本当はジュディマリやスピッツのようなバンドが組みたかった
──そこからどのように今の活動につながっていくのでしょうか。
音楽活動としては、十代後半に1人でライブハウスのステージに上がったのが最初です。ほんまは友達とバンドを組みたかったんですけどね。
──なぜ1人で出ようと思ったんですか?
バンドを組みたいという気持ちもあったんですけど、もともと1人で完結させてしまうようなところがあるんです。きっかけとしては、あるときカセットMTRを買ってきて、家で小さな電子ドラムを叩きながら録音をしているうちに「これに合わせて歌ったり、生演奏したらおもろいかな」と思い始めまして。それで家の近くのライブハウスにデモテープを持って行ったら、ライブに出演できることになって。でもいざ出てみたら共演者がみんなパンクバンドだったんですよ。そんな初めてのライブですごく不安だったのですが、ステージを終えたらライブハウスのいかついお兄さんに「いいやん。また出て」って言われたんです。そこでダメ出しされてたら「あ、やっぱり表に立ってはいけない人間なんだ」と思ってしまったと思うから、その言葉が音楽を続けるにあたってすごく大きかったんだと思います。
──そのときはカセットに合わせて歌ったり生演奏したりしていたということですが、目指していたアーティスト像はどんなものだったんですか?
僕としては普通にJUDY AND MARYとかスピッツみたいなことがしたいなって漠然と思ってたんですけど、音楽理論がわかってなかったから形にならなかったんです。僕の音楽は、周りから変な音楽だと言われていましたし。本当はバンドも組みたかったんですけど……。
──これまでにバンドを組んだことは?
初ライブのあと、友達を誘ってバンドを組みました。でも僕があまりにも真面目に音楽をやりたいっていうモードになっていることに白けられて、みんな離れていっちゃって。二十代のときに職場で知り合った人たちと組んだバンドはけっこう続きましたね。でもみんな音楽は聴くほうが好きっていうタイプだったので、年を重ねてフェードアウトしていって。だからバンドが消滅するたびに1人になったけど、「音楽作ることだけは、この先どうなろうと続けるだろうな」っていう感覚はずっとありました。
“変な音楽”と言われるけど、僕の中では王道をやってるつもり
──自分としてはジュディマリやスピッツのようなバンドを組みたかったけど、結果として周りから“変な音楽”だと思われたのはなぜだと思いますか?
僕の中では、そのときも今も王道の音楽をやってるつもりなんです。JUDY AND MARYで言うと「Over Drive」ぐらい、僕の中では王道の感覚なんですよ。でも、どうしても変化球を投げているように見られがちなんです。
──その西中島さんと周囲とのズレってなんだと思いますか?
うーん……あっ、例えば地上波の音楽番組で、ロキノン系のバンドさんが出てきたときに、皆さんすごく耳なじみのいい音楽をやっていて。1回聴いたらパッと耳に入ってきて「歌ってしまいそう」みたいな感覚があると思うんです。でもそのとき僕はどうしても違和感を感じちゃうんです。
──違和感?
なんと言うか、最初にその音楽を聴いたときに「よくわかんないな」と思ってしまうものに惹かれてるからかもしれない。例えば僕は「POINT」(2001年リリースの4thアルバム)以降のCorneliusさんが好きなんですけど、それはよくわからないことをやってるのにちゃんと成立しているからなんですね。僕はそういう人に憧れているのかもしれません。あと向井秀徳さんや54-71にもすごく影響を受けているから、実際はそれらが混ざっていてストレートに表現できていないのかもしれないです。
──なるほど。いろいろな要素が混ざって西中島さんの“王道”になっていると。
自分で自分を分析するのは難しいんですけど、わかりやすく言うとちょっと天邪鬼だとは思うんですよ。例えば小学生のときも、自分だけ違う筆箱を持っていきたいと思ってたし。そういう感覚がずっと続いてるんだと思います。
──自分のオリジナリティを追求したいという気持ちも強い?
