King Gnu|誰よりも高い場所へ、4人が放つ初メジャー作

King Gnuが1月16日にアリオラジャパンよりメジャーデビューアルバム「Sympa」をリリースする。本作には昨年11月の東京・マイナビBLITZ赤坂公演で初披露された「Slumberland」、攻撃的なアッパーチューン「Flash!!!」、テレビアニメ「BANANA FISH」のエンディングテーマ「Prayer X」などがインタールードと共に収められており、前作「Tokyo Rendez-Vous」以上に壮大なスケールのアルバムに仕上がっている。音楽ナタリーではメンバー4人にインタビューを行い、各収録曲についてじっくり話を聞いた。

取材・文 / 渡辺裕也 撮影 / 後藤壮太郎

ポップネスがグッと増した作品になった

──1月16日発売のアルバム「Sympa」は、とにかくスケールの大きな作品になりましたね。サウンドに込めた情報量にせよ、ビートの迫力にせよ、歌詞のパンチラインにせよ、どこをとっても圧倒されるというか。

常田大希(G, Vo) 自分としては、ここまでのステップアップをすべて反映させた結果だと思っています。例えば会場の規模がデカくなっていくと、やっぱりドラムの手数を少なくしてビートを派手にしたほうが映えるし、そもそも俺らはKing Gnuなんて名前でやってるくらいですからね。ヌーの群れをどんどんデカくして誰よりも高いところを目指すっていう、King Gnuはそういうコンセプトで始まったプロジェクトだし、そこに関してはもう変わらないんで。それに、今回はかなり聴きやすい作品になったんじゃないかな。

──ええ、間違いなく前作の「Tokyo Rendez-Vous」以上にポップだと思いました。

常田 俺らの向かう先にあるものはやっぱりそこなんですよ。実際、今回のアルバムは「Tokyo Rendez-Vous」よりもポップネスがグッと増してると思う。

新井和輝(B) そうだね。とはいえ、ベースの演奏に関してはそこまでポップに寄せたわけでもなくて。やっぱり個々のプレイヤーシップは大事にしたかったし、実際に今回のアルバムはかなり弾きました。

勢喜遊(Dr, Sampler) うん。ロックでありつつ、ブラックミュージック的な要素もあるっていう、そのあたりのバランスも今回はよりうまく表現できたと思う。

──同時に「Sympa」はインタールードを含めた曲同士のつながりがとてもスムースで、アルバムとしての完成度が非常に高いと感じました。

常田 もちろん曲順についてはかなり考えました。ただ、実をいうと今回のアルバムにはコンセプトを意識しながら書いた曲ってそんなにないんですよ。どちらかというとシングルを1つにパッケージしていくようなイメージだったんですけど、曲がそろっていく中でアルバムとしての方向性がだんだん定まってきたので、これは曲と曲をつなぐ何かを用意したほうがいいなと。それで最後に「Sympa I」から「Sympa IV」まで4つのインストを作ったんです。

──では、そのインタールードに収録されているサンプルボイスや無線の通信音には、どのような意味合いが込められているのでしょうか?

常田 「Sympa I」のあの音でまず表したかったのは「救助を求めている」ということですね。つまり、助けを求めているところからアルバムが始まって、最後に救出されるっていう構成にしてみたんです。あと、これは「Sympa」というアルバムタイトルにもつながる話なんですけど、あのインストで鳴らしているノイズは“波形”のイメージなんです。それこそ「It's a small world」のミュージックビデオの雷みたいに、人と人が波形でつながっていくようなイメージというか。要は“シンパシー”ってことですね。

──なるほど。このアルバムタイトルは「シンパシー」に由来してるんですね。

常田 それがまず1つ。そのほかにも「シンパを募る」みたいな意味合いもあります。それこそ「ヌーの群れをどんどんデカくしていく」という、このバンドの基本姿勢にも合ってるんじゃないかな。

パンチラインを書くことを最重要視している

──そんなKing Gnuのステイトメントをいきなり突きつけてみせたのが、アルバムのオープニングを飾る「Slumberland」。この曲の歌詞にはマスメディアに対する苛立ちなども込められているように感じたのですが、実際はいかがでしょうか?

常田 いや、この歌詞に関しては別に何かを批判しているわけじゃないんです。むしろ、そんなものは関係なくて。「世間ではいろいろあるみたいだけど、こっちは今それどころじゃねえよ」という感じですね。要は井上陽水の「傘がない」みたいなイメージ。「都会では自殺する若者が増えているけど、今の問題は傘がないことだ」みたいな、ああいう感じを意識してました。

──なるほど。確かにそれは納得です。

井口理(Vo, Key) 「Tokyo Rendez-Vous」と比べると、今回のアルバムは僕と大希のボーカルを同居させた曲がわりと少なくて。それこそ「Slumberland」のボーカルではほとんど大希が歌ってるんですよね。そのおかげでこの曲の攻撃性がさらに増した感じがする。で、逆にしっとりした曲は僕が歌うことが多くて。そうやって歌の振り分け方をはっきりさせたところも、今作の特徴になってるんじゃないかな。

──King Gnuの楽曲はストリングスアレンジも強烈ですよね。歌の添えものではなく、ときとしてアンサンブルの主役となるような主張の強さを感じます。

常田 そうですね。いわゆるJ-POPによくある、ただ白玉のコードを鳴らすような入れ方は基本的にしていなくて。ストリングスもほかの楽器と同様に、バンドサウンドの1セクションとしてちゃんと考えています。

──そして「Flash!!!」。この曲と「Slumberland」のアグレッシブな流れには一気に引き込まれました。

常田 俺がこのバンドの歌詞を書くにあたって、自分のパートと理のパートの書き分け方はかなり明確にあるんですよ。単純に俺の声は男臭い言葉のほうが合ってるし、逆に理が歌うときはロマンチックでスウィートな歌詞のほうがよく合う。「Slumberland」と「Flash!!!」に関してはどっちも俺自身のスタンスをはっきり表している曲ですね。

──「Flash!!!」の歌詞はまさにパンチラインだらけですよね。「ただ下り坂を猛スピードで駆け抜けるんだ」とか、一度聴いたら忘れられなくなるフレーズばかりで。

常田 この曲に限らず、パンチラインを書くことは俺が最重要視していることなんです。やっぱり言葉が強くなきゃいけないし、抽象的でなんとなく洒落ているような歌詞には絶対にしたくないんで。

井口 大希が「Slumberland」と「Flash!!!」を持ってきたときは「やっぱりKing Gnuはこうあるべきだよな」と感じたし、自分はもうそこに乗っかるだけだなと思ってました。大希はこういう攻撃的な曲を作りつつ、一方では「It's a small world」みたいにロマンチックな歌詞も書けるんだから、そこはもう、ホントにすごいなと思いますね。