ナタリー PowerPush - 河村隆一

社会を“刺激”するロックとは? 10thソロアルバム「Life」完成

河村隆一が10枚目のソロアルバム「Life」をリリースした。

今作に添えられたキャッチフレーズは「河村隆一が提案するロックの在り方!」。この言葉の通り、今回河村は彼一流のヒネりを加えながらも、ある種スタジアムクラスの80年代ロックシンガーのそれにも通ずる、由緒正しきロックアルバムを作り上げている。そしてアルバムの中の河村は、誰もが少しずつ悪く、誰もが少しずつ正しい社会のありようをリリカルに描き、その上で聴く者に「勇気をもって一歩踏み出そう」と提案。そっと手を差し伸べる、優しい言葉の数々を紡いでいる。

河村隆一が今、正統派ロックアルバムを作る意味とは? カリスマティックなロックスターが社会に対して深い愛情を傾ける理由とは? その真意を聞いた。

取材・文 / 成松哲 撮影 / 井出眞諭

 
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「なんかちょっと涼しい風が吹いてるな。でもこれロックだよな」

──3カ月前のインタビュー(参照:河村隆一「七色」インタビュー)で、ニューアルバムでは「自分がバンドではやらないタイプで、だけど同じような匂いのするロックに挑戦」するとおっしゃっていて……。

そうですね。“河村隆一”っていうソロアーティストに関しては「ちょっと旅に出て違う国に行ってきたよ」じゃないけど(笑)、LUNA SEAのファンの人とは違う層の人たちにも聴いてもらえるものを、という意識が常にあるんです。自分の好きなことではあるんだけど、LUNA SEAよりもちょっと甘口。例えばオーケストラと一緒にオペラ的なことをやってみたり、ポップス的なことをやってみたりすることで、それを聴きに来てくれた人たちがバンドにも視線を送ってくれるんじゃないかっていう思いもありますから。

河村隆一

──とはいえ「Life」にはビックリしたんですよ。

そうですか?

──ええ。「ソロアーティスト・河村隆一」にはさっき隆一さんが言っていたイメージがあったんです。自分の魅力的な声を届けることに注力したソリストなんだろうなって。実際にマイクとアンプを使わず地声で歌う「No Mic, No Speakers Concert」を開催したり、音楽ではないもののNHK Eテレで「アラジンと魔法のランプ」の読み聞かせにチャレンジしたりもしていますし。でも「Life」は……。

これまでのソロワークとは全然違いますよね(笑)。

──もちろん隆一さんの声は十二分に味わえるんだけど、サウンドはバンド感を強く打ち出したロック。しかもLUNA SEAとはひと味違う。ちょっとヒネてはいるんだけど、パッと聴きの印象としては、スタジアムライブがよく似合うスケール感のあるド王道のロックアルバムに仕上がっています。

実は「LUNA SEAのボーカルRYUICHIがソロになった」っていうアルバムをあんまり作ったことがないことに今さらながらに気付いたんですよ(笑)。

──それは何がきっかけで?

去年ソロ15周年を迎えて、来年LUNA SEAが25周年を迎えるからですね。そういう状況を改めて眺めてみたら「今年なら初心に戻れるんじゃないか」というアイデアが湧いてきたんです。そこで「LUNA SEAのボーカルRYUICHIがソロになったらこんなロックアルバムを作るんですよ」っていうアルバムを作ろうと思った。そして自分の好きなロックっていうものを振り返ってみたら、やっぱり80年代を中心に70~90年代初頭までのものがすごく好きだったことに気付いたんです。

──例えばどんなアーティストやバンドが?

ソロならデヴィッド・ボウイがそうだし、バンドならBauhausとかJapanとかですね。なんかこう一筋縄でいくようで、やっぱりストレートなだけじゃないロックのあり方、よく言えば艶っぽい、悪く言えばちょっとこう……やる気がない怪しい感じというか(笑)。Roxy Musicあたりから始まったニューロマンティックやデカダンスのムーブメントはやっぱり好きなんですよ。初めにブライアン・フェリーの存在を知って、そこからRoxyに先祖返りするって流れだったんですけど、当時は夢中になって聴いていましたし。あと、おっしゃるようなスタジアムクラスのロックバンドという意味ではU2も好きでしたね。だから「なんかちょっと涼しい風が吹いてるな。でもこれロックだよな」って感じ(笑)。自分の好きなロックっていうのはそういうテイストなんですよ。

