音楽ナタリー PowerPush - ジェッジジョンソン「テクニカルブレイクス・ダウナー」発売記念特集 藤戸じゅにあ×坂本美雨 対談
共鳴し合う15年来の友人
音楽をやってる人間と会うことさえも辛かった
──2010年頃からはNAKED LAMPというユニットをお2人でやられていたこともありましたよね。
藤戸 いきなり美雨ちゃんに呼び出されたんだよね。「私、閃いちゃった! ユニットやろう!」って。確か下北で担担麺食いながら話した記憶がある(笑)。閃いたからユニット名も“NAKED LAMP”にして。
坂本 “裸電球”ね。ああ、確かに呼び出したかも。自分が言い出しっぺだったこと忘れてた(笑)。当時の私には音楽的パートナーがいなかったので、ボーカリストとしてすごく迷ってたんですよ。電子音楽は好きだけど、その中で自分の声をどう有効に使ったらいいかわからなくて。要は坂本美雨の音楽というものを全然確立できてなかったんです。でも、じゅにあの作る曲には歌いたいなと思えるメロディが確実にあったので、ユニットをやることを閃いたんだと思いますね。
藤戸 そこからはちょこちょことライブをやったり、楽曲を2人で作ったりして。あまり言ってないんですけど、NAKED LAMPとして作った曲が北米のアニメのオープニングに使われたこともあるんですよ。ただ、その直後に僕が病気になってしまったから、活動も止まってしまったんですけど。
坂本 しばらく会ってなかったもんね。
藤戸 そうだね。2011年くらいからは音楽から完全に離れてしまっていたので、音楽をやってる人間と会うことさえも辛かったんですよ。Twitterでフォロー関係のある人の動向が目に入ってくるのも辛いくらいで。美雨ちゃんは猫の島とか行ってるし(笑)。それは微笑ましかったんですけど。
坂本 あははは。会ってない間に、どんどん猫の人になってしまった(笑)。そういう時期を過ごすのはほんとに辛かっただろうなあって思う。焦る気持ちもあっただろうし。
藤戸 うん。まあでも今は復活して、いろんなことが元に戻り始めてる感じだからね。5年くらいブランクはあったけど、また美雨ちゃんにも曲を書きたいし、NAKED LAMPもぜひぜひお願いします(笑)。母親になった美雨ちゃんを想像して、合いそうな歌詞も実はもう浮かんだりしてるから。
坂本 ええ、そうなんだ! もちろん。ぜひぜひ。
5年の時を経て世に出た最新作
藤戸 ところで。ジェッジの新しいアルバム、どうでした?
坂本 聴いたよ。あのね、今の話を聞いて改めて思ったけど、この4~5年の間に、音楽を作りたいっていう欲望とかフラストレーションをものすごく溜めてきたんだなあってことが感じられる作品だと思う。全体的に衝動をすごく感じたから。さらに、(西川)響さんとかね、今回はバンドメンバーにも恵まれて、新しいジェッジの姿が浮かび上がってる感じもある。だからよかったなあって。
藤戸 ありがとうございます。今回のアルバムは復活という意味もあるし、響先生と蓮尾(理之 / ex. school food punishment、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER)くんが入って初めての作品でもあるので、いろんな期待を持ってもらえるものになったと思うんですよ。特に蓮尾くんはschool food punishmentで変態的なセンスを発揮してた人間なんで、ジェッジとしてもとんでもないものができるんじゃないかってみんな想像してると思うし。
坂本 うんうん。
藤戸 で、結果的には、聴く人によっていろんな聴き方はあると思うけど、エレクトロロックとしての1つの代表例になる作品ができたんじゃないかな。今までのジェッジを知ってる人はもちろん、新しい人たちにこそ聴いてもらいたいと思う気持ちがこれまでで一番強いですね。ちなみに「ふたりをつなぐもの」は、美雨ちゃんに歌ってもらおうかなってイメージして作ったんだよ。
坂本 ええ、そうなんだ! すごくいい曲だなって思った。やっぱり反応しちゃうんだね(笑)。あと、「AFTER ALL」とかも好き。
藤戸 エレクトロぶち上げなやつだ。うれしいですね。
──5年ぶりのリリースとなる本作ですが、2010年頃にはほぼ完成していたという噂を耳にしたのですが。
