ナタリー PowerPush - 河村隆一

ドラマのテーマ曲で伝える 命の重みと生きる希望

河村隆一がニューシングル「七色」をリリースした。2年ぶりのシングルとなる本作の表題曲は、4月からスタートした東海テレビ・フジテレビ系昼ドラ「白衣のなみだ」のエンディングテーマ。苦境にぶつかりながらも小さな希望を見つけて生きることを選ぶ主人公とリンクする、前向きで温かな楽曲に仕上がっている。

河村は今回のインタビューで「七色」の制作過程やこの曲に込めた思いについて説明。さらにソロ活動とLUNA SEA、役者としての活動を並行して続ける現在のスタンスについて、じっくり語ってくれた。

取材・文 / 西廣智一 撮影 / 井出眞諭

人の命を星の命に重ねて考えてみた

──「七色」は昼ドラ「白衣のなみだ」のエンディングテーマとして現在オンエア中ですが、楽曲のオファーを受けてどういう曲にしようとイメージしましたか?

河村隆一

物語に寄り添うようにすること、その物語を象徴するような内容にすることがドラマのテーマソングを書く上で大切だと思っているので、そういった曲を自分で何曲か書き、さらにTourbillon時代からタッグを組んでる葉山拓亮くんにも何曲か書いてもらって。今回の「七色」は彼が作ってきた楽曲なんですけど、デモテープの段階から「七色」という仮タイトルだったんです。

──あ、そうだったんですね。

はい。この曲を聴いた瞬間に「本当にいい曲を作ってくれたな。歌いたいな」と思って。そこからこの曲に対して、歌詞を3パターン書きました。

──そうなんですね。今までも1つの楽曲に対して歌詞を数パターン書くことはありましたか?

そんなにはなかったですね。今回ドラマのプロデューサーの方と、歌詞を書く前に打ち合わせをさせていただいたんです。「白衣のなみだ」は病院を舞台にしたお話なんですけど、命の大切さを訴えたいというテーマがあって。そこに東北の震災のことも重ねて、「残された命を大切にして生きてほしい。悲しんでばかりいられない、自分の人生なんだ。半歩でもいいから踏み出してほしい」という思いを込めて3パターンの歌詞を書きました。その中の1つで、人の命を夜空の星の命に重ねて考えてみて。星は闇の中で光ってるんですけど、何百光年、何千光年も離れた場所から光を放っているので、すでに消滅している可能性もある。そう考えると、人の命というのも、たとえ死んでしまっても家族や友人たちの中でその思いはちゃんと残っていくんじゃないかと。星が消滅してしばらく経っても光ってるように、思いも時間を経ていろんな人のもとに届くんじゃないかなと思ったんです。

──なるほど。

もしくは両親を亡くした子供は孤児になってしまいすごくかわいそうだと思うけど、両親がその子供にかけた愛情が、かけた言葉が、今もその子供には降り注いでるんじゃないかっていう。そんなイメージで歌詞を書きたかったんですよね。だから重いテーマですけど、聴いたみんなに元気になってほしいなっていう思いを強く込めて書いた曲でもあります。

何も信じられなくなったら終わり

──「七色」とカップリングの「the earth~未来の風~」には、「明日」や「未来」といった前向きさを感じさせるフレーズがたくさん使われています。また2曲とも「色」に関連する単語も散りばめられてますよね。「七色」というタイトルであったり、「the earth~未来の風~」の「色づくから 鮮やかに」というフレーズであったり。そのあたりは意識したんでしょうか?

そうですね。実はずっとこう、モノクロの時代が続いてたような感じっていうのがあって。

──それは隆一さんの中で?

河村隆一

はい。リーマンショックがあって経済がダメになって、音楽の世界も2000年代に入ってからCDバブルが崩壊したと言われていろんなことが変わってしまった。その中で、特に「the earth~未来の風~」はこれからモノを作ろうと思ってる若い人たち、夢を描こうと思ってる若い人たち向けて歌いたかった曲なんです。僕が生まれたのは1970年で、10代を1980年代に過ごしたんですけど、バブルまっただ中だったんですね。みんなプール付きのデカい家に住みたいとか、いい車に乗りたいとか、まるでハリウッドスターみたいな生活を夢見てたんです。だけど今はデカい家はいらないし、首都圏に住んでいたらマイカーもいらない、山手線で十分だと。こんな時代だから夢を見ることもちょっと暑苦しいって風潮が感じられるんです。なんだかそういう世の中にしてしまった大人の1人として責任を感じていて、若い人たちに「そんなこと言うなよ。もっとがんばれよ」と伝えたくて「the earth~未来の風~」という曲を書いたんです。

──僕も隆一さんと同じ世代なので、伝えたいと考えている内容について理解できます。

音楽の世界では、自分も若いアーティストをプロデュースしたりお手伝いすることがあるんですけど、今は僕らが20代だった頃よりも世に出にくくなってる気がして。CDも以前より売れなくなっちゃったし、ビジネスが変化するその谷間で苦しんでるように見えたので、「まだ自分を信じよう、音楽の力を信じよう」って大人が旗を振る必要があるんじゃないかと。「the earth~未来の風~」にはそういう思いも込められているんです。

──「こういう世界もあるんだよ。こういうモノの見方もあるんだよ。こういう夢もあるんだよ」っていうきっかけを作るという意味で、今回の「七色」「the earth~未来の風~」っていうのはリスナーの背中を押してくれるような曲なのかなと。

僕は何も信じられなくなったら終わりだなと思ってるんで。あと、夢が実現しなくても信じた人の人生のほうが価値があるかなとも思っていて。だから信じられるものを作るために努力することはすごく美しくて、やりがいがあって楽しいことなんで、ぜひこれらの曲を聴いた皆さんにもそういうニュアンスが伝わるとうれしいなと思っています。

ニューシングル「七色」 / 2013年5月29日発売 / avex trax
CD+DVD盤 / 1890円 / AVCD-48414/B
CD盤 / 1260円 / AVCD-48415
CD+DVD盤 CD収録曲
  1. 七色
  2. the earth~未来の風~
  3. 七色(for you)
CD+DVD盤 DVD収録内容
  • 七色(Music Video)
  • 七色(Making Video)
CD盤 収録曲
  1. 七色
  2. the earth~未来の風~
  3. 七色(PIANO version)
  4. 七色(for you)
河村隆一(かわむらりゅういち)

河村隆一

1970年5月20日生まれ、神奈川県出身の男性シンガー。1991年にLUNA SEAのボーカリストRYUICHIとしてメジャーデビュー。1997年、バンド活動休止期間中にシングル「I love you」でソロ活動をスタートさせる。2ndシングル「Glass」は100万枚以上、1stフルアルバム「Love」は320万枚を超えるセールスを記録。そのほかドラマ出演や小説の出版、他アーティストへの楽曲提供やプロデュースなどでも活躍した。2000年12月のLUNA SEA終幕を経て、2001年よりソロ活動を再開。2005年にはLUNA SEA時代の盟友INORAN(G)と、H.Hayama(葉山拓亮 / Key)とTourbillonを結成し、日本武道館でデビューライブを行った。2009年3月にはBunkamuraオーチャードホールにて、マイクを一切使わないコンサート「No Mic, No Speakers」を実施。2011年5月には日本武道館にて、6時間半で104曲を歌いきるコンサートを行い、ギネスワールドレコーズに認定された。近年は復活したLUNA SEAの活動に加え、役者として「CHICAGO」「嵐が丘」「銀河英雄伝説シリーズ」「走れメロス」などのミュージカルや舞台にも出演。2013年5月、約2年ぶりとなるシングル「七色」をリリースした。