ナタリー PowerPush - じん(自然の敵P)
いいメロディを書く“強さ”、物語を終わらせる“強さ”
2011年にオリジナル曲「人造エネミー」を発表して以来「カゲロウプロジェクト」という連作シリーズを制作している、ボーカロイドプロデューサー・じん(自然の敵P)。ニコニコ動画に投稿する楽曲や、2012年発売の1stアルバム「メカクシティデイズ」、1stシングル「チルドレンレコード」の収録曲は、すべて「カゲロウプロジェクト」の舞台「メカクシティ」という架空の街の人々のことを歌っていた。さらにその世界観をモチーフにした小説やコミックも刊行。「チルドレンレコード」がオリコンシングル週間ランキング3位に輝くなど、いずれも好セールスを記録している。
そんなじんの2ndアルバム「メカクシティレコーズ」はその「カゲロウプロジェクト」の一環となる作品。物語世界は同じにしながらも、じんの十八番である硬質なギターロックはもちろん、ファンクや80年代アメリカンロックを思わせるヌケのいいパーティチューン、聴かせるバラードなど、作曲家としてのさらなる成長ぶりと可能性を見せつける楽曲群がパッケージされている。
ところが、じんによると音楽版「カゲロウプロジェクト」は今作で完結。小説、コミックも近く最終回を迎えることになるという。気鋭のボカロPはなぜ一大メディアミックスプロジェクトの終着点に向かうのか。大いに語ってもらった。
取材・文 / 成松哲
周囲の期待に応える“強さ”を求めて
──「大変遅ればせながら」ではあるんですけど、1stシングル「チルドレンレコード」のオリコンシングル週間ランキング3位獲得、おめでとうございます!
ありがとうございます(笑)。もう去年の夏のことなんですけどね。
──すみません(笑)。デビューシングルがナショナルチャートのベスト3に輝くようになると、やっぱり取り巻く状況って変わるものですか?
人間関係みたいなところでの変化はすごい感じてますね。僕が憧れていた方々とお話する機会をすごくたくさんいただけるようになったりとか。
──具体的にはどなたと?
神前暁さんだったり乙一さんだったり、この4月のワンマンライブに出ていただいた奥井亜紀さんもそうですし。そういう自分が目標としている方々に自分の作品に言及してもらえたっていうのは、いまだに信じられないくらいうれしいことでした。で、このインタビューもそうなんですけど、僕自身のことや、そういう方々とお話したことを、たくさんのメディアで取り上げていただくことで、また「僕もじんの音楽、好きだよ」って言ってくれる方が出てきたりして。「チルドレンレコード」が評価されたことで僕自身の何かが変わったわけではないんですけど、「おっ、ちゃんと階段登ってるかも」「ステップアップしてるかも」みたいな感覚にはなれましたね。ただ、いろんな方に知ってもらえるようになったら「次の曲も楽しみにしてるよ」みたいなことを言われる機会も増えていて(笑)。
──期待されている証拠なんだし、いいことじゃないですか。
もちろんありがたいお言葉ではあるんですけど、ハードルは上がりますよね。音楽活動を通じて仲良くさせていただくことになったアーティストさんなんかに「楽しみにしてる」って言われると「いや、オレ、あんたの次の作品のほうが楽しみなんですけど」「だってあんた、絶対とんでもないもの作るじゃん」って言い返したくなるというか(笑)。だったら「もっと強いものを作らなきゃいけないし、作りたいな」って。そんなことを考えていた9カ月間だった気はします。プレッシャーは特に感じなかったんですけど、なんか燃えてました(笑)。
強い曲=シンプルながらも個性的なメロディという結論
──で「メカクシティレコーズ」という、ホントに強いアルバムを作っちゃった、と。
ありがとうございます。「強い曲を作らなきゃ」「でも強い曲ってなんだろう?」って考えたときに、僕の中ではOASISだったり、そういう人たちの曲が強い曲なんだ、ってことに気付いたんですよね。すごくシンプルでいて、でも実は個性がガンッて光って耳に残るメロディを持っていて。歌詞的にはちょっとキュンとなるような部分がたくさんある。そういう曲が強い曲で、その強い曲がガガガッと並んでいるのが強いアルバムだなっていう、なんとなくの理想像みたいなものが頭の中にあって。逆にいうと今回のアルバムのルールはそれだけ。「わかりやすくて強いメロディを持った曲を書こう」「メロディを大事に」ってことだけを守って作ったのが「メカクシティレコーズ」なんですよ。
──確かに「メカクシティレコーズ」って、じんさんのメロディメーカーとしての強さが際立つアルバムですよね。
自分の好きなメロディを作れた感覚はありますね。ホントに普段僕が手癖のように使っているフレーズやコード進行だけで作った「夕景イエスタデイ」のような曲もあれば、その逆というか「メロディをよりよくしよう」と意識的に作った「アヤノの幸福理論」みたいな曲もあって。そのどちらも、自分自身一番好きって思えるようなものに仕上げられていて。そういう意味では、作曲家としてちょっと成長できたのかな、とは思ってます。
- ニューアルバム「メカクシティレコーズ」 / 2013年5月29日発売 / 1st PLACE / IA Project
- 初回生産限定盤 [CD+DVD] / 3885円 / MHCL-2278
- 通常盤 [CD] / 3045円 / Project MHCL-2281
収録曲
- サマーエンドロール(Instrumental)
- チルドレンレコード(Re Ver.)
- 夜咄ディセイブ
- 少年ブレイヴ
- 夕景イエスタデイ
- 群青レイン(Re Ver.)
- アウターサイエンス
- オツキミリサイタル
- ロスタイムメモリー
- アヤノの幸福理論
- マリーの架空世界
- クライングプロローグ(Instrumental)
- サマータイムレコード
じん(自然の敵P)(じん しぜんのてきぴー)
1990年10月20日生まれ、北海道利尻島出身のボカロP。幼少期より音楽に親しみ、学生時代にはバンド活動を行う。2011年にニコニコ動画に投稿した「人造エネミー」でボカロPとしてデビュー。瞬く間にニコ動ユーザーの間で話題を集め、数々の楽曲でランキング上位入りを果たす。2012年5月、それまでに発表した楽曲の世界観を1枚のアルバムに集約した1stフルアルバム「メカクシティデイズ」をリリース。楽曲に登場するキャラクターの物語を小説化した「カゲロウデイズ -in a daze-」で、小説家としてもデビューを果たし、さらに2012年8月リリースの1stシングル「チルドレンレコード」はオリコンシングル週間ランキング3位に輝く。そして2013年5月、連作の音楽編完結版となる2ndアルバム「メカクシティレコーズ」をリリースした。