ナタリー PowerPush - じん(自然の敵P)
一大メディアミックスのサイドストーリーを告白
ニコニコ動画では数千人が僕の曲を聴いてくれる
──その、代理投稿してもらった最初の曲ってどんな曲なんですか?
「メカクシティデイズ」にも入っている「人造エネミー」です。本当の最初は、専門学校のバンド用のトラックに、初音ミクに歌わせたクワイヤっぽいコーラスを乗せた曲を作ってみたんですけど、これがまるで面白くなくて(笑)。「『これぞボーカロイド』っていう曲は、やっぱり速回しの歌モノだろう」ってことで、ドラムンベースっぽいトラックの上でミクを高速で歌わせる曲を作り直したんです。
──評判はどうでした?
ニコニコ動画のボーカロイドカテゴリの再生回数ランキングで最高50位台って感じでした。
──動画のアップロードすらままならなかったのに、その成績ってすごいじゃないですか!
ただ、当時はあまりにもネットやニコニコ動画のことを知らなかったから、勝手に絶望したりもしてて。「うわっ、ボカロPってこんなにいるのか!?」「1位、遠っ!」って(笑)。
──なら、あまり手応えは感じていなかった?
いや、実際の再生回数や、「マイリスト」っていうお気に入りの動画をブックマークする機能の登録者数を見るのはかなり励みになってましたね。ライブをやってもお客さんの数なんて知れてたし、CDを手売りしても売れるのは1日何枚かって感じだったのに、ニコニコ動画では数千人の方が僕の曲を聴いてくれて好きだって言ってくれたわけですから。Twitterに感想をいただいてもリプライやリツイートすらままならないような状態だったくせに「がんばって次の曲も早めに投稿します!」って、うっかりつぶやいちゃうくらいうれしかったです(笑)。あと、そのTwitterの感想の中には「曲、カッコよかったです」っていう、ある女の人からのメッセージもあって。その女の人っていうのが、去年の5月に投稿した2作目の「メカクシコード」から今までずっと僕の作品のアートワークを手がけてくれている、しづさん(ボカロP界で活躍している絵師)なんですよ。そうやっていろんな方とのつながりが生まれたのもうれしかったですね。
──「いろんな方」ということは、しづさん以外にもどなたかと交流が?
これは「人造エネミー」での話ではなくて、去年9月の終わりに投稿した3作目「カゲロウデイズ」がランキング1位になった頃のことなんですけど、乙一先生が「カゲロウデイズを観た」ってつぶやいてくださったりとか。
──おっ、憧れの作家先生に届いた!
僕が特にアプローチしたわけでもないし、ファンだって公言したわけでもないんですけど「面白い」「リピートしている」って言ってくださって。あの頃は、遠いと思っていた1位になれたことのうれしさももちろんあったんですけど、それ以上に乙一先生みたいな自分が憧れていた人や、会ったこともない多くの人たちの目に留まるところまで自分が行けた達成感のほうが強かったですね。
物語性のあることをやったほうが楽しい
──その「カゲロウデイズ」やじんさんの楽曲って全て連作になってますよね。そして、それらを収録した「メカクシティデイズ」はコンセプトアルバムのような体裁になっている。なぜこのような構成に?
なんて言うんだろう……。ボーカロイドシーンって、ちょっと同人色が強い感じがあるじゃないですか。
──確かにアニメやゲームやマンガと親和性の高いイメージはあります。
なので「人造エネミー」を作り始める頃から、せっかくニコニコ動画にボーカロイドの楽曲を投稿するなら、僕自身も持っている、アニメやマンガやエンタメ系の小説を観たり読んだりして喜ぶ感性を前面に押し出そうと思っていて。ただ音楽だけを研ぎ澄ませていくんじゃなくて、もっと物語性のあることをやったほうがきっと楽しいだろうって。そこから「音楽の連作をやろう」って思い付いて、ぼんやりと思い浮かべていた連作のイメージ、いろんなコンプレックスやハンデを抱えた少年少女が困難や理不尽に立ち向かうという大まかなプロットやキャラクター像を友達なんかに話しながら整理して、連作全体の世界観を固めていきました。もうひとつ、ちょうどその頃、僕の中でアニメやマンガブームの全盛期を迎えていて、自分もお話やキャラクターを作ってみたくなってたからっていうのもあるんですけど(笑)。
──具体的にはどんな作品を観てたんですか?
「ひだまりスケッチ」とか「みなみけ」とか、あと「けいおん!」かな。
──だから「メカクシティデイズ」の1曲目とラストナンバーに阿澄佳奈さんが参加してたのか(笑)。
ひだまらーですから(笑)。ただ、当時観ていたアニメやマンガってそういう日常系の作品ばっかりで、僕の連作のストーリーにはまるで影響を与えていないんですよねえ。今の話に全くウソはなくて、全部ちゃんと自分が通ってきた作品なんだけどなあ。
ニューシングル「チルドレンレコード」/ 2012年8月15日発売/ 1st PLACE / IA Project
- 「チルドレンレコード」初回限定盤
- 「チルドレンレコード」初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 MHCL-2110~2112
- 「チルドレンレコード」通常盤 [CD+DVD] 1575円 HCL-2113~2114
収録曲
- チルドレンレコード
- 群青レイン
- チルドレンレコード(Instrumental)
- 群青レイン(Instrumental)
DVD収録内容
- チルドレンレコード(Music Video)
- 如月アテンション(Music Video)
【初回生産限定盤】スペシャルブック付、スーパーピクチャーディスク仕様
1stアルバム「メカクシティデイズ」
収録曲
- ロスタイムプロローグ
- カゲロウデイズ
- ヘッドホンアクター
- 空想フォレスト
- エネの電脳紀行
- デッドアンドシーク
- 人造エネミー
- 透明アンサー
- 如月アテンション
- メカクシコード
- コノハの世界事情
- シニガミレコード
- カイエンパンザマスト
じん(自然の敵P)(じん しぜんのてきぴー)
1990年10月20日生まれ、北海道利尻島出身のボカロP。幼少期より音楽に親しみ、学生時代にはバンド活動を行う。2011年にニコニコ動画に投稿した「人造エネミー」でボカロPとしてデビュー。瞬く間にニコ動ユーザーの間で話題を集め、数々の楽曲でランキング上位入りを果たす。2012年5月、それまでに発表した楽曲の世界観を1枚のアルバムに集約した1stフルアルバム「メカクシティデイズ」をリリース。楽曲に登場するキャラクターの物語を小説化した「カゲロウデイズ -in a daze-」で、小説家としてもデビューした。2012年8月に1stシングル「チルドレンレコード」をリリース。