音楽ナタリー Power Push - 筋肉少女帯
“再結成バンド”として過ごした10年間を振り返る
2年前にプチスランプを感じていた
──まずはいい音楽を作り、それを地道に届けていくっていう。本城さんはどうですか? 再結成以降の筋肉少女帯の変化について。
本城 まずは「こんなに待っていてくれた人がいたんだ?」ということがすごく刺激になりましたね。ライブに来てくれる人たちの顔を見ることで、コンスタントに曲を書き続けるモチベーションにもなったし。コンサートを毎年続けられたこともありがたいなって。ただ、そうは言いながらも「10年の間にはいろいろあったな」と感じるのは……2年前に「THE SHOW MUST GO ON」を作ったとき、再結成したらやろうと思っていたことがある程度、達成できたんですよね。90年代はシンセやピアノをもっと使ってたんだけど、再始動が決まったときに「ギターバンドにこだわって曲を作ろう」と思ってたんです、自分としては。
内田 うん。
本城 それを続けてきて「THE SHOW MUST GO ON」が完成したとき、プチスランプみたいなものを感じたんですよね。その後の1年くらいはあまり曲が書けなかったし、今回のベストの新曲を作るときもちょっと不安だったんです。でも、「10周年を迎えられた」という気持ちと去年1年のライブで感じたことを含めて、今回の新曲では今までとは違う、もう一歩突っ込んだ11年目からの筋少をちょっと見せられるようなものができたと思っていて。また新しいトライができたという感じもあるし、もうちょっと作れるかなって思ってますね、今は。
──10年という時間の中には当然、作曲家としての波もありますからね。
橘高 そうですね。個人的なことを言わせてもらうと、僕が最初に筋少に入ったときの動機の1つは「ピアニストの三柴理と一緒にやりたい」ということだったんですよ。ところが僕が入ると同時に三柴くんがバンドを抜けてしまって。
内田 入れ替わりでね(笑)。
橘高 でも、再結成の前に大槻と一緒にやった「踊る赤ちゃん人間」というシングルに三柴くんが参加してくれて、そこで初めて一緒に音を出して。三柴くんとは再結成後も一緒にやってるし、90年代はバラバラだったものがすべて合流した感じもあるんです。ギターバンドとしての筋少に三柴くんが加わることで、音楽的にもいろんな効果が生まれたと思うし、やりがいもありますね。
これからは東洋神秘武術的な方向で
──再結成時に大槻さんは「ファンの青春を終わらせてはいけない」とコメントしていましたが、その気持ちは今も変わらないですか?
大槻 そうですね。ロックバンド、ロックミュージシャンを長くやっていると、ファンの人たちは好きなバンドを人生の伴侶のように感じるとわかるんですよね。最近、海外のロックミュージシャンがどんどん亡くなってますけど、僕もそのたびにガクンってきちゃうんですよ。長くやっているバンドは自分たちだけのモノではないし、応援してくださる方、聴いてくださる方をガッカリさせちゃいけないなと思いますね、ホントに。
内田 うん。
大槻 例えばスマホで何か検索しているときに、たまたま筋肉少女帯の情報が出てきて「わ、筋少やってるんだ! あの頃、よく聴いてたな」っていう人もいると思うんですよ。その人がライブに来てくれて、50歳を超えた我々のステージを観たらきっと元気が出るだろうし、「俺もがんばろう」っていう気持ちになってくれるんじゃないかなって。今や筋少はそういう存在になってるし、なるべく長いことやったほうがいいんじゃないですかね。
橘高 他人事のように(笑)。
大槻 客観的に(笑)。あとね、外国にはオーバー60のロックバンドがいくらでもいるじゃないですか。そういう人たちのライブを見るとね……俺ごときが言うのもアレだけど、グルーヴっていうんですかね? それがちょっとヘンなんですよ。つまり、いわゆるロック、ではなくなってるんです。
本城 どういうこと?(笑)
大槻 この前ね、わざわざ車で名古屋まで行って、Deep Purpleのライブを観たんですよ。「Highway Star」から始まったんだけど、なぜかハードロックに聴こえなくて(笑)。以前とは違うグルーヴになっていて、笑っちゃう部分もあるだけど、「いいなあ。面白いな」と感じるところもあるっていう。筋肉少女帯もこのまま続けていけば、老いたるバンド特有の奇妙なグルーヴが出せるんじゃないかと。それも楽しみ。
本城 「確かに『釈迦』なんだけど、ちょっと違うんだよね」って(笑)。
内田 難しいよ、それ(笑)。
橘高 いや、わかるよ。海外のバンドのライブを観ていて「すごくハードで、テンポも同じでモタってるわけではないのに聴きやすいよな」と思うことあるから。なんだろうね、あれは。
大槻 ねえ? あとさ、キース・エマーソンの指があまり動かなくなって、弾けてないというかね。
内田 いいんだよね、あれ。
大槻 老獪だよね。とか言って、筋少もすでにそう思われてたらおかしいよね。
橘高 「あんたたちの演奏、最近そうなってるよ!」って(笑)。
本城 ハハハハハ!(笑)
大槻 怖いなあ。
内田 がんばろう。
橘高 (笑)。バンドにもいろいろな変化があるから、どうなるか楽しみですけどね。筋肉少女帯も再結成後のキャリアのほうが長くなってるし。
大槻 ホントだよね。
本城 未知の世界なので、いろんな面で不安です(笑)。一番は肉体的なことかな。
内田 足元に気を付けないとね。
大槻 楽しみな部分のほうが大きいんだけど、確かに体力のことは大変だよね。もしライブをやってなかったら、メタボになって相当ヤバかったと思うし……。僕は武道家や格闘家の本を読むのが大好きなんですけど、ああいう人たちも年齢を重ねると、筋力ではどうにもならなくなるんですよ。そこでスピリチュアルな方向に行く人もいるんだけど、ロックもそうなる人がいるんじゃないかと思って。
橘高 スピリチュアルな方向に行くの?
