神聖かまってちゃん「団地テーゼ」インタビュー|史上最高濃度で「病み」と「闇」を描いた劇薬アルバムはなぜ生まれたのか (2/3)

「進化した」ってことで、芯はずっと変わってないんですよ

──「僕の戦争」は2023年のベストアルバム「聖なる交差点」にも収録されていたので、今回のトラックリストを見て「あ、また入るんだ」と思ったんですけど……。

の子 ベストアルバムは先に出ちゃったんですよ(笑)。結果的に。ただそれだけなんです。

──でも実際に聴いてみると、このアルバムにとって「僕の戦争」は重要なピースになっているし、なんなら「僕の戦争」からイメージが膨らんで前後の曲が生まれたのではとも思ったんですよ。

の子 最初の4曲は作った時期が近いですからね。

──ああ、やっぱりそうなんですね。前半はいわゆる“ホーリー”なサウンドが多めで、世界観がすごく統一されているように感じたので納得です。

みさこ 「僕の戦争」を入れるのは早いうちから決まっていたよね。

の子 うん。曲を作った順番的にはそんなだったはず。でも、ダークファンタジー的なものは昔から好きですし、特別そんな変わったつもりはないんですけど。やっぱ「進化した」ってことなんじゃないですかね(笑)。芯はずっと変わってないんですよ。だって「雨あめぴっちゃんの歌」って、神聖かまってちゃんを始める前にmonoくんとやってた、びばるげばる物語ってバンドの曲ですもん(笑)。

──あ、そうなんだ!

の子 10代の頃に作った曲。それがこのアルバムに入ってても違和感がない。それくらい芯が通って一貫してるってことです。

──神聖かまってちゃんはいろんな音楽性の曲を幅広くやっているバンドだと思うんです。例えば、夏の景色を思い起こさせる疾走感のあるロックとか。そんな中で、たぶんここ数年は「僕の戦争」をきっかけに興味を持つリスナーが多かったと思うんですけど、今回のアルバムはそんな人たちが望んでいるアルバムなのではという気がして。

の子 でもまた次のアルバムでそういうやつらを蹴落とす内容にしますよ。「ツン×デレ」みたいなアルバムを作って「なんだこいつら。前のと全然違くなってるじゃん」みたいな(笑)。僕は二面性がある人間なのでそういう曲を作ることはこれからもあると思います。絶望とか憂鬱とかネガティブなところだけに焦点が当たってるバンドじゃないというのは、僕に二面性があるからだと思いますし。

──「僕の戦争」と同じように意外だったのが、GOMESS「魔女狩り」のセルフカバーが入っていたことで。の子さんが作詞していない曲がアルバムに入るって珍しいなと思ったんですよね。

の子 これはGOMESSくんから依頼があって提供した曲だったんですけど、アルバムのコンセプトにも合っているし、単純にいい曲だなと。彼の精神性は僕らと似たところがあるので。

──の子さんは最近、いろいろな人に曲を提供してますよね。

の子 なんか結果的にそうなっちゃっていますね。

──そういう曲がたくさんある中で「魔女狩り」だけアルバムに収録するって、それくらいこの曲は特別な存在なのかなって思って。

の子 それはある。

みさこ そういえば確かにセルフカバーってそんなにやってないね。

──あえて言えば「Os-宇宙人」(アニメ「電波女と青春男」のヒロイン・藤和エリオが歌った、同アニメのオープニングテーマ)がありますけど、あれはもともとあった曲を提供しているから、セルフカバーとは違いますもんね。

の子 はい。まあセルフカバーとはいっても、「魔女狩り」はやっぱりGOMESSくんありきの曲ですね。

ドラムセットをバラして叩いたり、コーラスもボコーダーでなく実際に歌ったり

──今回のレコーディングで何か印象に残ってることはありますか?

みさこ 私は「全世界のカスどもへ乾杯」でクラップを録ったのが楽しかった! そういうの、たまたま私だけ参加できないってことが多くて。

の子 確かに、だいたい男3人で録ってるよね。

──違う仕事が入ってて現場にいなかったとか?

