いろんな引き出しを開けてもらっている

──達成感やアーティストとしてのカタルシスを感じるのはどんなときでしょうか？

瞬間的なものですね。自分が出したパフォーマンスの値が自分の驚きに値するものであったときにはやっぱり人生が豊かになったと感じられます。これはライブでもレコーディングでも同じことが言えるかもしれません。ああ自分にこんな曲が書けた、こんな声が出せたって。

──そういった新しい発見の機会は過去と比べて増えたと思いますか？

無知な頃はもう歌っただけで気持ちいいわけですけど、でも少しずついろいろなことを知り、自分が知らない自分というものが少なくなってきます。長くやっていけばいくほど音楽や自分自身を熟知していくことになるので新しい発見は難しくなってくると思います。スポーツ選手が毎回自己新記録を更新するのが難しいみたいに。

──なるほど。

僕はもう数えきれないほど歌ってきたわけで、歌がうまくならないわけがないんです。昔は出せなかった音域も声のツヤも出るようになったのですが、技術だけを追っかけていくと薄っぺらいもの、丁寧できれいなだけのものになってしまうんです。でも声を枯らして全然歌えていないときに出てきた一節が、自分の想像を超えたパフォーマンスになって驚くときもあって。それにファンのリアクションによって自分たちが進化するときもありますし。

──オーディエンスを通じて気付かされるものがあると。

ライブでは僕が想像していないような反応をファンの人たちがくれる。それに触発されていろんな引き出しを開けてもらっているんです。ソロでもバンドでも、そのリアクションが緻密に計算してきたものを超える力になる。今まで通りのライブをしようと思っても絶対に変わってくるんですよね。

新しい世界に飛び出してほしい

──ところで今作でLUNA SEAという原体験を意識したというお話がありましたが、LUNA SEAがきっかけとなって今アーティストとして活動している人は大勢います。そういった人たちを見て隆一さんが感じることはありますか？

まず思うのは、ボーカリストで僕に似てる人はいないなと。それがすごくうれしいですね。歌はそれぞれ個性があるものだと思うし、似てなくていいなあって思うんです。僕は日本人ではDEAD ENDのMORRIE（Vo）さんにすごく影響を受けて、形から入るじゃないけど彼の歌い方とかを必死に学ぼうとしてたんで。

──もしフォロワーや若いアーティストに向けてメッセージを伝えるとしたら？

自分が表現したいものを素直に表現していけばいいと思いますね。マーケティングにとらわれて、どこかからサンプルを取って「いまこういうサウンドが流行ってる」って作ったとしてもトレンドは回り続けているし、すぐに古いものになる。そうして作ったものが失敗したときに自分が書きたくなかったものや情熱を込めてないものを残すことになる。だから若い人たちには何にもとらわれず自由に音楽を作っていってほしいですね。

──隆一さんがそうであるように。

はい。「never fear」を主題歌にしている「頭文字D」って、主人公は自分がすごいってことを自覚しないまま車に乗っていて。そこは自分が、何もわからないまま世の中に出て行った当時と同じなんです。そして今はその姿勢が重要だったと思っていて、それがこのアルバムで伝えたいメッセージにもなっているんです。自分自身が知ってる自分はほんの一部でしかない。これを聴く人たちも自分の知らない魅力、まだ気付いていないよさや武器を持ってるけど、みんなそこにフタをしたり「こんなもんでいいや」って平凡な毎日を過ごしてたりする。でも殻にこもらず、自分を信じて新しい世界に飛び出してほしいなっていう気持ちを楽曲に込めています。