キセル|変わらない、でも今までとはなんとなく違う20年目 キセル、20周年おめでとう。細野晴臣、斉藤和義、坂本慎太郎、中納良恵、曽我部恵一ら アーティスト15組から寄せられた祝福メッセージ

兄弟

──兄さんの今の発言を受けての“兄弟”というテーマです。「兄弟だから言わずもがな」という部分もありつつ、「兄弟なのに言ってもわからんのか」という面も当然ありますよね。

キセル

友晴 よく兄さんに言われるんですよ。「言わんでもわかるでしょ」って。でも言ってもらわんとわかんないし(笑)。

豪文 そんなこと言わんやろ。

友晴 え? ほんま?

──まあまあ(笑)。

豪文 ああ、でもそれは兄弟やからとかは関係ないっていうか。友晴さんの飲み込み方がおかしい、ってときがあって(笑)。

友晴 まあでも、そういうときのやりとりが兄弟ぽいかなとは思います。当たりがキツかったり、脱線して変なほうにいってケンカになったりとか(笑)。

──でも、キセルは結成して20年ですけど、友晴くんが生まれてからだから2人は39年兄弟をやってるわけじゃないですか。その兄弟間の感じは、キセルをやる前からあんまり変わらないですか?

幼き頃の辻村兄弟。左より豪文、友晴。

豪文 ちっちゃいときの話までさかのぼると、僕が小6のときまで団地に住んでたんですけど、その4階で同年代の子供たちのグループがあって。弟はその中でも一番ちっちゃかったんですけど、すごく可愛がられてて。いつも遊ぶときは付いてきてましたね。

──2人は4歳年が離れているので、同じ中高には在学しないという年齢差なんですよね。それくらい年が離れていると話題も違ってしまいがちですけど。

豪文 そうなんですよ。けっこう離れてるといえば離れてて。僕が先に音楽を始めて、最初はメタルをやってたし、弟の選択肢に「自分も音楽をやる」というのは入ってなかったと思うんですけど、高校2年くらいから急にギターの練習をしだして。そこから共通の話題ができてきましたね。弟が「宅録でテープを作りたい」って言ったときも自然に「手伝おうか」って感じやったし。逆に、音楽がなかったら、すごく疎遠な兄弟やったかもしれない。

──疎遠というか、普通というか。お互いにそれぞれの道を進む兄弟だったんでしょうね。上京してからも、しばらく一緒に住んでたんですよね?

友晴 2000年頃に上京して、03年か04年頃までですかね。

豪文 実家では一緒の部屋やったんで、上京して自分の部屋ができたという感じでした(笑)。

友晴 広くなった。自分の部屋やし、ゲームも好きにやれるぞ、みたいな(笑)。

──今はお互いに家庭もできて、離れて暮らしてるわけですけど、それでも1、2週間会わないとひさしぶりだって思うというのは、面白いですね。

幼き頃の辻村兄弟。左より友晴、豪文。

友晴 キセルとしても不安になるんですよ。普通は一緒に働いてる人と毎日会うじゃないですか。「おはようございます」ってあいさつして、仕事の話をして、みたいな。

豪文 僕は、「連絡をマメに取らないと」みたいな感じはないですけど、「弟から『曲ができた』みたいな連絡がないかな?」っていう期待感とかはあります(笑)。メジャーで初めてキセルのアルバムを作ったときに思ったのは、この2人しかいないからってことでもあるんですけど、弟が作ってくる曲とかアイデアが面白いほうに転んだときが、たぶん、キセルとして一番いい状態なんです。弟のアイデアがなくて、自分が思ってることだけだと、すごく音楽がこじんまりしてしまう感じがして。僕がやってることを単に手伝ってもらってるという感じよりは、友晴さんの個性がうまくキセルにハマるときがキセルの肝なのかなという気持ちもあって。まあ、こういう話は電話でもよくするんですけどね。友晴さんが今何を考えているか、というのを。

友晴 そこはわかんないものじゃないですか。結局はそのときのお互いのリンク具合というか。でも、言ってることの「感じがわかる」速度は速くありたいので、最近は世間話でもなんでも、いろいろ話そうと心がけています。曲に関しても、さっき兄さんが言っていた「面白いほうに転ぶ」の「面白い」の到達点が見えへん中で、面白いものを作るっていうのが難しくて。でも、こないだの「The Blue Hour」で僕が書いた「一回お休み」は、けっこううまくできたんですよ。あの曲がポンとアルバムに入ったときに「いけた!」みたいな感覚があった。新しく到達できた曲は自分にとって「キセルがどうなっていけばいいか」というのを考える部分に通じてるんです。

──そういうところでもよく感じるんですが、キセルって兄と弟ですけど、主従関係ではなく対等なんですよね。MCでも話が宇宙的に噛み合わないときがありますけど、そこも主従でどちらかが引っ張ってまとめるみたいな調整はしない。

豪文 いや、でもMCをちゃんとやろうっていう話は20年ずっとしてますから(笑)。「噛み合わへんのが面白い」って言われるのは、自分らとしてはぜんぜんピンとこないんで。

