ナタリー PowerPush - 河村隆一

ドラマのテーマ曲で伝える 命の重みと生きる希望

ドラマのテーマと曲タイトル、歌詞が合致

──改めて「七色」の話題に戻ります。このタイトルを最初に受け取ったとき、そのメロディ同様に惹きつけられるものがあったんですね?

河村隆一

そうですね。十人十色っていう言葉がありますけど、そういうイメージを「七色」という言葉から受けたんです。で、自分が星空をイメージした歌詞と照らし合わせて、星っていろんな色でいろんな輝き方をするけど、人間も同じだなと思って。「七色」という言葉には虹からイメージして、ラッキーという印象もありますよね。そこから「みんなそれぞれ違う生き方をしていいし、信じるものが少しずつ違ってもいい。それでも自分たちにとっての未来は明るいよ」という思いを伝えようとしたら、このタイトルがピッタリなんじゃないかと思ったんです。

──主人公がけなげに前を向いて生きていこうとするドラマの世界観にもピッタリなタイトルだと思いました。

「白衣のなみだ」では滴(「白衣のなみだ」第1部の主人公・百田滴)が子供を守るために、自分のがんの治療をしないでそのまま亡くなってしまうんですが、ここでいろんな議論がぶつかり合うんですね。母親の体を取るか、でもがん治療をしたらお腹の子供は諦めなければいけないし、治療したらもう二度と子供が産めない体になってしまう可能性もある。しかも治療をしても絶対に助かるとは保証されているわけでもない。そういういろんな葛藤が主人公に押し寄せるんです。でもその葛藤はすべてがダークなものではなくて、自分が亡くなったあとに子供が成長していく姿を想像しながら死期を迎えるっていう……矛盾してるかもしれないですけど、光の中にある影、影の中にある光のようで。そういうドラマのテーマと「七色」というタイトル、そして自分が書いた歌詞が合致して、伝えたかったことのピントがより合った気がしたんですね。

最近は自分の人生観が歌詞に反映されている

──今回のように自分が作曲していない楽曲を歌う機会もたくさんあると思いますが、隆一さんが「河村隆一が歌う楽曲」を選ぶ際に何か基準はあるんでしょうか?

普段基準にしてることって、言葉で言うとすごく平たいというか単純で。覚えやすいメロディとか、キャッチーであることを大事にしてます。で、例えば仮歌の状態で「ラララ」「ルルル」とか「アー」「オー」とか意味を持たない単純な言葉で、その旋律を歌ってみるんです。そこでまずキーが合ってるかどうかとか、いろんな問題が解消されていくわけですけど、その時点ですでに自分の中から物語が沸き上がってくるような楽曲があるんですね。今回の「七色」もまさにそれで、例えるならドライブの最中に道の両側の景色がどんどん流れて変わっていく様子。なんて言うのかな、すごくワクワクさせてくれるというか、めくるめく世界を見せてくれる楽曲というのが重要ですね。

──では歌詞についてはどうですか? ソロ活動を始めた頃はラブソングが多かったと思いますが、今回の2曲を含め最近の楽曲はもっと大きな意味での人間愛を歌うような、そういう方向に向かっている気がしますが。

河村隆一

僕もそう思います。最近は特に自分の人生観とか自分が強く感じてることが、そのまま歌詞に反映されているんです。だから今は見つめ合うような恋愛の曲よりも次世代に対しての曲とか、もしくは男女を超えた、本当に人間愛の世界とか、そういうことをすごく考えているし、考えさせられている。まあ年齢的なものもあるのかもしれないけど、本当にそう思います。これが20年前だったら自分のことで精一杯だったけど、今は自分も社会を築いている一員なんだと思うようになって、より社会のことや世の中のことについて考える時間が増えてきたのかもしれないですね。

TwitterやLINEは毎日作詞してるようなもの

──確かに10代20代の頃ってそこまで考えも及ばないし、むしろ社会に対しては嫌悪感を持っていても「じゃあ変えていこう」とは考えてなかったと思うんです。でも大人になって、そこを少しずつでも考えられるようになったのかもしれないですね。

河村隆一

そうですね。ちょっと話が脱線するんですけど、以前はメディアや専門家……例えば僕らのような音楽の専門家が情報を発信するのみでした。でも今は、以前は受け手だった人がスマホを持って自分から情報を発信する時代に移り変わった。食事をするときもスマホでお店を検索して、素人の人たちが評価したものの合計点や平均点でお店を選んでいく。で、食べてみておいしかったら自分もコメントをする。以前は専門家の意見が最初にあって、そこに自分の感覚を重ねていったのに、今は感覚的に優れた若い世代がまず自分の言葉で表現していくんです。だったら僕はこの時代に逆行するように、モノを作る人間として曲を作る過程や歌詞の言葉選びの理由をちゃんと考えていかなきゃいけないと強く思うようになって。

──それはどういうことですか?

例えばブログでもいいし、TwitterでもLINEでもいいと思うんですけど、みんな毎日自分のことを、自分の言葉で、自分なりの表現で作詞をしてるようなものだと思うんです。一般の人たちがそうやって言葉を使って遊ぶ時代になったからこそ、ちゃんとした専門的な知識を持つ人たちが重要になっていくんじゃないかと。そのへんも僕の歌詞作りに影響を与えてるのかもしれないですね。

ニューシングル「七色」 / 2013年5月29日発売 / avex trax
CD+DVD盤 / 1890円 / AVCD-48414/B
CD盤 / 1260円 / AVCD-48415
CD+DVD盤 CD収録曲
  1. 七色
  2. the earth~未来の風~
  3. 七色(for you)
CD+DVD盤 DVD収録内容
  • 七色(Music Video)
  • 七色(Making Video)
CD盤 収録曲
  1. 七色
  2. the earth~未来の風~
  3. 七色(PIANO version)
  4. 七色(for you)
河村隆一(かわむらりゅういち)

河村隆一

1970年5月20日生まれ、神奈川県出身の男性シンガー。1991年にLUNA SEAのボーカリストRYUICHIとしてメジャーデビュー。1997年、バンド活動休止期間中にシングル「I love you」でソロ活動をスタートさせる。2ndシングル「Glass」は100万枚以上、1stフルアルバム「Love」は320万枚を超えるセールスを記録。そのほかドラマ出演や小説の出版、他アーティストへの楽曲提供やプロデュースなどでも活躍した。2000年12月のLUNA SEA終幕を経て、2001年よりソロ活動を再開。2005年にはLUNA SEA時代の盟友INORAN(G)と、H.Hayama(葉山拓亮 / Key)とTourbillonを結成し、日本武道館でデビューライブを行った。2009年3月にはBunkamuraオーチャードホールにて、マイクを一切使わないコンサート「No Mic, No Speakers」を実施。2011年5月には日本武道館にて、6時間半で104曲を歌いきるコンサートを行い、ギネスワールドレコーズに認定された。近年は復活したLUNA SEAの活動に加え、役者として「CHICAGO」「嵐が丘」「銀河英雄伝説シリーズ」「走れメロス」などのミュージカルや舞台にも出演。2013年5月、約2年ぶりとなるシングル「七色」をリリースした。