ナタリー PowerPush - かりゆし58

“まっとーばー”に気持ち届ける 2年ぶりオリジナルアルバム「5」

昨年リリースされたベスト盤「かりゆし58ベスト」が今もロングセラー中のかりゆし58が、オリジナルアルバムとしては約2年3カ月ぶりの新作「5」を完成させた。これはツアーを経てバンドサウンドに改めて立ち返った彼らが、自分たちの原点を見つめて作り上げた意欲作。本作は7曲入りのCDとライブの模様を収録したDVDで構成され、さらに初回限定盤には4人が沖縄を紹介するガイドブックも付属する。この待望の新作について、メンバー4人に話を訊いた。

取材・文 / 遠藤妙子

音楽を始めたときの“あの感じ”を再現

左から宮平直樹(G)、前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)。

──今作はシンプルなバンドサウンドが際立つ作品になりましたね。ベスト盤「かりゆし58ベスト」を経て今作を制作する上で、心境の変化はありました?

前川真悟(Vo, B) ベスト盤がそれまでやってきたことのひとつの集大成だとしたら、ベスト盤発売後はそこから先にどう進んでいくかを考える期間でした。以前からずっとバンドを続けたいって思ってましたけど、その思いがより強くなって、長く続けていくにはどうしたらいいんだろうってことを考えて。ガムシャラにやってきたこれまでとは違って何かしらの覚悟を持って進んでいくことが、この先10年、20年続けていく上で大事なことだなと。そしたら「なんで音楽を生業にしたんだろう」とか「なんで楽器を手にしたんだろう」とか、そういう原点っていうんでしょうか、最初の衝動を思い出すようになって。つまり自分たちはどんなことに感動したんだろうってことですよね。で、自分たちのこれまでの経験やアイデアがあった上で、できる限り“そのときのあの感じ”を再現していく感覚が、今作のサウンド面でのコンセプトみたいなものになっていったんです。

──長く続けていこうって思ったときに、ならば原体験を確認しようと。

前川 はい。出自をはっきりさせたかったんです。出自がはっきりしたら向かう先も見えてくる。迷走しないで進めると思って。

──前川さん、今作のDVDのコメントでもそう言ってますよね。「長くやり続けることが見えてきた」って。

前川 5周年を迎えたときに、その先の進み方を漠然と考えていて。ホールツアーが終わったときに見えてきたっていう感じがして。

──ツアーをやりながら思いがはっきりした。

前川 そうです。やっぱりライブは目の前にお客さんがいて、その人たちと一緒になって楽しみたい。ツアーはその繰り返しで、それが考え方に反映されたと思います。

誰かの暮らしの潤いになりたい

──その日のライブはその日限りだけど、でもそれが繰り返されて続いていくわけですからね。

前川 うん。なんかこう、現実的な感覚になっていったというか。みんな地に足着けたところで人生歩んでいこうとしてて、例えば父ちゃん母ちゃんが歳を取っていく、自分の子供が大きくなっていく。俺たちの場合はそれがライブのお客さんでありCD買って聴いてくれる人なんですよ。つまりみんなが父ちゃん母ちゃんや子供と一緒に人生を過ごすように、俺たちには聴いてくれる人がいる。するとね、父ちゃん母ちゃんを喜ばせたいって気持ちと同じように、聴いてくれる人を喜ばせたいって思うようになって。目の前にいる人たちを喜ばせたい、一緒に遊びたい、そういうすごくシンプルなことが大事なんじゃないかって。だから、文句つけようもない素晴らしい音楽を作ろうとか、感動するような曲を作ろうとかってことより、目の前の人に少しでも喜んでもらいたいって思うんです。それを一生懸命やれば、地に足を着けてずっとやっていけるんじゃないか。その日のごはんをおいしく作って目の前の人と一緒に食べるみたいな感じで、そうやって繰り返されて続いてつながっていくような音楽をやることが俺ららしいんじゃないかって。そんなふうに、音楽はもっと現実的なものなんだって感覚が増してきたんです。

──今作の「あいのリズム」の歌詞に「生きものみんな昨日のご飯で出来ている」ってありますしね。ホント、ごはんを食べるのは現実的で日常的なことだけど、だからこそずっと続いてきてこれからも続く普遍的なことで。音楽もそうありたいと。

前川 そうです。作品を作る上で思ったのは、音楽は暮らしから生まれて暮らしに返っていくのが一番自然だし、歌っている本人も自分の暮らしと向き合ったほうがいい。そういう自分の暮らしの中から曲を作ったり、誰かの暮らしを一生懸命想像しながら作ったりして、そしてその曲が誰かの暮らしの中でちっちゃい潤いになればいいと思うんですよね。

──今作のDVDのコメントで新屋さんが「(ツアーが終わって)普通の男の子に戻ります」って言ってますよね。もちろん引退するって意味じゃなく、自分も観客と同じって感覚だからこそ出た言葉なんだろうなって思うんですけど。

新屋行裕(G) ですね。自分はステージに立ってても、テレビ観て笑ったり、ほかのバンドをカッコいいなって思ったりする、ホントに普通の人間なんで。背伸びもできないし。ツアー中はがんばってるんですが、だけど特別な人間だなんて思ってないし。それで出た言葉だと思います。

ニューアルバム「5」 / 2012年11月28日発売 / LD&K Records
初回限定盤[CD+DVD+BOOK] / 3990円 / LDCD-50088/B
通常盤[CD+DVD] / 2940円 / LDCD-50089/B
CD収録曲
  1. まっとーばー
  2. あいのりズム
  3. あなたが好きだ
  4. また君に会いに
  5. ゆい
  6. 愛なのでしょう
  7. 笑っててくれよ
DVD収録内容

「別冊かりゆしテレビ」

  1. ハイサイロード2012 ハブよりも!マングースよりも!(仮) ツアーファイナル 2012年7月31日Zepp DiverCity LIVE映像
  2. 「まっとーばー」プロモーションビデオ
  3. 初回盤BOOK撮影オフショット映像
初回限定盤BOOK

沖縄の「衣」「食」「遊」58カ所を収めたガイドブック

かりゆし58「ハイサイロード 冬がはじまるさぁ~、南の国から2012」
  • 2012年12月4日(火)
    大阪府 オリックス劇場
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年12月5日(水)
    大阪府 オリックス劇場
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年12月7日(金)
    東京都 渋谷公会堂
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年12月8日(土)
    東京都 渋谷公会堂
    OPEN 16:00 / START 17:00
かりゆし58 (かりゆしごじゅうはち)

2005年沖縄で結成。前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)からなる4人組バンド。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄のメインストリート国道58号に由来する。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリースし、続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録。2009年2月にリリースしたシングル「さよなら」は松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に抜擢され大きな話題を集めた。2011年7月発売のベストアルバム「かりゆし58ベスト」のヒットを経て、2012年12月には2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「5」を発表。ライブも精力的に行っており、沖縄で生まれ育った彼らならではの“島唄”を全国に向けて歌い続けている。