いい意味でプライドがぶつかり合ってる

──確かにメンバー同士が戦っているイメージもありましたよね。お互いの音楽性、演奏でせめぎ合っているというか。

橘高　せめぎ合ってないと成立しないバンドだし、それは今も変わっていないですけどね。1歩でも下がると埋もれちゃうんですよ。そうなってしまったら、このバンドをやっている意味がないし……。もしかしたら再結成後は、その部分をもっと強く意識しているかもしれないですね。メンバーそれぞれの活動もある中で、筋肉少女帯として集まるということは、個人の看板も掲げ続けているわけで。いい意味でプライドのぶつかり合いみたいなものはあるし、それは作品にもライブにも反映しているので。まさにせめぎ合いでしょうね。レコーディングしていても「もっと内田っぽいベースのほうがいいんじゃない？」「もっと、おいちゃんらしいフレーズがいいよ」というところでテイクを重ねたりもするので。

内田　特に意識はしてないですけど、そういう感じは確かにあるでしょうね。僕はバンドをいっぱいやり過ぎてるんだけど（笑）、バンドの成り立ち方、人間関係はそれぞれ違うんですよね。具体的にどうとは言えないけど、バンドを運営する、続けるということでは幅が広がっていると思います。

本城　今、内田くんとFoo-Shah-Zooというバンドをやってるんですね。もともと僕はギターソロを弾きたくないんだけど、そこではギタリストが1人なので弾かざるを得なくて。そうやって何年か続けてたら、デモテープを作るときも弾くようになってきたんですよ。

橘高　今回のベストに入っている「パノラマ島失敗談」はまさにそうで、デモの段階から本城くんのギターソロが入ってたんです。本人は説明のために入れたみたいなんだけど、それがとってもよくて「おいちゃん、自分で弾いたほうがいいよ」って。ストラトらしいフレーズだったしね。

内田　うん、あのソロはよかった。

「沢田研二って人、知ってる？」

──ベストには「新人バンドのテーマ」が収録されていますが、再結成から10年経ってもやはり“新人”という感覚はありますか？

大槻　ありますね！ よく思うんですけど、3年経つとその世代から下の若い人は何も知らない。この前、仕事で18歳くらいの女の子と話していたら、その子のスマホにジュリー（沢田研二）の「サムライ」が入ってたんです。ほかはEDMとかK-POPばっかりなのに「なんで沢田研二を？」って聞いたら、「え、知ってるのこの人？」って。

内田・本城・橘高　ハハハハハ！（笑）

大槻　「いい曲だよ。沢田研二って人、知ってる？」って（笑）。「いやあのねえ」って思ったけど、今はそういうわけのわからない世界なんですよ。何が言いたいかっていうと、どんなに人気があるバンドでも、今小学生くらいの子がロックを聴き始める頃は平気で「知らない」って言われちゃうし、いつ知ってくれるかもわからないんですよ。そういう意味ではThe Rolling Stonesでさえ新人バンドですから。恐ろしい仕事ですよ、ホントに。

橘高　それも再結成したときに感じたんですよね。フェスに行くと「筋肉少女帯？ ヘンな名前」って、今までさんざん受けてきたリアクションをまたやられるっていう（笑）。その覚悟が我々にはあったってことですね。だからこそ一見さんには優しく、パフォーマンスも筋少らしいものをしっかり見せてきたので。そういうふうに俯瞰できるようになったのも大きいし、何よりも自分自身が楽しんでるし、誇りを持ってますからね。

大槻　そうだね。フェスで新人バンドとかアイドルのライブを観て「なんだこれ!?」と衝撃を受けることも多くて、それも刺激になってるんですよ。何年やっても驚くことばかりだし、見るもの聞くもの、まだまだ珍しいものがたくさんある世界なので。面白いですよね、それは。

「先が思いやられる」って言われてこそロックバンド

──再結成10周年を記念した全国ツアーについては？

大槻　ベストには新曲「めでてえな？（バンド再結成10周年の歌）」「パノラマ島失敗談」が入ってるし、シングル「人から箱男（筋少×カラオケDAMコラボ曲）」も出るから、3曲は必ず新曲ですね！ 最近は新譜のツアーが多かったんですけど、今回は皆さんが知っているであろう曲もやろうと思ってるので、より一層、楽しめるんじゃないかな。

橘高　再結成後もこうやって活動できているのはファンのおかげなんだけど、再結成したのは知っていても、それ以降の楽曲に触れてない人もいると思うんですよ。そういう方にもベストを聴いてもらって、ぜひライブに足を運んでもらいたいですね。もちろん、このベストをきっかけに初めて筋少を知った人にも遊びに来てほしいし。

大槻　奇妙な新人バンドという感じで、若い人が知ってくれたらうれしいですね。あとね、「これくらい大人になってもロックでやっていけるんだ」ということを見せたいんですよね。将来どうしようって思い悩んでる中高生、大学生、フリーターの若者にとってそれは絶対にいいことだと思うし、それも我々の使命かなと。まあ、それでバンドマンになったとしても、経済を回せず、結局は社会の厄介者になる場合もあるんだけど（笑）。

内田　そっちのほうが多いよ。

大槻　でもさ、50歳の大人が顔にヒビを入れてバンドをやって「これが仕事です」って言ってたら、それを見た若い人は「自分の人生もなんとかなるかも」って思うでしょ。

──実際、筋肉少女帯の影響で音楽を始めた人は多いですからね。

大槻　すごく多いんですよ、ホントに。

橘高　でも影響を受けてるって言ってくれる人たちの音楽性には一貫性がないんだよね。音楽性ではなくて「ほかと違うことをやる勇気をもらいました」と言ってもらえることもあって、それはすごくうれしいですね。

大槻　うん。The Rolling StonesやAerosmithの影響を受けてバンドをやると、コピーバンドみたいな感じになることが多いじゃない？ それも悪くないんだけど、筋少に影響されたバンドってそうじゃなくて。自分なりのスタンスを見つけて、面白いことを始める人が多いんですよ。筋少に影響を受けてるバンドは本当にいい音楽をやってるし、みんな有望ですよ。

──素晴らしい。筋肉少女帯はこの先も本当に……。

大槻　思いやられる？

──イヤイヤ（笑）。

橘高　でも、それはそれでいいな。「先が思いやられる」って思われてナンボでしょ。

大槻　そうだよ。「先が楽しみ」って言われてるようじゃダメ。「先が思いやられる」って言われてこそロックバンドだよ。そのためにも衝撃的な曲をやりたいよね。

内田　「何だこれ!?」ていうヤツね。

大槻　うん。そういうバンドでいれたらいいなって、他人事のように楽しみにしてます（笑）。