そうですね。JUDY AND MARYが好きだからといって、JUDY AND MARYをそのままやりたいわけではないですから。世の中にはもういろんな音楽があるから、何かしらには似ると思うんですけどね。なのでそういう点では、好きな音楽を意識しすぎないようにしています。
トリプルファイヤー吉田とコラボしたきっかけ
──「1人で完結させてしまうようなところがある」という話がありましたが、近年の西中島さんはさまざまなアーティストとコラボ曲を発表しています。
今までは例えばミックスのとき、エンジニアさんがすごく優秀な方だとしても、結局は自分がやったミックスのほうがいいなと思ってしまって。そういう気持ちになるぐらいだったら1人でやっちゃおうと思っていたんです。でも人とコラボをしたことによって、これまで「1人遊びでいい」「1人で完結していればいい」という気持ちしかなかったのに「人と思いを共有するのは楽しいな」って思えたんです。しかもコラボだと期間限定だから、バンドほど負担はない。だから今はなるべく、ミュージシャンはもちろん、イラストレーターでも映像作家でも、自分が気になった人にはコンタクトを取るようにしてます。好きな人と何かを作る喜びがどんどん生まれています。
──バンドをやっていた頃は負担に感じていたんでしょうか。
いや……今までのバンドは僕が誘った友達なので、けっこう静かな人たちだったし負担もなく、居心地はよかったですね。居心地という点では、今回コラボしている吉田(靖直 / トリプルファイヤー)さんは本当によかったです。すごく安心できます。あとここでちょっと謝りたいことがあって……。
──なんでしょうか。
最近吉田さんはメディアへの露出も多いですし、トリプルファイヤーさんのリリースもあったりとかで……僕、オファーの段階でそれを知らなかったんです。だからちょっと乗っかるような形になってしまった気がして。そういうことではないですし、申し訳ないなと思っています。
──そうだったんですね。そもそも吉田さんとコラボすることになったきっかけは?
2012年頃、イベントのオーガナイザーをやっていたんですが、トリプルファイヤーのライブ映像を目にする機会があって「イベントに呼びたいな」と思いました。でも結局こちらから交通費を4人分出せなくて、叶わなかったんです。僕はその後もトリプルファイヤー、そして吉田さんがどうしても気になっていたので「EDMはポップコーン」(6月リリースの配信シングル)にボーカルとして誘わせていただきました。
──この曲では吉田さんと共に井出ちよの(3776)さんがボーカルを担当しています。
最初、井出ちよのさんが歌うことが決まっていたんですけど、BARBEE BOYSみたいに男女が掛け合う楽曲を作りたいなと思って。世の中の派手すぎたり浮かれすぎたりしてるところに対するツッコミをポップに入れたいなと思ったんですけど、僕が歌っちゃうと悪意があるように捉えられそうだし、ポップにならない。そこで吉田さんの声が浮かんだんです。マイルドで落ち着くし、すごくバランスがいいかもしれないと思ってオファーさせていただきました。
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吉田さんはダメ人間じゃなくてカッコいい男
- 西中島きなこ+吉田靖直
「西中島きなこ+吉田靖直」 - 2017年12月6日発売 / BINKAN
- 収録曲
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- ぶっ飛び隊
- ジューシー
- お前を予約
- Bボーイ
- グイグイ来る人
- うまくはいかない
- ナイトプール
- 地元の不良
- EDMはポップコーン
- 若者
- 地獄の魔術師
- 西中島きなこ+吉田靖直「コミックパッション」
- 2017年12月6日配信リリース / BINKAN
- 収録曲
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- 女子大の学園祭
- プレミアムフライデー
- ウォシュレットイットビー
- コミックパッション
- 花の好奇心
- 相席が出来る店
- うまくはいかない配信MIX
- ぶっ飛び隊
イベント情報
- 西中島きなこ+吉田靖直 レコ発イベント「笑美天」
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- 2018年1月27日(土)大阪府 ロフトプラスワン ウエスト
出演者西中島きなこ+吉田靖直 / ぱいなっぷるくらぶ / オオルタイチ / 曽我部恵一 / バレーボウイズ / 印象派 / オカザえもん
- 2018年1月27日(土)大阪府 ロフトプラスワン ウエスト
- 西中島きなこ(ニシナカジマキナコ)
- ソロプロジェクト・音に敏感として2014年から宅録を中心とした創作活動を開始。2016年からは西中島きなこ名義で活動を行う。2017年3月、タワーレコード限定シングル「調和と恵み / MELLOW / 春風の遊覧船」をリリース。吉田靖直(トリプルファイヤー)をゲストボーカルに迎え、5月にミニアルバム「ナイスなヤング」、7月にdiskunion限定アルバム「ナイスなユニオン」を発売した。さらに12月には吉田とのタッグによる1stフルアルバム「西中島きなこ+吉田靖直」と配信限定アルバム「コミックパッション」がリリースされた。