──今「Life」がなぜああいうサウンドになったのか、そしてなぜいいアルバムになったのか、すごく腑に落ちました(笑)。

全力で勝負して敗者に勝者が手を差し伸べる世界

河村隆一

──ただ「Life」が一筋縄ではいかないのが、確かにサウンドにはボウイやRoxyの影響を感じるものの、隆一さんはニューロマ的な退廃を歌ってはいない。このアルバムの詞ってネガティブな言葉が1つもないんですよ。

以前、脈から交感神経と副交感神経のバランスを測ることのできる機械がある病院のことを知って「自分ってどうなってるんだろう?」って気になったことがあったんです。トップアスリートなんかの場合、いい周期に入ると交感神経と副交感神経のバランスがすごくよくなる。躁でもなければ鬱でもない状態になるらしいんですけど、じゃあ自分はどうなんだろうと思ってその病院で測ってみたら、まったく鬱がない状態らしくて(笑)。つまりブレーキの付いていないクルマのようなもの。躁だけが飛び抜けていたんです。そのときに「ああ、自分って根は明るいんだな」って気付いたんですけど、もしかしたらそういうあたりが影響しているのかもしれませんね。

──でも無責任に明るく前向きなわけじゃないですよね。例えば「トパーズの丘」の「遥かなる世界は君が 気づくのを待ってる いつでも…」という詞が象徴的なんですけど、一歩を踏み出せない「君」をドヤしつけるようなマネはしない。「遥かなる世界」が「待ってる」から一歩踏み出してみたら?と水を向けることしかしていない。

まさに伝えたかったことの中身、本質はそこなんです。これはシングル(「七色」)のインタビューのときにも言ったことなんですけど、僕ももう自分のありようを大人のせいにできていた季節はとうに過ぎている。そんな大人の一員になって思ったのが、不景気だとか、震災だとかいろいろマイナス要因がある中で、それでも全員が失うことを恐れずにチャレンジできる社会であってほしいということですから。そしてそうやってみんなが全力勝負をすると当然負けるヤツは出てくるんだけど、そのときには勝ったヤツらがそいつらに手を差し伸べてほしい。そういうリレーションを作っていかなきゃいけない時代なんじゃないかって強く思っているんですよね。

ニューアルバム「Life」 2013年9月11日発売 / avex trax
「Life」CD+DVD / 3990円 / AVCD-38742/B
「Life」CD / 3150円 / AVCD-38743
CD収録曲
  1. Holy Song
  2. Life
  3. 星と翼とシグナル
  4. Sea of Love
  5. 七色
  6. トパーズの丘
  7. Love & Peace
  8. 永遠の詩
  9. My Love
  10. Miss you
  11. the earth ~未来の風~
  12. 女優 ~枯葉に落ちる優しい雨のように~
DVD収録内容
  • Miss you(Music Video)
河村隆一(かわむらりゅういち)
河村隆一

1970年5月20日生まれ、神奈川県出身の男性シンガー。1992年にLUNA SEAのボーカリストRYUICHIとしてメジャーデビュー。1997年、バンド活動休止期間中にシングル「I love you」でソロ活動をスタートさせる。2ndシングル「Glass」は100万枚以上、1stフルアルバム「Love」は320万枚を超えるセールスを記録。そのほかドラマ出演や小説の出版、他アーティストへの楽曲提供やプロデュースなどでも活躍。2000年12月のLUNA SEA終幕を経て、2001年よりソロ活動を再開。2005年にはLUNA SEA時代の盟友INORAN(G)と、H.Hayama(葉山拓亮 / Key)とTourbillonを結成し、日本武道館でデビューライブを行った。2009年3月にはBunkamuraオーチャードホールにて、マイクを一切使わないコンサート「No Mic, No Speakers」を実施。2011年5月には日本武道館にて、6時間半で104曲を歌いきるコンサートを行い、ギネスワールドレコーズに認定された。近年は復活したLUNA SEAの活動に加え、役者として「CHICAGO」「嵐が丘」「銀河英雄伝説シリーズ」「走れメロス」などのミュージカルや舞台にも出演。2013年5月、約2年ぶりとなるシングル「七色」をリリース。さらに9月には10枚目のオリジナルアルバム「Life」を発表した。