のジャケットは裏返すとそのまま私の後ろ姿になってるんだけども、お尻がすごくピュッ、ピュッとしていてかわいいのよ。私、おっぱいはないけどお尻はかわいいの。このお尻は信藤さんも褒めてくれたわ。撮影中ずっと「かわいいお尻だねえー」って(笑)。

──このアートワークも相まって、アルバムがよりポップな作品になっているように思います。

うんうん。結果的に曲の世界観と信藤さんの世界観がうまく合ったのかもね。

ニューアルバム「マリアンヌの誘惑」/ 2012年12月5日発売 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ

CD収録曲
  1. 四次元の美学
  2. 球体関節
  3. 業火
  4. 愛と教育
  5. その時なにが起こったの?
  6. エロス+独裁
  7. 恋のチャンスは一度だけ
  8. 回転ベッドの向こうがわ
  9. 悪魔なファズ
  10. #84

※限定豪華BOX盤「夜の玩具箱」のみシークレットトラック+1曲

限定豪華BOX盤付属DVD 収録内容
2012年6月16日恵比寿リキッドルーム実演会「サロン・ド・キノコ~水も滴る好いおんな」ライブ映像
  1. エロス+独裁
  2. 球体関節
  3. 愛人共犯世界
  4. もえつきたいの
  5. 真っ赤なゼリー
  6. 砂漠
  7. 危険なうわさ
  8. 回転ベッドの向こうがわ
  9. 非情なる夜明け
  10. 愛と教育
  11. キノコノトリコ
  12. キノコホテル唱歌
  13. 静かな森で
  14. キノコホテル唱歌II
  15. マリアンヌの恍惚
キノコホテル(きのこほてる)

2007年6月、支配人のマリアンヌ東雲(歌と電子オルガン)を中心に結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、2008年12月には現在のメンバーであるイザベル=ケメ鴨川(電気ギター)、エマニュエル小湊(電気ベース)、ファビエンヌ猪苗代(ドラムス)が揃った。都内を拠点に精力的な実演活動を行いながら、自主制作でシングル「真っ赤なゼリー」、会場限定CD「キノコホテル実況録盤」、映像作品「キノコホテルの夜明け~初期実演会」、CD&DVD「サロン・ド・キノコ~実況録音盤」を発表。オリジナル楽曲はすべてキノコホテル支配人・マリアンヌ東雲が手がけており、その独特の世界観は各方面から高い評価を集めている。2010年2月3日にアルバム「マリアンヌの憂鬱」でメジャーデビュー。2012年にはヤマハミュージックコミュニケーションズ内に「東雲音楽工業」を設立し、12月5日に移籍第1弾となる最新アルバム「マリアンヌの誘惑」を発表した。