歌メロを口ずさめるかどうかがこのバンドの重要な鍵
──斬新な楽曲「斧と初恋」に続くのは、玲央さん作曲による「幻想」。ライブ映えするストレートなアッパーチューンです。
玲央 曲出しの段階では実はもっとキャッチーな曲を作っていたんですけど、そっちは制作が難航してしまって。「ほかにもう1曲ぐらい作りたいな」と思って、パッと作ったのが「幻想」です。keinの楽曲でキャッチーさを出すんだったらこのビート感とこのテンポ感、そしてキーはここかなと思って漠然と作り始めたんですけど、すでに頭の中にイメージがあったからか1日ぐらいで形にすることができました。
──ボーカルに関しては、Aメロははっきりと言葉を置きにいくような歌い方なのに対し、Bメロでは語り口調になっていて、その対比も興味深いです。
眞呼 この語り口調のパートは玲央さんなんですよ。
──あ、そうだったんですね!
玲央 曲を作っている段階で、Bメロは語り口調にしたいと眞呼さんに伝えて歌詞を書いてもらったんですけど、レコーディングのときに「どういう語り口が好みですか?」と聞かれたので僕がお手本で1回やったんです。そしたら、それがそのまま使われることになりました。
眞呼 「これはこれでいいですし、このまま玲央さんが歌ったほうがよくないですか?」ということで、こうなりました。
玲央 でも、相当練習しないと弾きながら歌うのは厳しくて。ライブでちゃんとできるのか心配です(笑)。ただ、そういったハードルがあるほうが僕は燃えるので、ツアーまでにしっかりマスターしたいと思います。
眞呼 私が玲央さんだったらギターを弾かないですけどね(笑)。
aie 眞呼さんが玲央さんにマイクを渡して、代わりにギターを弾くとかね。
眞呼 いやいやいや。私は口でギターパートを歌います(笑)。
──実際にライブでどうなるのか、楽しみにしています(笑)。3曲目の「幾何学模様」、4曲目の「晴レノチアメ」はaieさん作曲です。
aie 今回のEPを作るときに、玲央さんからポップ感とかキャッチーさというテーマをもらっていたから、keinではあまりやってこなかったメジャースケールの曲がいいのかなと。かといって、あからさまにそちら側に寄るのはこのバンドとしては違うし、マイナーからメジャーへ転調する形はどうだろうと考えてできたのが「幾何学模様」です。「晴レノチアメ」もそうですけど、全体的なアプローチとしては90年代の匂いというか、TM NETWORKやBARBEE BOYSの雰囲気と重なるものがあるかなと思っています。
──サビに向けての広がる感じや抜け感は、おっしゃるように90年代のロックやポップスに通ずるものがあります。ただ、懐かしいという印象はなくて、1周回って新鮮に響くんですよね。
aie 我々の中に打ち込みのデジタルサウンドなどの引き出しがあるとまた違うものになるんだろうけど、人力でやっているところがこのバンドのよさや魅力であって。そこが新鮮さにつながっているのかもしれません。
──前回のインタビューでもお伝えしましたが、どれだけ洋楽的なサウンドにしようが90年代のJ-POP的なアプローチをしようが、眞呼さんという稀有なシンガーが歌うことですべてkeinという確立した個性へと昇華される。そこは本当にこのバンドの強みだと思います。
aie 個人的な話になりますが、このバンドの曲にはサビが存在するべきだと思っていて。例えばMetallicaやGuns N' Roses、Nirvanaの有名な曲を口ずさむときって、歌メロより先にイントロのリフが出てくるじゃないですか。そういう音楽で育ってきた身としては「サビなんかなくてもいい」と思うこともあったけど、日本で活動するうえでは絶対にサビが必要なんです。特にkeinは、サビらしいサビを作ることで楽曲の中に山場が生まれる。洋楽ロックにおけるAメロBメロの反復とは違ったドラマチックさが、このバンドの大きな武器だと思っています。
眞呼 ABABじゃなくて、keinはABサビ、ABサビってだけの違いですけどね(笑)。
玲央 2000年以前に活動していた頃も、サビにあたる部分でシャウトするよりもちゃんと歌が存在することが自分たちには重要だと常々話していました。「あの曲どんなメロディだっけ?」という話になったときに歌メロをちゃんと口ずさめるかどうかがこのバンドの重要な鍵であって、そこが当時から異質だと言われていたんですよね。そういう部分をより意識したらどうかなということで、今回は抜け感やキャッチーさ、ポップさというキーワードを挙げてみました。
