木梨憲武「木梨ミュージック コネクション最終章 ~御年60周年記念盤~」インタビュー|木梨憲武にとって音楽とは? (2/2)

毎日違うことをすれば迷う暇なんてない

──そもそもの話、なぜ木梨さんはいろんな方向に好奇心が向かうんですか? バラエティだけやっていても生活には困らないわけじゃないですか。

いや、それを言ったら俺なんて自分でもよくわからないままテレビのバラエティに出ていて、その延長線上で音楽もアートも自転車屋もあるんだけど、たぶんどれか1個に絞ると……なんというか“迷い”が出ちゃうと思うんだよね。毎日違うことをやっていれば、迷う暇なんてないじゃない? 「今日はどういう動きで楽しんでいくかな?」って、そういうムードをつかんでいくような感覚でいるから。まあもちろん締め切りとか他人のスケジュールもあるから、そこには合わせないといけないんだけどさ。

木梨憲武

──木梨さんにとって自然なスタイルなんでしょうね。

「今日は特に予定ないけど、どうしようかな?」ってとき、音楽とアートは自分にとって最高なものなわけ。もちろんそういう日は「音楽」や「アート」じゃなくて「サウナ」や「マッサージ」にするという手もありますけどね。ただ、おじさんになると酒の量が増えたらグッタリしちゃうのよ(笑)。自然と早起きになるし、音楽とアートにますます没頭するという流れができてるの。

──理想的な年齢の重ね方に思えます。

うん。音楽はさ、ギターとか抱えつつ「ああでもない、こうでもない」って仲間とやっている時間が一番楽しいんだよね。「メロディはどうする?」「メロディは所(ジョージ)さんからもらっちゃうか」「じゃあ何風に仕上げる? ロック? いや、違うな。演歌かな」「子供向けのかわいい感じもアリじゃないの?」みたいな。そういうことを弁当食いながら話すのが本当に面白くて。

──音楽を通じてのコミュニケーション?

そういうこと。結局、所さんにしても宇崎(竜童)さんにしても音楽ということに関してはプロ中のプロなわけですよ。それだけの人たちが寄ってたかって遊んでくれるんだから、楽しくないわけないよね。宇崎さんと阿木(燿子)さんから曲をもらうなんて、ガキの頃から2人が作った曲で育ってきた俺にしてみたら超ぜいたくな話。阿木さんから「なんでそこ強く歌うの? もう1回!」なんてダメ出しされてね。

──レコーディングまで深く関わっていたんですね。

もちろん、もちろん。AKLOとかヒップホップの人たちと一緒にやったとき(2019年発表の1stアルバム「木梨ファンク ザ・ベスト」レコーディング時)もそうだったけど、それぞれの道の先生たちがズラリとそろっているような状態だからね。毎回、「なるほどねえ」と感心しきりですよ。何しろこっちは専門的な音楽用語を知らないから、彼らとまともな音楽の会話ができないわけ。フィーリングと勘でしか渡り合えないという(笑)。本当に俺もピアノとかギターが弾けたらなって思いますよ。もう将来の夢だね、こればっかりは。

──あれ? YouTubeに上がっている「私は神様を知っている feat. 所ジョージ」のLive ver.で所さんと一緒に弾いていませんでした?

とんでもない! 弾いていないのは当然のこととして、あれ実際は弦をまともに張っていないかもしれませんよ。ただ俺、ものすごく弾ける感じは出せるのね。なんだったら、(エフェクターを操作する真似をしながら)足もこうやって動いちゃうくらいだし。弾いていないくせに意識がギターのほうばかり向いちゃって、ボーカルが曖昧になることすらありますから(笑)。まあそれも含めてトータルで楽しんでいただければと。

木梨憲武

変わりゆくエンタメ、おじさんに何ができるのか

──とんねるずや野猿がお茶の間を席巻していた時代は「テレビと音楽」「お笑いと音楽」という関係が密接だったと思うんです。今は音楽にしてもお笑いにしても「教室のみんなが話題にする対象」が消えてしまったように思えるのですが、木梨さんはこの現象をどう受け止めていますか?

