ナタリー PowerPush - 鴉
秋田発・激情系3人組がメジャーへ バンドの方向性を占う新作「夢」を語る
視野を広げて臨んだレコーディング
──充実したツアーを経て、メジャーデビューシングル「夢」がリリースされます。タイトル曲の「夢」はドラマの主題歌にも起用されていますが、いつ頃作られたものなんですか?
近野 デモ自体は去年ぐらいからあったんですけど、ドラマの主題歌の話をいただいたときに「夢」が合うんじゃないかって思いついて。メンバーやスタッフと話し合ってアレンジを変えたものが今回のシングルになりました。
──どんなところを変えたんですか?
近野 元の曲はもう少し速くてロック寄りだったんですけど、華やかなイントロにしたり、歌詞や音が聴きやすくなるようにテンポを落としたりしました。ドラマのことも意識しつつ、曲自体をもっと良くしたいなと思って。見つめ直す機会ができたので、かなりブラッシュアップできましたね。
──確かに「影なる道背に光あればこそ」に比べると、音が洗練されていますよね。自分たちで手ごたえはありますか?
一関卓(B) それはもちろん! 前のレコーディングはあまり周りを見れてなかったけど、今回は視野を広げることができたし、楽しみながら作れました。あとレコーディングの臨場感や空気は音源にも入るので、ドラムとベースはせーので録ってみたりしてライブの勢いも再現できたし。終わったときは「自分の番が終わっちゃった~」みたいな、もうちょっとレコーディングを満喫したかったと思ったくらい。
──今回のシングルにはカップリングに新曲が2曲入っていて、両方とも「夢」とはタイプの異なるミディアムテンポの楽曲ですね。
近野 ノリのいい曲だけを入れるのもありだったんですけど、シングルも1つの作品だと思って。「夢」では激しいところを聴かせて、他の2曲はメロウな部分を聴かせるためにあえて違う雰囲気の曲を収録しました。
一関 3曲まとめて聴くと違う魅力が見えてくるし、相乗効果でそれぞれの世界観がより引き出されているんじゃないかと思います。
──ところで、ドラマのオープニングには、皆さんが「夢」を演奏しているシーンが挿入されていますよね。
近野 はい。
──映像はご覧になりました?
近野 ええ。観た瞬間にスタッフに電話して「あの映像は毎週出るんですよね。僕らでいいんですか?」って聞いちゃいました(笑)。
──(笑)。ドラマの雰囲気にも合ってるし、鴉の存在をアピールするにはこれ以上ないコラボだと思います。
次回作はイメージを崩す“遊び心”のあるものに
──メジャーデビューをきっかけに、今まで以上に多くの人が鴉の存在を知ることになると思いますが、これからどんなバンドになっていきたいと思いますか?
近野 いそうでいない、そんなバンドを目指したいですね。激情感のあるバンドって、最近結構いると思うんです。哀愁だったり、さみしさだったり、切なさを持ってるバンドっていうのは。でも、どこか新しいものを取り入れたり、近未来を感じさせる音楽に発展しているような気がしていて。俺らはそういったバンドとは一線を画するような部分を出していけたらと思ってます。
──その鴉の持つ独特の郷愁感やノスタルジックな部分は、秋田という土地柄が影響してるんでしょうか?
近野 そうですね。東京からツアーに来るバンドとか見ると、美しくドレスアップされたものに見えるし、知らないうちに劣等感を感じていたりもするんですよね。そういう感情も含めて、鴉って秋田が作り出したものなのかなと自覚するようになりました。
渡邉 俺は、変だけどスタンダードなバンドになりたいなと思いますね。受け入れやすいけど、受け入れづらいみたいな。曲がいいけどすごく激しい、恐そうだけどちょっと面白い感じ。そんな存在になりたいなと考えてます。
一関 僕はいい意味で先が見えないバンドになりたいですね。
──なにをやってくれるのかわからないけど、ワクワクする感じ?
一関 そうですね。
──次の一手をどうするかというのは決まってるんですか?
近野 考えてはいるんですけど、実際に動く時期になって自分がどうするのかはわからないですね。わがままなB型人間なので(笑)。でも今回の「夢」が勢いのある曲なので、次は遊び心のあるものを出せたらと考えてます。ナベさんがさっき言ったみたいに、面白い部分や変わった部分を出したいなと。
──遊び心というのはサウンド的なところですか?
近野 サウンドも歌詞も両方ですね。これまで勢いや疾走感のあるものが多かったんですけど、それだけだとやっぱり飽きてしまうんです。曲作りの面でも、方向性の面でも。
──バンドのイメージを変えたいということですか?
近野 はい、イメージがちょっとくらい崩れてもいいかなって思ってます。それでも自分たちの音楽の良さは残るという自信はあるから。
鴉(からす)
近野淳一(Vo,G)、一関卓(B)、渡邉光彦(Dr)からなるスリーピースバンド。2001年に近野を中心に秋田で結成。エモーショナルかつ重厚なサウンドと叙情的な歌詞世界で、地元で絶大な支持を集める。2008年頃より関東地区でのライブ活動を開始。2009年1月にTSUTAYA限定シングル「時の面影」を発表、同年2月に「時の面影」がiTunes Store「今週のシングル」に選ばれ各方面で反響を呼ぶ。2009年3月、初の全国流通作品となるミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」をリリース。