ナタリー PowerPush - じん(自然の敵P)
いいメロディを書く“強さ”、物語を終わらせる“強さ”
新シリーズ「メカクシティなんちゃら」
──「サマータイムレコード」が流れてきた以上「カゲロウプロジェクト」はオシマイなんだ、と。
ええ。小説やマンガも、あと何巻も刊行することは考えていませんし。まあこのあと僕が全然曲を書けなくなったりしたら、急に「それから10年後」とか始めたりするかもしれませんけどね(笑)。「メカクシティなんちゃら」みたいな続編を。「あのとき語られなかった物語を今語ろう」とか言っちゃって。
──「カゲロウプロジェクト」の主人公の子供たちの話が突然始まったり(笑)。
「えっ! アイツとアイツ、結婚したの!?」みたいな。アルバムの中に登場するキャラクターのイラストをジャケットに使った特装盤を5パターンくらい出してみたりして。……まあ、やらないですけどね(笑)。
新しい物語を手にもっと広い舞台に
──賢明な判断です(笑)。では一大プロジェクトが終わったら、今度はどんな活動をしましょうか。
別に連作を作ることが嫌いになったわけではないし、むしろ「カゲロウプロジェクト」のおかげで「これは僕ならではのやり方だな」と思えるようになってきたので、このやり方を踏まえつつ、もっとカッコいいもの、もっと上に行けるものを作りたいですね。今回のアルバムを作っている最中から、なんとなくの構想というか、「こういうお話をやりたいね」っていう方向性みたいなものを思いついてはいますし。メディアミックスについても今回と同じというか、今回以上のもの。ただ曲を作って、ただそれをなぞっただけみたいな小説を書いて、みたいなやり方はすごいイヤなので、今以上に必然性のあるものを作りたいな、とは思ってます。
──もっとリスナー層を拡大したい、みたいな思いは? というのも、さっきじんさんが言っていた通り「メカクシティレコーズ」はポップなアルバム。つまり外に開けたアルバムだと思うんですよ。「カゲロウプロジェクト」シリーズのマテリアルの1つではあるんだけど、ボカロシーンやニコニコ動画界隈だけを射程に収めてはいない。広い舞台で勝負できる音になっていますよね。
ああ、そう聴いてもらえると、すごいうれしいですね。最初にお話した通り、多くの方が声をかけてくださるようになったこともあって、「チルドレンレコード」を出してからは「より多くの人の声に応えたい」「自分の曲がいろんな方に聴いてもらえるものになってほしい」っていうことはすごく意識してましたから。次の作品ではもっと広い舞台を目指したいっていう気持ちは確かにあります。
ボカロシーンのことを考えてる場合じゃねえんだよ!
──広い舞台を目指す理由の1つにボカロシーンに対する責任感みたいなものもあります? 「もっともっと多くの人にボカロの魅力に気付いてほしい」みたいな。
そういう責任を僕なんかが背負うのはおこがましい気もするし、それ以前に「それどころじゃねえんだよ!」というか(笑)。
──「それどころじゃねえ」?
ボカロシーンって僕と同じ22歳のクリエイターがすごく多いんですよ。ハチさん(米津玄師)とか、レーベルメイトの石風呂さんとか。僕にしてみれば輝いて見える人、悔しく思える人がすごく多いんですね。動画の投稿を始めた頃からずっとそういう人たちと競争を続けてきているから、シーン全体を眺める余裕なんて全然なくて。僕が考えてきたのは「カッコいい曲を書こう」とか「アイツより面白い曲を書こう」ってことくらい。そうしていたら、ときどきシーンの人たちが僕のほうを振り向いて沸いてくれたって感じなんです。で、そのおかげで僕は今のような活動ができるようになったんだと思ってるし、あと、ボカロシーン自体もそうやって拡大してきたんだと思うんですよ。誰かが作為的に引っ張ったから大きくなったってものではなくて。クリエイターと聴いてくれる人たちが、みんなして「でっかい騒ぎを起こしたい」「できればオレ発信で」って感じで楽しいことを連発していたら、おのずと今みたいな感じになったというか。
──じゃあこれからも石風呂さんや米津さんに対して「チクショー!」なんて言いながら、カッコいい曲を書き続けていれば……。
僕自身、成長できるはずだ、と(笑)。で、当然石風呂さんやハチさんやほかの同世代のクリエイターの人たちもカッコいい曲を書き続けるだろうから、そうこうしているうちに「なんか面白そうなことやってるな」って感じでボカロを聴くようになる人も増えていくんだと思ってます。
- ニューアルバム「メカクシティレコーズ」 / 2013年5月29日発売 / 1st PLACE / IA Project
- 初回生産限定盤 [CD+DVD] / 3885円 / MHCL-2278
- 通常盤 [CD] / 3045円 / Project MHCL-2281
収録曲
- サマーエンドロール(Instrumental)
- チルドレンレコード(Re Ver.)
- 夜咄ディセイブ
- 少年ブレイヴ
- 夕景イエスタデイ
- 群青レイン(Re Ver.)
- アウターサイエンス
- オツキミリサイタル
- ロスタイムメモリー
- アヤノの幸福理論
- マリーの架空世界
- クライングプロローグ(Instrumental)
- サマータイムレコード
じん(自然の敵P)(じん しぜんのてきぴー)
1990年10月20日生まれ、北海道利尻島出身のボカロP。幼少期より音楽に親しみ、学生時代にはバンド活動を行う。2011年にニコニコ動画に投稿した「人造エネミー」でボカロPとしてデビュー。瞬く間にニコ動ユーザーの間で話題を集め、数々の楽曲でランキング上位入りを果たす。2012年5月、それまでに発表した楽曲の世界観を1枚のアルバムに集約した1stフルアルバム「メカクシティデイズ」をリリース。楽曲に登場するキャラクターの物語を小説化した「カゲロウデイズ -in a daze-」で、小説家としてもデビューを果たし、さらに2012年8月リリースの1stシングル「チルドレンレコード」はオリコンシングル週間ランキング3位に輝く。そして2013年5月、連作の音楽編完結版となる2ndアルバム「メカクシティレコーズ」をリリースした。