ナタリー PowerPush - じん(自然の敵P)

いいメロディを書く“強さ”、物語を終わらせる“強さ”

自分の身体性を飛び越えるためのアレンジャー起用

──アレンジもこれまでとは明らかに手つきが違いますよね。じんさんというと、エモいギターロックやデジロック寄りのドラムンベースを作る人っていうイメージが強いんだけど、アルバム制作時にメロディについてのみルール設定したせいか、アレンジはより自由になっている。黒っぽい「夜咄ディセイブ」もあれば、ブラスが派手に鳴り響くパーティチューン「オツキミリサイタル」もあるし、「アウターサイエンス」のようなハードなエレクトロもあったりして。

実は1stアルバムの「メカクシティデイズ」の頃からそうなんですけど「とっちらかった感じのアルバムを作りたいなあ」とは思っていて。もともと僕の曲はどれも「カゲロウプロジェクト」という連作ストーリーに出てくるキャラクターのことを歌ったものだから、歌詞を並べてみるとバラエティに富んだ感じになるんですよね。

──ほかのシンガーソングライターのように「じん(自然の敵P)」という1人の人のことを歌っているわけじゃないですからね。

じん(自然の敵P)

ええ。だったらアレンジもバラエティに富んだ感じにしたほうが面白いんじゃないか、みたいなイメージがあって。ただやっぱり、メロディを大事にすることが大前提ではあるんですよ。だから例えば「夜咄ディセイブ」であれば、本当に“ファンクファンク”したわかりやすいアレンジの上になら僕のメロディを気持ちよく乗せられるはずだ。「夕景イエスタデイ」なら、サンバっぽいダンサブルなリズムの上に僕のメロディが乗っかると、より耳に残って口ずさみたくなってくれるんじゃないか。「オツキミリサイタル」もそうですよね。ああいう明るいオケにメロディが乗ったらすごく楽しいんじゃないか。どの曲のアレンジにもそういう思いがあって。あくまでメロディを生かすために考えたものなんですよね。

──ただ、メロディを生かすための副産物だったとはいえ、アレンジャーとしての強さも見せつける結果にはなりましたよね。

ところが今回って何曲かのアレンジについては、親交のあるアレンジャーさんにお願いしてるんですよ。作詞作曲は全部僕がやってるんですけど、例えば「アウターサイエンス」のアレンジはボカロPやDJをやっているNhatoさんに頼んでいて。「今回のアルバムでは僕はプロデューサー的な立場だったんです」っていうとすごく聞こえがいいんだけど、実はすごく人の力を借りたアルバムなんです(笑)。

──なぜアレンジャーを立てようと?

自分の身体感覚にすごい限界を感じたんですよね。「夕景イエスタデイ」のような明るい楽曲を作ったあとに、ブチ抜けたくらいの対極にある「アウターサイエンス」なんかを作ろうとすると、自分の体っていうものがすごく愚鈍に感じられたんです。頭の中では「ダークなサウンドメイクをしたい」って思ってるのに、体は明るい楽曲を作るモードのまま。引きずってしまうんですよね。それではとっちからっていたり、バラエティ豊かだったりするアルバムは作りにくい。だから「アウターサイエンス」はNhatoさん、「アヤノの幸福理論」はAKB48の楽曲やアニメソングも多く手がけている中西亮輔さん、「マリーの架空世界」と「クライングプロローグ」はアニメ「Angel Beats!」のサントラを作ったANANT-GARDE EYESというように、それぞれのジャンルに強い方にアレンジをお願いしてみたんです。おかげでよりポップなアルバムになったし、全部A面みたいな曲になったな、っていう気はしています。

「メカクシティレコーズ」は「アベンジャーズ」

──全曲A面っていう感じはすごくわかります。今回の収録曲って、それこそバラードですら、今日のインタビューのキーワードを使うなら“強い”。ある意味リード曲のないアルバムというか、全部がリード曲みたいなアルバムになっています。

言うなれば、映画の「アベンジャーズ」みたいなアルバムですよね(笑)。

──スーパーヒーロー全員集合(笑)。

じん(自然の敵P)

まあいわゆる捨て曲というか、抜き曲というか、箸休め的な曲を作れないだけではあるんですけどね(笑)。なんで曲を弱者と強者に分けなきゃいけないのかまったくわからないというか、なんでアルバムの中に弱者と強者を混在させなきゃいけないんだ?みたいな。アルバムの中に強弱なんか付けちゃったら、絶対にリード曲しか再生されないじゃないですか。僕ならそうするし(笑)。

──その点、全部A面収録曲、リード曲にすれば……。

全部聴いてくれるかもしれない(笑)。将来的に僕にも捨て曲が必要になるときがやってくるのかもしれないけど、それはそのときに作り方を考えればいいのかな、って思ってます。あっ! 逆に弱者のみを集めたアルバムって面白いかもしれませんね。

──パッとしない曲を延々と聴かされるアルバム(笑)。

ダメだ。どう考えても最も面白くないですね、それ(笑)。

ニューアルバム「メカクシティレコーズ」 / 2013年5月29日発売 / 1st PLACE / IA Project
初回生産限定盤 [CD+DVD] / 3885円 / MHCL-2278
通常盤 [CD] / 3045円 / Project MHCL-2281
収録曲
  1. サマーエンドロール(Instrumental)
  2. チルドレンレコード(Re Ver.)
  3. 夜咄ディセイブ
  4. 少年ブレイヴ
  5. 夕景イエスタデイ
  6. 群青レイン(Re Ver.)
  7. アウターサイエンス
  8. オツキミリサイタル
  9. ロスタイムメモリー
  10. アヤノの幸福理論
  11. マリーの架空世界
  12. クライングプロローグ(Instrumental)
  13. サマータイムレコード
じん(自然の敵P)(じん しぜんのてきぴー)

1990年10月20日生まれ、北海道利尻島出身のボカロP。幼少期より音楽に親しみ、学生時代にはバンド活動を行う。2011年にニコニコ動画に投稿した「人造エネミー」でボカロPとしてデビュー。瞬く間にニコ動ユーザーの間で話題を集め、数々の楽曲でランキング上位入りを果たす。2012年5月、それまでに発表した楽曲の世界観を1枚のアルバムに集約した1stフルアルバム「メカクシティデイズ」をリリース。楽曲に登場するキャラクターの物語を小説化した「カゲロウデイズ -in a daze-」で、小説家としてもデビューを果たし、さらに2012年8月リリースの1stシングル「チルドレンレコード」はオリコンシングル週間ランキング3位に輝く。そして2013年5月、連作の音楽編完結版となる2ndアルバム「メカクシティレコーズ」をリリースした。