うーん、結局ね、今は本当に全員が“人それぞれ”になっているということだと思うのよ。テレビに関しては、うちの20代の子供たちだってあまり観ていないくらいだもん。音楽だってThe Beatlesが好きなのか、アイドルが好きなのか、ロックが好きなのか、男のボーカルが好きなのか、女の声が好きなのか……そんな中に木梨憲武が好きな人もいるんだろうけどさ。わざわざ自分の好きな音楽を言う場所があれば口にするかもだけど、そうじゃなければ他人が何を好きかなんてわからないじゃん。

──そうかもしれません。

昔も今も自分の好きな音楽を探すっていうのはそんなに変わらないと思うんだ。例えば兄貴とか姉貴の影響で引きずり込まれたみたいなパターンは変わらずあると思うし、今はケータイを持っていればなんでも数秒で出てくる世界だから探しやすくはなっているよね。

──いろんなことが便利になっているのは間違いないでしょう。

結局、アーティスト側は「よし、これを届けるぞ!」という大会じゃないですか。BTSもEXILEの若い衆もジャニーズもAKB48も乃木坂46も……トップクラスにいる人たちも含めて全員が必死で音楽を届けようとしているわけ。で、リスナー側も無駄にいっぱい聴けちゃう中から自分の好きな音楽を探しているんだろうね。

──なるほど。より厳しい戦いになっているということですか。

そんな厳しい状況の中でね、今さらこのおじさんたちが出てきて何ができるんだっていう問題はあるんだけど(笑)。まあ昔を懐かしがってくれるような世代のほかにも、例えば今は昭和の歌謡曲が若い人たちに見直されてもいるしさ。やっぱり生バンドとトランペットの気持ちよさみたいなのってあるじゃない? 「8時だョ!全員集合」で歌手の人の後ろで演奏しているバンドマンたちのタイトな演奏とかね。そういった気持ちよさは今のアーティストよりもわかっているかもしれない。かと言って今の人たちがダメだと言っているわけじゃ決してなくて、昨日もEXILEのライブを観て圧倒されちゃった。あまりにもすごいパフォーマンスと演出だったから。

木梨憲武

──EXILEから刺激を受けることもある?

もちろん! 我々の時代じゃ考えられなかったようなスクリーン演出でしたよ。VTRかと思っていたら急に生の映像に切り替わったりして、あれは本当にすごかった! 「これ、いくらかかってるんだ?」「HIRO社長にお願いしてノウハウを聞くしかないな」とか考えていたくらいで。映像演出だけじゃなくてライブ自体の完成度も高かったし、「恐るべし、LDH」という気持ちで会場をあとにしました。

──感性が若いというか、アンテナを高く張っていることが伺えます。

かと思えば先輩の矢沢(永吉)さんはデカい会場でいまだにロケンロールをやり続けていて、桑田(佳祐)さんも小田(和正)さんも年齢なんて関係なく飛ばしているじゃない? 昨日はEXILEの会場でB'zの松本(孝弘)さんにばったり会ったんだけど、向こうは帰ろうとしていたから、「1杯! 1杯だけ付き合って!」と強引に引き止めて新曲の打ち合わせに持ち込んだんですけど(笑)。

──そこはやっぱりアルコールの力も利用して(笑)。

そりゃそうですよ。松本さんは自分たちのデカいツアーが始まっているから、「俺、明日もライブなんだけどな……。もう1杯だけですよ」なんて言いながら付き合ってくれました(笑)。「今度、改めて○月×日に」なんて会社を通してスケジュール調整しなくても、そうやってその場でタイミングを合わせてくれるから、すごく運がいいなと感じて。

──それは木梨さんの人徳が大きいように思えます。

それはわからないけど、とにかくすごいテンポ感でどんどんコラボ相手とやることが決まっていくものだから、運営……特にユニバーサル・ミュージックのスタッフが大変かもしれない。

──確かにレーベル間の細かい調整などはあるでしょうね。

まあでもそこは「ついてきてください」ってお願いするしかないよ。「ついて来れないなら、ソニーに行っちゃいますよ?」とか軽く脅しつつ(笑)。

木梨憲武が考える「プロへの道」

──若いYouTuberを筆頭に「好きなことで生きる」というのが、今の時代のキーワードになっています。それこそ木梨さんは、そういったライフスタイルの先駆者だったように思えるのですが。