大槻 そう! 「体に気を通して」みたいな。古武術の雑誌とかにロックミュージシャンが出てたりもするけど、なぜロックボーカリストが歌い続けられるかって言うと、動いてるからなんだって。ミック・ジャガーなんて、ずっと動きながら歌ってるでしょ? 止まったままだと、声帯が衰えるらしいよ。個人的には東洋神秘武術的な方向で、あと20年はがんばりたいと思ってます。
本城 ハハハハハ(笑)。
若いときは「客は敵だ」って思ってたけど
──筋肉少女帯のライブは解散前よりもさらにハードな印象もありますけどね。演奏陣の進化ぶりもスゴイし。
大槻 楽器演奏陣は熟練の時期なんですよ。今でもすごく覚えてるんだけど「大公式2」で「福耳の子供」という曲をセルフカバーしてるんですね。もともとは内田くんと僕が高校生の頃に作ったチープな曲なんだけど、再結成して再録したら、激烈フュージョンハードロックになっていて。とにかくバカテクでブッたまげたんですよ。「『福耳の子供』をこんなにうまく演奏する必要があるんだろうか?」と思ったけど(笑)、それが再結成後の筋少の面白さですよね。サポートメンバーを含めて、熟練のミュージシャンばかりですから。僕自身はね、テレビに出たり、本を書いたり、Vシネマで忍者の役をやったり(永井豪が監督した「空想科学任侠伝 極道忍者ドス竜」)して音楽1本でなかったので、メンバーについていくのが大変だったんです、この10年。再結成以降の筋肉少女帯という新しいバンドにシゴかれているような気持ちでしたね。
橘高 そうなんだ(笑)。でも、ミュージシャンにもアスリートみたいなところがあると思うんですよ。筋力は衰えていくじゃないですか、普通に考えれば。俺自身、20代のときに速いパッセージを弾いてたときは「こういうフレーズは50代になったら弾けないだろう」と思ってましたからね。「50歳くらいになったら、チョーキングとかでフレーズを作っていくんだろうな」って。でも、今の筋少はサポートドラムの長谷川浩二のおかげもあって、以前よりもっと速くなってるんです。
本城 ホントだよね。
橘高 アスリート的に言うと、自分の体に逆らってるんですよね。これはやっぱり“気”のせいか、アドレナリンが出ているのか……。
内田 やっぱり“気”か!(笑)
橘高 ライブでも最後まで自分の演奏をコントロールできるしね。これはしっかり検証して、その結果を後輩たちに伝えたいですね。「これをやればずっとやれる」ということが少しでもわかれば、勇気を持てると思うので。
大槻 ライブに関して言えば、お客さんの存在がデカいですよね。コール&レスポンスでお互いに高揚をフィードバックするっていう。科学的なことはわからないけども、その場にいることで力が漲っていることは確かだし、お客さんも2時間20分とか30分くらい立ったままですごく元気なんです。
内田 筋肉パワーだ。いや、友情パワーかな。
──それは「キン肉マン」ですね(笑)。
大槻 でも、すごいパワーですよ。音楽を通したコミュニケーションによる身体機能の高まりというか。免疫系にも効いてるんじゃないかなあ。
橘高 若いときも高揚は感じてたんだけど、お互いにフィードバックしている自覚は少なかったと思いますね。今はお客さんも俺たちもライブを楽しんでいるし、やっぱり特別な場所ですからね。
大槻 そうだね。僕なんかもパンクの洗礼を浴びているところもあるし、若いときは「客は敵だ」って思ってたから。客なんてものは、いつかベースでぶん殴ってやらなくちゃいけないって教わってきましたからね(笑)。若い女の客に「キャー!」なんて言われようものなら「うるせえ!」とか思ったりして……。カッコいいね。イキがってたんだね。
内田 ホントにそう(笑)。
本城 足とか触られて「触わるんじゃねえ!」とか。
橘高 お客さんに「うるせえ! 黙れ!」とか言ってからね。「何様だ、おまえは」って話なんだけど。今はお客さんも「楽しむ」という意識が高くて、演者みたいな感じでライブに来てくれるからね。
大槻 うん、すごくフレンドリー。それは大きな違いだよね。ニューミュージック系は当時から「楽しもう」だったんですけど、パンク、ロック系は違ってたからね。もうね、ライブは戦いだったんです。お客さんとバンドも戦ってるし、メンバー同士も戦ってるし。ライブが終わっても対バン相手とケンカしたり(笑)。
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- ベストアルバム「再結成10周年パーフェクトベスト+2」 / 2016年10月26日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
