ナタリー PowerPush - かりゆし58

“まっとーばー”に気持ち届ける 2年ぶりオリジナルアルバム「5」

「まっとーばー」や「アンマー」は日々の集約

──2曲目の「あいのリズム」は、まさにギターを弾きたくなるような曲で。実は意外と珍しいストレートなロックチューンですね。

前川 この曲はAC/DCみたいな往年のロックバンドのイメージで(笑)。俺たちがガキの頃にAC/DC聴いてウォーって思ったような感じにしたかったんです。この曲を聴いて初めてギターを手にしてくれる人がいたらうれしいし、60歳過ぎた人が昔を思い出してくれたらすごくうれしい。「ずっとこれが自分の中にあったんだ」って思うんですよね。多分本当に好きなものって変わらないと思うんですよ。だったら作る俺らも、自分たちが最初に感じた衝動を信じてまっすぐ前を向いて進めばいいんだって。

──うん。音楽をやる上で向上していくことはもちろん必要だけど、どう向き合うかってことが一番大事だと思うし。

前川 俺もそう思います。向き合い方なんでしょうね。地元で、沖縄から出たことない、言っちゃえばそこしか知らないようなおっちゃんがいて。でも話すとすごい大きな世界観を持っていて驚くことがあるんですよ。きっとひとつのことに向き合い続けた結果、すごく本質的な考えに近づいていったっていうか。そういうのもあって今作ではこねくり回すよりもシンプルなものを作ろうと。シンプルなものにどれだけ向き合えるかっていうことをやってみようって思ってました。

──アルバムの収録曲はロックからアコースティック調のオーガニックな曲、レゲエまでバラエティに富んでいますけど、どれも曲自体はシンプルですよね。歌詞も削ぎ落とされてるし。

前川 そうですね。

──ただ1曲目の「まっとーばー」は「まっすぐ」を意味するタイトルで、以前の「アンマー」のようなストーリー性のある歌詞ですよね。これはやっぱりかりゆし58の十八番って感じで?

前川 というより「まっとーばー」や「アンマー」のような曲は実は何個も作れないんですよ。日々思っていることを集約させたものなので、日々の集約を何度も作ってたら説得力ないですから(笑)。集約したものからこぼれ落ちた曲だって絶対必要なわけで。

──なるほど。

前川 ただ「まっとーばー」が今までの曲と違うのは、今までだったらアレンジは歌詞の世界を邪魔しないようにしようって思ってたんですけど、でもそれじゃボーカルとバックバンドみたいで、4人でやってるバンドなのにすごくバランスが悪い。今は歌詞の世界を重視するよりも、俺ら自身が歌詞と一緒になって演奏するっていうか、バンドとして聴く人の予想を超えていくアレンジをやっていくしかないって思ってます。

生活から出てきた音を愛していきたい

──やっぱりツアーがバンドを成長させたんでしょうね。

前川 成長してたらいいんですけど(笑)。でもこの4人だからこその楽しさは感じてます。今までなら曲を作ってる俺が、ギターはこういう感じ、ドラムはこういう感じ、そしてこんな感じの曲になるんだろうなってタカをくくっていたんです。それが今は「もっと良くしたいから助けてよ」ってメンバーに言えるし、メンバーも「よっしゃ、どうにかして俺が良くしてやる」って応えてくれる。今作のレコーディングでも、バンドを始めた頃より耳は良くなってるし、あとから音を重ねたりしてよりきれいなものにもできたんですけど、それはやらなかったんです。直樹のギターの音がちょっとヨレていて、走り気味の行裕のギターがあって、そこにリズムが入って、それがカッコいいねって思えるようになった。そこを愛していきたいって。だってそれが俺たちの生活から出てきた音なんだから。今作にはメンバーそれぞれが挑戦した音があって、何度も聴くとふとそこに耳がいくと思うんですよ。そういう生々しい挑戦も潜んでるアルバムなんです。

──なんだか変わりましたね。前川さんって以前はちょっと完璧主義的な感じかと思ってたけど。

前川 4人でやる楽しさに気付いたのと、あと30歳から31歳になったんですけど、自分らしい音楽のあり方について、自信っていうのとは違うんですけど、腹を決めたって感じかな。

──じゃあ最後に今作について今思うことを聞かせてください。

中村 1人ひとり違う4人が集まって、できる限りのことを1曲1曲に込められたんじゃないかなって思います。

新屋 ベスト盤で節目をつけてここから次のステップって考えると、今作は1stアルバムって言ってもいいなって思ってます。

宮平 昔好きだったことを今やってみたって意味での初期衝動もあるんですけど、4人でやる初期衝動も感じました。ホント、マンドリンやバンジョーは入ってますけど4人でできる音だけで。すぐライブをやれるような。1人ひとりが見えるようなアレンジだし演奏だし。今後ももっともっとそうなっていくと思います。

新屋 かりゆし58のコピーバンドをやってる人も一番やりやすいかも(笑)。

──コピーバンドがそれぞれの演奏で曲を他の人につなげていくように、聴き手が各々で曲を完成させていくような感じですよね。

前川 今作はシンプルだから余白もあると思うんですけど、それこそが音楽の伸びしろというか。聴き手がそれぞれの歌にしていってくれたらうれしいです。

左から中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)、前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)。
ニューアルバム「5」 / 2012年11月28日発売 / LD&K Records
初回限定盤[CD+DVD+BOOK] / 3990円 / LDCD-50088/B
通常盤[CD+DVD] / 2940円 / LDCD-50089/B
CD収録曲
  1. まっとーばー
  2. あいのりズム
  3. あなたが好きだ
  4. また君に会いに
  5. ゆい
  6. 愛なのでしょう
  7. 笑っててくれよ
DVD収録内容

「別冊かりゆしテレビ」

  1. ハイサイロード2012 ハブよりも!マングースよりも!(仮) ツアーファイナル 2012年7月31日Zepp DiverCity LIVE映像
  2. 「まっとーばー」プロモーションビデオ
  3. 初回盤BOOK撮影オフショット映像
初回限定盤BOOK

沖縄の「衣」「食」「遊」58カ所を収めたガイドブック

かりゆし58「ハイサイロード 冬がはじまるさぁ~、南の国から2012」
  • 2012年12月4日(火)
    大阪府 オリックス劇場
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年12月5日(水)
    大阪府 オリックス劇場
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年12月7日(金)
    東京都 渋谷公会堂
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年12月8日(土)
    東京都 渋谷公会堂
    OPEN 16:00 / START 17:00
かりゆし58 (かりゆしごじゅうはち)

2005年沖縄で結成。前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)からなる4人組バンド。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄のメインストリート国道58号に由来する。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリースし、続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録。2009年2月にリリースしたシングル「さよなら」は松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に抜擢され大きな話題を集めた。2011年7月発売のベストアルバム「かりゆし58ベスト」のヒットを経て、2012年12月には2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「5」を発表。ライブも精力的に行っており、沖縄で生まれ育った彼らならではの“島唄”を全国に向けて歌い続けている。