趣味が仕事になったり、仕事が趣味になったりと全部がつながっているからね。でも俺から言わせると、お笑いの人も音楽とか絵とか本気でもっとやっていいのよ。勘違いしているくらいイケイケの勢いで進んじゃっていいと思う。「絵なんてどうやって描くんですか? 私、下手だから絶対にできません」なんて言ってくる人もいるけど、そんなもん知ったことじゃない。自分の描きたいものを描けばいいだけなんだよね。そこで本当に好きで、強い意識があれば勝手にプロになれるものだし。俺なんて別に先生の下で絵の勉強をしたわけでもないし、音楽理論なんて何ひとつわからないままだし。

木梨憲武

──どんな分野でも、フットワークを軽くすることは大事かもしれません。

テレビも同じですよ。「今日この場で決めたことを、明日スタジオですぐ撮る」みたいな勢い。そういうリズム感で昔からやっていたからね。前から決まっていたことをキャンセルしてまでも、今この場で面白いことを速攻でやっちゃう。(DJ OZMAとコラボした)矢島美容室なんか、まさにそんな感じだったし。今回のアルバムも同じ調子で、そのへんですれ違った人にどんどん声をかけて実現させていったわけ。(綾小路)翔やんのフェスで出会った(森山)直太朗しかり、B'zの松本さんしかり。

──人脈作りのエキスパート!

だから、こうなると感覚的にはコーディネーターだよね。なんなら「これだけ歌がうまい人がそろっているんだから、俺が歌う必要なんてないか」と思うことすらあるし(笑)。例えば俺にとっては憧れの存在である宇崎さんと阿木さんから曲をいただいた。それを自分1人で歌えばいいものを、「もっとパワーがほしい」とか余計なことを考えてマツコ(・デラックス)とミッツ(・マングローブ)にも声をかけて歌ってもらう。そういうの全部、宇崎さんが知らないところで決めちゃうからね。宇崎さんも呆れつつ俺のことを理解してくれたみたいで、「事後報告」という曲も新たに書き下ろしてくれたんですよ。今度、それは発表できると思います。

──それでは最後にお願いがあるのですが、「自分にとって音楽とはなんなのか?」。このテーマで一筆いただけませんでしょうか?

うわっ、スケッチブックまで用意しているんだ。マスコミの人たちって、こういうのが好きだよね(笑)。うーん、俺にとって音楽か……。改めて聞かれると難しいな(笑)。

──申し訳ございません! でも音楽ニュースサイトなので、音楽について木梨さんなりに定義していただけると助かります。

でも、こういうことかもしれないな……(と言いながらペンを走らせる)。

木梨憲武「Peléのように!!」

木梨憲武「Peléのように!!」

木梨憲武「Peléのように!!」

木梨憲武「Peléのように!!」

──「神様」ということですか?

そういったこじつけは、そちらでお願いしますよ。得意でしょ?

──そこをなんとか(笑)。野暮かもしれませんが、説明お願いします。

音楽というのは、人に何かを訴えて、人に影響を与えていくものなのかなって思う。サッカーの世界で言えば、それはペレがまさに成し遂げたことであって。その結果、人々からは「神」と呼ばれるようになったというわけ。自分もおじさんではありますけど、ペレに少しでも近付けるようがんばりたいと思います!

プロフィール

木梨憲武(キナシノリタケ)

1980年、日本テレビ系のお笑いオーディション番組「お笑いスター誕生!!」に帝京高校の同級生・石橋貴明とのコンビ「貴明&憲武」として出場。とんねるずへの改名後、1982年にこの番組を10週連続で勝ち抜きグランプリを獲得する。プロデビュー以降はフジテレビの「オールナイトフジ」や「夕やけニャンニャン」への出演を機に若者から人気に。コントやモノマネで見せる芸達者ぶりや自由奔放なトークなどで笑いを提供し続ける。フジテレビ系で放送のバラエティ番組「とんねるずのみなさんのおかげです」で演じた「仮面ノリダー」や「ノリ子」といった数々のキャラクターは多くの人に愛された。2018年に主演映画「いぬやしき」が公開されるなど俳優としても活躍。音楽活動にも意欲的で、とんねるずや野猿のほか、山本譲二とのデュオ・憲三郎&ジョージ山本でも「NHK紅白歌合戦」に出演した。2019年にはソロ歌手の木梨憲武としての活動を開始。2022年6月に木梨が交流を持つ“コネクション(仲間たち)”を生かし、さまざまな楽曲を制作したアルバム「木梨ミュージック コネクション最終章 ~御年60周年記念盤~」をリリースした。芸術活動も行っており、国内外で個展を開催している。