この熱量や空気感こそ日本のバンド特有のもの
──「幻想」「幾何学模様」「晴レノチアメ」はどれもアップテンポで、勢いで聴かせることもできたと思うんですけど、どの曲も最終的にはメロディラインがしっかりと耳に残る。いい意味で違和感がある1曲目の「斧と初恋」もそういう曲なんですよね。その流れがあるから、ラストを飾る「波状」がよりストレートに響きます。
玲央 「波状」については、「こういう曲が欲しいです」と伝えた通りの曲を攸紀くんが書いてくれました。攸紀くんが一番得意なのはこういうタイプの曲だと思っていたので、さすがだなと。
攸紀 僕が過去に作ってきた曲もこういうタイプが多いですし、「従来のkeinらしさと言ったらこれかな」というイメージを軸に作り始めました。あとは眞呼さんがどういうメロディを付けてくれるかだな、と思っていましたが、最初に送ってくれた音源をワンコーラス聴いた瞬間にばっちりハマったなと感じました。
──歌詞といいメロディといい、実にkeinらしい空気感だと思いました。
眞呼 ありがとうございます。最初にデモをもらった際、どこがイントロでどこからがメロかわかっていなくて、自分の中で一番なじむところに歌を入れていったらこういう形になりました。
攸紀 作曲者としては「ここがイントロで、ここがAメロ」と決めてはいるんですけど、それを見事に裏切ってきてくれて。結果的にめちゃくちゃよかったです。
──ドラムにおいて、楽曲の組み立て方でこだわったポイントはありますか?
Sally 僕はメロディを意識しないとループっぽいパターンにしてしまいがちなんです。今回はメロディに寄り添いながら、単調にならないように要所要所に変化を付けつつ、後半に山場をしっかり作りました。
──ギターに関してはいかがでしょう?
aie 最初はもっと90年代っぽく……小田和正さんや山下達郎さん、大瀧詠一さんのようなアプローチでいこうかなと思っていたんですけど、攸紀くんに「違う」と言われて(笑)。
攸紀 事前にキーワードがあったんです。シティポップかLUNA SEAの「gravity」、どちらかのイメージで、と。
aie そうそう。で、「gravity」の方向でいきましょうという話になり……。
攸紀 シティポップでも合うと思うんですけどね。
aie 波の音が聞こえてくるような感じでね。
Sally 誰も波が似合わないじゃないですか(笑)。
眞呼 「波怖い~」みたいな(笑)。
aie なので、最終的には浮遊感の強いフレーズやサウンドを意識したプレイになりました。
──この曲の情緒あふれる空気感こそ、海外のバンドには真似できないものだと思っていて。こういうスローでムーディな楽曲を海外のバンドが演奏すると、クライマックスでシャウトが入ってくるじゃないですか。
aie 確かに。エモーショナルさをシャウトで表現したり。シャウトなしで表現する海外バンドはスマパン(The Smashing Pumpkins)とかね。
玲央 この熱量や空気感こそ日本のバンド特有のものですよね。
aie 春夏秋冬がはっきりある国だからこその表現というか。
Sally 僕はホラー映画がとても好きなんですけど、海外の映画は最後にモンスターが出てきてあっさり終わったりすることもあって。ちょっと通じるものを感じます。
──ジャパニーズホラーのジメっとした独特の雰囲気は、どこか情緒がありますよね。
Sally そうなんですよ。あの湿気があるかないかで全然違いますから。
──「波状」はミュージックビデオが公開されていますが、楽曲同様に非常に独特な美しさを感じました。
玲央 映像を撮ったのがまだプリプロの段階で、歌詞もフルではできてない状態だったんですけど、事前に眞呼さんから「はかなさ」などいくつかキーワードをもらっていたので、そのキーワードと音源をもとに監督さんにイメージを広げていただきました。最終的に曲にとてもリンクした仕上がりになったと思います。
──曲調といい映像の色味といい、前作のリード曲「Spiral」とは対照的な作品になりましたね。
aie 確かにそうですね。MVは2023年のフルアルバムからは「暖炉の果実」、そのあとに「Spiral」があって、そして今作の「波状」と続きましたが、どれもテイストが違うんですよね。「暖炉の果実」はちょっと気が触れたような作風でしたけど、「波状」はきれいではかない世界が描かれています。
──以上のような5曲がそろった作品集に「delusional inflammation」というタイトルを付けた理由は?