みさこ そういうことがすごく多いんですよ。「今日はボーカル録りの日だから、みさこさんなしで」みたいな。いいなーって思ってたから、今回は参加できてうれしかったですね。

ユウノスケ 「スノーボードしようよっ」は宅録したんですよ。完全に家だけで録音して、スタジオでデータを渡すっていう。自分的には新しいやり方を見つけられた気がします。

──スタジオで録らなかったのは何か狙いがあったんですか?

ユウノスケ 公開されていたデモでは全体的にサンプリングが多く使われていたので、その雰囲気を出せたらいいなという気持ちが自分の中にあって、「ワンフレーズだけ録ってコピペする」というのをあえてやってみたりしたんです。エディットについて自分の意志を細かく伝えるのは難しいし、だったら自分でやろう、と思って。

みさこ それを聞いて思い出したけど、「夜のブランコ」はドラムセットをバラして叩きました。ビーターを手に持ってバスドラを大太鼓みたいに叩いたり、スネアは吹奏楽のマーチングスネアみたいにしたり。そのほうが曲調に合うかなと思って。スプラッシュも全部別録りしました。

ユウノスケ あとは聖歌隊のようなコーラスも、曲によって声のアレンジを変えたりもしました。今まではボコーダーだったりシンセの音源だったりを使ってたのを、そうでなく実際に歌ってみたり。スタジオでコーラスを録るときに、どう重ねるかをの子さんと話し合いながら考えました。

の子 そうですね。女性スタッフの力を借りたりして(笑)。そういう音作りは新しいアプローチでしたね。

──今回のアルバムに収録されている中で、メンバー的に「これがイチオシ!」という曲はありますか?

みさこ どの曲も好きなんですけど、あえて言うなら「ヨゾラノ流星群」。「かまってちゃんらしさ」をどう思うかって、人によっていろいろあると思うんですけど、この曲に関しては幻想的な雰囲気がありながら、四つ打ちという一面もあるので、どんな曲なのか人によって解釈が変わりそうだなと思ってて。ライブのときも、照明さんはこの曲でバキバキでアッパーにしてくれることもあれば、ちょっとホーリーな感じにしてくれるときもあるという。

mono 僕は「死にたいひまわり」ですね。デモを聴いた時点で「絶対にヤバい曲になる」っていう確信があったんで。

──実際にヤバい曲になりましたね。

mono ファンの人たちもおっしゃってるんですけど、この曲は歌詞がすごい。

みさこ 実際に近い体験をしている人はフラッシュバックするかもしれない。

mono 特に最後の「ちょっとくたばります」ってフレーズ。初めて聴いたときに耳に残りすぎて、ものすごいキラーワードだなって思いました。

ユウノスケ 世界観という意味で言ったら「最果てフィールド」が、アルバムを通して聴いたときに効いてるなと思いました。さりげない位置に入ってはいるけど、全体を象徴するものみたいになっているというか。

──ああ、確かにそうですね。このアルバムは曲順もすごくいいなと思いました。

の子 曲順もかなり考えましたね。

──ホーリー要素が強めな曲で固めた前半部分も、初めて聴いたときにかなり衝撃を受けましたし、ラストが「1999年の夏」というのも、この曲がアルバム全体のエンドロールみたいに聴こえてグッときました。

mono そうそう、エンディング感あるよね。

の子 エンディング感っていうのは結果そうなったけど、僕としては「最後はギターロックで締めてみようかな」くらいの気持ちで曲を選んでるんですけどね。

mono 1曲目の「墓」からいきなりドンと来ますからね。めちゃくちゃいいんですよ。僕は「墓」も大好きなんです。

mono(Key)

mono(Key)

──アルバムを再生した瞬間に流れてくる「遺書を書く 今日の始まり」という歌のインパクトがすごかったです。

mono ここから始まるストーリーの入り口になってますよね。このドアをガチャッと開けてアルバムが始まるという。そして最後に「1999年の夏」で、それまでのことを思いながら部屋を出ていくんですね。