- 初回限定盤 [CD2枚組+DVD] / 4838円 / TKCA-74428
- 通常盤 [CD2枚組] / 3218円 / TKCA-74429
DISC 1
- めでてえな?(バンド再結成10周年の歌)
- 仲直りのテーマ
- トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く
- ワインライダー・フォーエバー(筋少Ver.)
- 枕投げ営業
- おわかりいただけただろうか(Vo.橘高Ver.)
- 孤島の鬼
- ムツオさん
- 週替わりの奇跡の神話
- ゾロ目
- ツアーファイナル
DISC 2
- パノラマ島失敗談
- 釈迦
- アウェー イン ザ ライフ
- 機械
- 混ぜるな危険
- 労働讃歌
- 蓮華畑
- 恋の蜜蜂飛行
- 地獄のアロハ
- 中2病の神ドロシー ~筋肉少女帯メジャーデビュー25th記念曲
- 新人バンドのテーマ
初回限定盤DVD収録内容
- 再結成10周年 Anniversary Movie
- ニューシングル「人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)」 / 2016年10月26日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 2970円 / TKCA-74401
- 通常盤 [CD] / 1296円 / TKCA-74402
CD収録曲
- 人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)
- 週替わりの奇跡の神話('16 Live Version)
- マタンゴ('16 Live Version)
- 人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)[Short Version]
- 人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)[Original Karaoke]
- 人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)[Instrumental]
初回限定盤DVD収録内容
MUSIC VIDEO
- 人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)
LIVE VIDEO
2016年4月23日 LIQUIDROOM 公演より
- モコモコボンボン(Vo.内田)
- LIVE HOUSE(Vo.本城)
- スラッシュ禅問答(Vo.橘高)
- 日本印度化計画(Vo.ナカジマノブ)
- 球体関節人形の夜(Vo.野水いおり)
- イワンのばか(Vo.二井原実)
- 日本の米(Vo.橘高、本城、内田)
- 航海の日
- 地獄のアロハ(Vo.橘高、本城、内田)
- 釈迦(Vo.大槻、二井原実、ナカジマノブ、野水いおり)
筋肉少女帯(キンニクショウジョタイ)
1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂ(Vo)と内田雄一郎(B)によって結成。インディーズでの活動を経て、1988年にアルバム「仏陀L」にてメジャーデビューを果たす。1989年に橘高文彦(G)と本城聡章(G)が加入し、「日本印度化計画」「これでいいのだ」「踊るダメ人間」などの名曲を発表。特に「元祖高木ブー伝説」はチャートトップ10入りを記録し、大きな話題に。大槻による不条理&幻想的な詩世界とテクニカルなメタルサウンドが好評を博すものの、1998年7月のライブをもって活動を“凍結”。各メンバーのソロ活動を経て、2006年末に大槻・内田・橘高・本城の4人で活動再開を果たす。2007年9月には約10年ぶりのオリジナルアルバム「新人」をリリース。東京・日本武道館公演や「FUJI ROCK FESTIVAL」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」といった大型イベントへの出演など、精力的なライブ活動を展開する。2015年5月には人間椅子とコラボバンド「筋肉少女帯人間椅子」でシングル「地獄のアロハ」を発表。2016年10月にはベストアルバム「再結成10周年パーフェクトベスト+2」とシングル「人から箱男(筋少×カラオケDAMコラボ曲)」を同時リリースした。