──でも、「じゃあ、こういうふうに段取りしてちゃんとしようぜ」みたいなところからは生まれない面白さが、キセルの音楽にもつながってると思いますけど。

豪文 どうしても兄弟やから、音楽もどこかでドメスティックというか、この2人が持ってるものが自然に出ちゃう部分があるんやなって思うんです。昔、渚にての柴山(伸二)さんにキセルへのコメントを書いてもらったときに、The Kinksのレイ・デイヴィスとデイヴ・デイヴィス兄弟のことを引き合いに出してくれて。「兄弟特有の閉鎖性があるのが面白いんじゃないか」みたいなことを書いてもらったんです。

友晴 The ShaggsとかESGみたいな。

豪文 確かに、自分らが「あ、ええよな」って思うときの、共通して感じる部分の閉鎖性のよさ、みたいなものはあるっすね。それがなかったらここまでできなかったんやろうなと思います。

今後

──近い今後だと、9月16日の日比谷野音での3度目のワンマンがあります。そもそもカクバリズムのアーティストの中で3回も野音をやるのはキセルが最初なんですよね。

豪文 ありがたいです。カクバリズムの要素のどこかをキセルが支えられてるのならいいなと思ってるので。

──野音のキセルはこれまでの2回も観てますが、いつも特別なものを感じるんですよ。2回目の野音(2015年8月30日)で途中から雨が降ったじゃないですか。お子さん連れのお客さんが多かったというのもあったんですけど、雨が降ってきたら大人はみんな雨の備えで大変そうだったけど、子供たちはすごくうれしそうにはしゃぎ回ってたんですよ。あの子たちは詳しくは覚えてないかもしれないけど、何かぼんやりした記憶として「あの雨の日に聴いた音楽」というのは残る気がする。そういう光景がキセルにはぴったりだったんです。今年の「FUJI ROCK FESTIVAL」のFIELD OF HEAVEN(2019年7月27日)で、降り出した雨の中で聴いた「ビューティフルデイ」もまさにそんな感じでした。

2015年8月に行われた東京・日比谷野外大音楽堂公演の様子。
2015年8月に行われた東京・日比谷野外大音楽堂公演の様子。

豪文 今回の野音は20周年やし、すごく簡単にいうと「ひとまずここまでほんとありがとうございます」という。別に20周年を目標にしてたわけじゃないんですけど、長くやれたらいいと言ってたうちに20年経ったという感じで。自分らが2人でやってきたことをお客さんもスタッフも面白がってくれたおかげというのをここ最近すごく実感するようになって。なるべくその恩返しができたらということに尽きると思ってます。その中でも、新しいことにチャレンジできたらいいなとは思ってるんですけど。

友晴 チャレンジというか、何が新しいことかはわからないけど、それは見せたいですね。新曲もやれたらいいけど、音の聴こえ方や演奏の具合とか全体の見え方とか、そういうのも含めて「またよかったな」みたいな感じにはしたいですね。

豪文 今年に入って、今までとちょっと違うフェーズというか、なんとなく演奏してるときに今までになかったまとまりがある感じがして。長く同じメンバーでやれてるお陰もあってライブが楽しいんです。20周年やから勝手にそう思い込んでるのかもしれないんですけど、同じ曲をやるにしても、今までとはなんとなくちょっと違う楽しさがあって。それを野音でお客さんにも聴いてもらって、「20年やってるとこんな感じになるんやな」みたいな新鮮さを楽しんでもらえたらいいなと思ってます。

──今回は、北山ゆうこさん(Dr)、加藤雄一郎さん(Sax)、野村卓史さん(Key)を加えたバンド編成で、ここ3年ほどやってきたアンサンブルの到達点を見せる機会でもあるんですよね。

豪文 あと、今回はひさびさにエマさんにも来てもらって、3人でやってた頃の曲をやる時間も作りたいと思ってます。

──「キセルをずっとやっていく」ということについても、折に触れて語ってますよね。

2019年現在のキセル。
2019年現在のキセル。

豪文 そうですね、漠然とではありますけど。「やめる」とかは想像できひんし、ずっとやるのは当たり前だと思ってます。でもライブをずっとできるかどうかはわからない。呼んでくれる人や観に来てくれる人がいいひんと、できないので。

友晴 さっき松永さんが「時代性を感じさせない」って言ってくれましたけど、そういうものがどこまで通じるかというのも考えます。

豪文 僕らが作る音楽が、時代的にキツくなることも、求められなくなることも長くやってたら出てくるかもしれない。上は上でみんなすごいし、下の世代にもすごい人らが出てきてるし。

友晴 僕らの作るメロディとかコード感で、どこまで時代の隙間をうまく縫ってやれるか、とかね。

──でも、カクバリズムの下の世代や若いバンドからキセルへの熱いラブコールもありますよね。

キセル

豪文 そういうのは、ほんまにありがたいですよね。だから、「これからも続けるのでよろしくお願いしたいです」というしかないですね。

──こうやって取材してても、10年後の30周年でも同じように受け答えしてる姿しか想像できないです(笑)。

豪文 そうかも(笑)。でも、すごく当たり前なんですけど、結局は聴いてくれる人がいいひんかったら成り立たへんから。「一緒にやってる」というか、キセルを選んで聴いてくれてる人というのは、一緒にこの20年を作ってくれたようなものなんやろうなと思ってます。