ナタリー PowerPush - かりゆし58

“まっとーばー”に気持ち届ける 2年ぶりオリジナルアルバム「5」

手を伸ばしたらつかめる音楽

──DVDにはライブ映像も収録されてますが、ライブについて思うことは?

中村洋貴(Dr) 以前は結構、しっかりやるために自分で決め事を作ってたとこがあったんですけど、最近はあまり気負ってないです。なんかいろいろ決めると緊張しちゃうんで(笑)、できるだけ自然体でいられるように。自然体でお客さんと楽しむようになりたいって気持ちはどんどん強くなってます。

宮平直樹(G) 自分は最初の頃は、なんでライブやるかって言ったら目立ちたいとかだったんですけど(笑)、今は楽しみにして観に来てくれる人がいるってことを自覚できるようになって。例えばライブの選曲をするときにも、自分のエゴよりも、お客さんが楽しいかどうかってことがまずあって、お客さんが楽しんでくれたら自分も楽しいって感覚が強くなってきました。ただ自分は「無理せず自然体でいい」ってなるとそこに甘えてしまうんで、ちょっと無理してやってます(笑)。

新屋 ほかの人のライブ行って2時間立ちっぱなしだと結構しんどいなって思うことがあって、2時間立ちっぱなしでも苦じゃないかな? 大丈夫かな?ってお客さんの顔を見ちゃいますね(笑)。

──親子連れもいるし、年齢層が幅広くなってますしね。

新屋 年齢層が広がってるのはすごくうれしいことで。それもあって以前はガムシャラにやっていけばいいって思ってたんですけど、今は終わったあとに反省することが見えてくるようになりました。昔は反省する余裕もなかったんですけどね。僕もやっぱり、お客さんがどう楽しんでくれるかってことを考えています。

前川 ここ2年間のツアーはちょっと今までとは違ってたんですね。ベスト盤のリリースはあったけど新作のリリースはなくて、つまり新曲がほとんどない中でのツアーだった。ということは、それまでと同じ曲であっても違うものを見せなきゃいけない。照明とかの工夫もそうだし、何より演奏面、そして表現力、曲への向き合い方でしか差は出せないわけで。最終的には音楽そのもののポテンシャルを信じて、自分たちらしくて、みんな一緒になって楽しめるものをやっていこうって。

──改めて感じたんですが、かりゆし58は自分たちの音楽を「届けよう」という思いがすごく強いですよね。

前川 そう思っていただけたらうれしいです。なるべく誰でも手を伸ばしたらつかめるとこに、自分たちの音楽はあってほしいって思っているんで。

衝動こそが普遍的なもの

──前回のインタビューで印象的だったのが、福島の避難所で歌ったときの話なんです。私が「音楽で希望を与えられたと思いましたか?」って訊いたら、「音楽は何かを与えるとかじゃなく、その場でみんなで楽しく、音楽で遊んでくれればいいんです」って答えてくれて。すごくいいなって思ったし、なるほどって思いました。音楽が身近にある沖縄の人だからこその言葉だなって。

前川 俺が思うのは、多分俺らが歌の中で希望について歌ったり、希望について話したりすることよりも、例えば初めてロックンロールを聴いたとき、初めてギターを弾いたときに感じる「もう一回聴いてみよう」とか「もう一回弾いてみよう」とかっていう気持ち。その衝動の中にこそ希望は宿るような気がして。俺らはその衝動を言葉とメロディで追い続けたいんですよね。

──そしてその衝動によって音楽はつながっていくんだと。

前川 そう思います。衝動を感じたものが残っていくんだと思います。

──シングルにもなった「ゆい」には沖縄民謡の「安里屋ユンタ」の一部分を挿入してますけど、もしかしたらこういう民謡って、かりゆし58が思う音楽のつながり方のひとつの理想なのかもしれないですね。

前川 ええ、そうかもしれないです。

──ここに「安里屋ユンタ」を入れたのは?

前川 引用してる部分は、民謡の大御所の人でもその部分だけ意味がわからないらしいんですよ。で、いろいろ調べるとインドネシアあたりで同じ響きで「太陽は等しく誰の上にも昇る」っていう意味の言葉があって。元々は貿易で栄えた国だったからいろんな言葉が混ざって民謡として残ったんじゃないかって説があるんです。ただ離島のほうではまた違う意味で解釈されてるらしいんですけど。

──面白いですね。歌詞も土地土地で、生活と共に変化してきたのかもしれない。

前川 面白いですよね。それが僕らがいいなと思う音楽のあり方なんですよ。生活と一緒にあるっていう。最初の話とつながるんですが、俺はやっぱり地に足を着けた生活の中で、その生活と共に残っていくものがいいなって思ってるんです。それは俺の歌として残っていかなくても全然よくて。自分のエゴとかはどうでもいいんです。それより普遍的な音楽をやりたいって前から思ってる。そして今まではいいメロディやいい歌が普遍的なものだと思ってたんですけど、今はそれが変化してきて、さっき言ったように初めてギターを弾いたときの感覚、その感覚こそが希望だと思うし、ならば俺たちの音楽を聴いて自分もギターを弾きたいって思ってくれる人がいたら、そこから新しい紡ぎ手が誕生していくわけで。そういう音楽のつながり方もありかなって。

ニューアルバム「5」 / 2012年11月28日発売 / LD&K Records
初回限定盤[CD+DVD+BOOK] / 3990円 / LDCD-50088/B
通常盤[CD+DVD] / 2940円 / LDCD-50089/B
CD収録曲
  1. まっとーばー
  2. あいのりズム
  3. あなたが好きだ
  4. また君に会いに
  5. ゆい
  6. 愛なのでしょう
  7. 笑っててくれよ
DVD収録内容

「別冊かりゆしテレビ」

  1. ハイサイロード2012 ハブよりも!マングースよりも!(仮) ツアーファイナル 2012年7月31日Zepp DiverCity LIVE映像
  2. 「まっとーばー」プロモーションビデオ
  3. 初回盤BOOK撮影オフショット映像
初回限定盤BOOK

沖縄の「衣」「食」「遊」58カ所を収めたガイドブック

かりゆし58「ハイサイロード 冬がはじまるさぁ~、南の国から2012」
  • 2012年12月4日(火)
    大阪府 オリックス劇場
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年12月5日(水)
    大阪府 オリックス劇場
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年12月7日(金)
    東京都 渋谷公会堂
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年12月8日(土)
    東京都 渋谷公会堂
    OPEN 16:00 / START 17:00
かりゆし58 (かりゆしごじゅうはち)

2005年沖縄で結成。前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)からなる4人組バンド。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄のメインストリート国道58号に由来する。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリースし、続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録。2009年2月にリリースしたシングル「さよなら」は松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に抜擢され大きな話題を集めた。2011年7月発売のベストアルバム「かりゆし58ベスト」のヒットを経て、2012年12月には2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「5」を発表。ライブも精力的に行っており、沖縄で生まれ育った彼らならではの“島唄”を全国に向けて歌い続けている。