藤戸 実はそうなんですよ。2010年に出したアルバム「SOLID BREAKS UPPER」を作るときにデモが50曲くらいあって、それを曲のタイプでオスメスオスメスみたいな感じで振り分けていったんです。で、それを2枚のアルバムにしたという。
坂本 へえ、そうなんだ。
──なるほど。だから今回の「テクニカルブレイクス・ダウナー」はタイトルも含め、前作と対になる作品になっているわけですね。
藤戸 はい。もっと言うと、今回のアルバムに入っている「ドミニオン」というオルタナな曲は2009年には歌メロまで含めて全部できちゃってましたし。
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- ニューアルバム「テクニカルブレイクス・ダウナー」2015年5月20日発売 / 3024円 / UNITED TRAX/BELLWOOD RECORDS / BZCS-1124 / Amazon.co.jp
- 「テクニカルブレイクス・ダウナー」
収録曲
- the Ruler and Savant
- KRUNK
- アルター・エゴ
- 雨上がりの空の下で
- In Laboratory
- 瓦礫の森
- My Arsenals
- Loaded Ingram
- ドミニオン
- the Ruler has never seen another world
- ソナチネ
- SketchBook
- 忘れる魔法
- ふたりをつなぐもの
- Armillary sphere
- 青の連続
- AFTER ALL
- My Little Steps(Ground Final of BREAKS)
ジェッジジョンソン
藤戸じゅにあ(Vo, G, Programing)を中心に1990年代より活動開始。打ち込みを多用した“エレクトロロック”で注目を集め、2004年にUKプロジェクトよりCDデビューを果たす。同年に発表されたアルバム「DEPTH OF LAYERS UPPER」「DEPTH OF LAYERS DOWNER」はカナダおよびブラジルのカレッジチャートで2位を獲得するなど海外でも好評を受け、2008年にはキングレコード内のロックレーベル・UNITED TRAXからメジャーデビュー。「Discoveries」「12WIRES」「SOLID BREAKS UPPER」と年1作のペースでアルバムをリリースするも、藤戸の病気による長期療養で2011年12月よりしばらく活動が休止された。2014年4月の東京・UNIT公演で正式に活動再開を宣言し、同時に蓮尾理之(Key, Programing / ex. school food punishment、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER)と西川響(B, Programing)が正式メンバーとして加入。現在はギターとドラムのサポートを含めた5人体制で活動している。2015年5月にニューアルバム「テクニカルブレイクス・ダウナー」をリリース。
坂本美雨(サカモトミウ)
女性シンガー。1997年1月に「Ryuichi Sakamoto featuring Sister M」名義でデビューし、1998年から本名での音楽活動を開始する。透明感あふれる歌声が高い支持を集め、1999年発表のシングル「鉄道員」は映画「鉄道員(ぽっぽや)」の主題歌に採用された。2010年からはエレクトロポップ路線のサウンドを追求し、同年5月にアルバム「PHANTOM girl」、2011年5月に「HATSUKOI」を発表。2012年8月のアルバム「I'm yours!」ではKREVAとのコラボレーションでも話題を集めた。2013年6月に15年間のキャリアをたどる初のベストアルバム「miusic ~The best of 1997-2012~」を発表し、2014年3月には蓮沼執太をプロデューサーに迎えたアルバム「Waving Flags」をリリース。2015年3月には蓮沼執太クルーとのコラボレーションによるライブの模様を収めた初の映像作品「LIVE "Waving Flags"」が発売された。また大のネコ好きとしても知られており、2014年12月に上梓された初の著書「ネコの吸い方」は独自の着眼点が話題を集めロングセラーとなっている。2014年3月にブックディレクター兼編集者として活躍する男性と結婚。まもなく第1子が誕生する。