玲央 このタイトルは眞呼さんが持ってきてくれました。
眞呼 日本語にすると「妄想による炎症」というタイトルなんですけど、みんなが信じているものすべてにおいて、真実なんて少ないと思うんです。思い込みで行動に移したことによって心と身体が炎症を起こすという、端的に言うとそういう意味合いです。
ここからが新生keinとしての真のスタート
──新作の話題からちょっと脱線しますが、皆さんの目には今のヴィジュアルロックシーンはどのように映っていますか? というのも、最近は中堅バンドが日本武道館でライブを行ったり、一時代を築き上げたバンドがイベントやフェスを開催したりと、以前よりも目に見えて動きがありますよね。そのシーンの中にいる皆さんの肌感覚的にはどうなのかなと思いまして。
aie 影響力のある先輩たち、シーンにおける登場人物はこの20年間ずっと変わっていないのかもしれない。先輩はずっと元気だし、意外とがんばっている後輩がいたかと思えば消えちゃう子もいる。そう考えると、我々もタフなほうですよね。
玲央 ネガティブに受け取ってほしくないんですけど、音楽やライブに対する向き合い方が僕らから上の世代と下の世代とでは違うなとは感じます。僕らより上の先輩方は音楽を生業にしようとがむしゃらにやってきた方々が多いと思うんですけど、最近の世代はまたちょっと違うのかな。もちろんがんばっている子もいますし、結果を出してるバンドもいる。ただ、僕らから上の世代はみんないい意味でがっついていましたから、そういう寂しさはあります。
──そんな中で、2000年8月に一度解散したkeinが“永い眠り”から覚め、現在はメジャーで活動している。実際のところ「メジャーで活動できているな」と実感するタイミングはありますか?
aie 今日みたいな取材がそうですよね。
玲央 SNSを利用してワンストップでプロモーションを終わらせることも可能なんですけど、バンドのことを知らない人に知ってもらうため、もともと興味があってもっと掘り下げた情報が欲しい人のために、こうやって取材をしていただいているわけで。そこは圧倒的にインディーズ時代とは違うと思います。
──実際、前作のインタビューが公開されたあと、僕の周りにも「kein、新作出したんだ!」と気付いてくれた友人がいました。
玲央 そうなんです。その知るきっかけ、チャンスが増えるわけですから。Web媒体にしても紙媒体にしても、そこで僕らを見つけくれた方がたくさんいますし。やっぱりメジャーでこうした取材をしていただくのは本当に意味があることで、なおかつその積み重ねが重要なんだなと実感しているところです。
──本作リリース直後の7月11日には、新たな全国ツアー「kein TOUR 2025『delusional inflammation』」がスタートします。
Sally まずは新曲を覚えないと(笑)。
aie 前作のEPと今回の新曲を足せば、再結成後だけでも10曲あるし、ライブの雰囲気も変わってくるのかなと思います。そういう意味では、ここからが新生keinとしての真のスタートかもしれないですね。
公演情報
kein TOUR 2025 「delusional inflammation」
- 2025年7月11日(金)大阪府 アメリカ村DROP
- 2025年7月12日(土)愛知県 NAGOYA JAMMIN'
- 2025年7月20日(日)神奈川県 SUPERNOVA KAWASAKI
プロフィール
kein(カイン)
1997年に愛知・名古屋で結成され、当初からヴィジュアル系バンドシーンで頭角を現す。2000年8月の公演をもって突如解散を発表し、人気絶頂の中でわずか3年の活動にピリオドを打った。その後、リーダーの玲央(G)はlynch.、眞呼(Vo)とaie(G)はdeadmanを結成するなど、メンバーそれぞれがアーティストとして活躍。2022年5月に突如として再結成を発表し、同年8月に愛知・DIAMOND HALL、10月に東京・EX THEATER ROPPONGIで復活ライブを行った。2023年8月には結成から26年を経て待望の1stアルバム「破戒と想像」をリリース。2024年11月にはメジャーデビュー作となるEP「PARADOXON DOLORIS」をキングレコードから発表し、11月から12月にかけて3都市6公演のツアー「TOUR '2024『PARADOXON DOLORIS』」を行った。2025年7月に2nd EP「delusional inflammation」をリリースした。
kein-official (@kein_official_) | X