音楽ナタリー PowerPush - Kidori Kidori
コンセプトは“サウダージ” 初の日本語詞アルバム
Kidori Kidori が6月3日にニューアルバム「! [雨だれ]」をリリースする。「サウダージ(郷愁)」をコンセプトに制作された今作は、故郷を懐かしむ思いと、都会生活における心情が交錯する彼らの“今”が詰まった充実作となっている。
今回音楽ナタリーでは、初の全曲日本語詞となるアルバムを完成させたマッシュ(Vo, G)にインタビューを実施。上京から約1年、どのような経験を経てこの作品を完成させたのか、彼はさまざまな思いをたっぷり語ってくれた。なおこの特集では、先日公開となったアルバムのトレイラー映像の撮影現場レポートもお届けする。
取材・文 / 田中和宏 撮影 / 西槇太一(P1~3)
都会と故郷の狭間に揺れる
──約3年ぶりのフルアルバム「! [雨だれ]」が完成しました。なぜ今回、日本語詞のみのアルバムを作ろうと思ったんですか?
前々作のミニアルバム「El Blanco 2」(2014年8月発表)の収録曲で、今作の2曲目に入ってる「テキーラと熱帯夜」がきっかけになってます。前々作で曲作りが難航してて、バンドのサポートをお願いしていた藤原寛さん(B / ex. andymori)に相談をしたときに「弾き語りで名曲を作ってみればいい」とアドバイスをいただいてから作った曲です。日本語の曲自体はもともとデモCDとか、1stアルバム(2011年7月発表「El Primero」)の頃から何曲かあったんですけど、当時は日本語の曲を周りから酷評されてまして。自信をなくしていたというか、敷居の高いものだと思ってたんですよ。でも去年弾き語りで作った日本語詞の「テキーラと熱帯夜」でその不安から脱した感じがして、全部日本語の作品を作っても面白いんじゃないかなって思えたんですね。
──今年の2月には日本語詞3曲と洋楽カバー3曲からなる「El Urbano」をリリースしました。
この作品のタイトルは「都会」って意味なんですけど、僕らが大阪から上京してきて思ったことを歌った3曲は日本語のオリジナル曲で、カバーは僕の趣味全開の選曲になってます。「El Urbano」は新作の伏線になるイメージで、メインテーマが都会でしたけど、今回のコンセプトはサウダージ、つまり郷愁です。
──昨年から東京都内の“Kidori荘”にメンバー2人で引っ越してきたというような上京エピソードは今作に含まれてるんですか。
例えば「住めば都」は実際にこっちに来てみてどうだっていう曲だし。1番と2番の歌詞で都会と田舎のことを歌っていて、都会になじもうとしてる感じも歌ってます。
──大阪の堺市で結成されたバンドですよね?
堺でも田舎のほうで、グリコの看板とかがあるいわゆる大阪の繁華街とはまったく違う田畑に囲まれて育った人間なんですよ。川元(直樹 / Dr)に至っては上京が初めての引っ越しだったっていうこともあって、まだまだ田舎者独特の地元愛というか地域密着的な思想が抜けないし(笑)。川元自身もまだなじめてない東京に暮らしている、“真ん中の人”なんだなあって見てて感じますね。
──真ん中の人って?
都会に出てきたけど、地元のことを思い出しがちというか。僕は東京だとあまり関西弁は使わないようにしてますけど、やっぱりたまに訛りは出てしまうし。「東京に住んでるけど、まだ東京の人じゃない」って自分で感じるんですよね。
これまでは怒りを歌うことが多かった
──今作のコンセプトは「サウダージ」とのことですが、ボサノバの影響がある?
そうですね。例えば4曲目の「コラソン」っていうのは心って意味で、これもボサノバによく出てくる言葉です。でもボサノバ風アレンジを取り入れるとボサノバ感が出すぎるんで、シュガー・ベイブみたいなシティポップの要素を取り入れたんです。実はシュガー・ベイブの曲とボサノバの曲で使ってるコードが似てる曲もけっこうあるんですよ。
──今作は全体を通してこれまでの「Watch Out!!」「Come Together」のようなハードでエッジーな曲がないですね。
速くてやかましい部類の曲は「あなぼこ」だけですね。今回はギターをほとんど歪ませてないんですよ。今までの曲は喜怒哀楽でいうと怒りの部分が多くて。イライラしながら作ることもあったし、そういうときのほうがうまく作曲できたってこともあったんです。
──今回はそうではない?
今回はこれまでの作品でもエンジニアとしてお世話になっていた三浦(薫)さんにミックスとマスタリングをしていただいてるんですけど、今回のデモを渡したとき「今までのものは感情をブーストして作ってたんだろうね。これまでとだいぶ違うけど、君の素はこっちなんだね」って言われたんです。確かに素で、ナイーブで、ヌードで、まっすぐな感じが出てるなって、そのとき気が付きました。自分の今までとは違う面が正面を向いてる感覚がすごくあります。
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- ニューアルバム「! [雨だれ]」 / 2015年6月3日発売 / 2592円 / HIP LAND MUSIC / Polka Dot records / RDCA-1040
- ニューアルバム「! [雨だれ]」
収録曲
- ホームパーティ
- テキーラと熱帯夜
- あなぼこ
- コラソン
- Tristeza
- なんだかもう
- 住めば都
- !
- 傘を閉じれば
- アフターパーティ
- Kidori Kidori「! [雨だれ]」インストアイベント
- 2015年6月4日(木)
大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 - 2015年6月11日(木)
東京都 タワーレコード新宿店 - 2015年6月14日(日)
神奈川県 タワーレコード横浜ビブレ店 - 2015年7月10日(金)
大阪府 タワーレコードなんば店
- Kidori Kidoriと雨やどりワンマンツアー
- 2015年6月20日(土)
大阪府 Shangri-La - 2015年6月21日(日)
愛知県 池下CLUB UPSET - 2015年6月28日(日)
東京都 UNIT
Kidori Kidori(キドリキドリ)
大阪・堺で結成され、2008年より本格的に活動を開始。バンド名は村上春樹の小説「ねじまき鳥クロニクル」に由来する。UKロック、パンク、ハードコア、ジャズ、ファンク、プログレ、テクノ、J-POP、ワールドミュージックなど、幅広いジャンルの音楽を帰国子女のマッシュ(Vo, G)の感性で昇華したサウンドが特長。2011年7月に初の全国流通盤「El Primero」を、2012年8月に「La Primera」を自主レーベル・Polka Dot recordsよりリリースした。2014年3月にンヌゥ(B, Cho)が脱退し、バンドはマッシュ、川元直樹(Dr, Cho)の2人にサポートメンバーを加えて活動することを表明。同時期に拠点を大阪から東京に移し、8月13日に新体制第1弾となるミニアルバム「El Blanco 2」をリリースした。同月「SUMMER SONIC 2015」などに出演し、その後も多数のフェスやイベントに参加。2015年2月に日本語詞3曲、洋楽カバー3曲のCD「El Urbano」を発表し、東京・新代田FEVERで自主企画「1989」を開催した。6月にバンド初の全曲日本語詞のアルバム「! [雨だれ]」をリリース。同月に東名阪ツアー「Kidori Kidoriと雨やどりワンマンツアー」を行う。