新曲「one reason」は音楽に対するアンサーソング

──そして今のJさんを一番明確に示しているのが新曲の「one reason」ですね。

さっきも言ったように自分はまだ突っ走っている最中なので、今の自分に近い楽曲を入れるべきだと思って。「one reason」が入ったことで、過去、現在、未来がつながるベストになったんじゃないかな。歌詞にもそのまま出てるんだけど、20周年という時間をつないできた音楽に対するアンサーソングなんですよね、この曲は。

──それは同時にオーディエンスとのつながりを表している？

うん。リクエストという形式を取り入れたのも、「俺の20年でもあるし、みんなの20年でもある」と思ったからなんです。ライブに来てくれて、騒いでくれて、アルバムを手にしてくれて。その中でいろいろなドラマがあったと思うし、そういう時間もすべてつないでくれるベストにしたかったんですよね。

──完成したベストアルバムを聴いてみて、Jさん自身はどう感じました？

マスタリング作業のときにずっと聴いてたけど、それもけっこう大変なんだよね。プレイヤーとしての耳もあるし、プロデューサーみたいなスタンスでも聴いてるし、1人のリスナーとしての立場もあるし。いろんな自分が存在していて、なかなか冷静に聴けないんですよ。ちょっと冷静に聴くだけで「こういうふうにしたかった」というポイントも出てくるし。だから喜びと苦痛が一緒になってる感じですかね（笑）。ただ、俺はもともと過去を振り返ることをしないタイプの人間だから、こういう機会に自分がやってきたことや鳴らしてきた音を改めて感じ取れるのはすごく貴重だし、幸せでしたね。

アルバム1枚で終わってもいいと思ってた

──「BURN OUT」「ACROSS THE NIGHT」などを聴くと改めてわかりますが、1stアルバム「PYROMANIA」の時点でソロアーティストとしての軸はしっかり確立されているのも印象的でした。

1stアルバムを作るときに、そのことを強く自分に問いかけていたんですよ。「この曲、この音は、本当にずっと鳴らし続けられるのか？」って。もともと自分が聴いてきた音楽だったり、観てきたバンドやアーティストがいて、自分自身の音楽人生が始まって。いろんな経験や時間を経て、そのうえでソロのアルバムを作り始めたわけじゃないですか。昨日今日の思い付きでやっていたわけでは決してないし、だからこそ、「お前、本当にこれでいいのか？」と何度も何度も自分に問いただして。1stアルバムでどれだけインパクトを残せるかが勝負だと考えていたし、もっと言えば、アルバム1枚で終わってもいいと思ってたんです。

──すごい覚悟ですね、それは。

これは俺の持論なんですけど、本当にすごいロックバンドやアーティストは、1stアルバムの時点でできあがっているものなんですよ。鳴らす必然性がある音だからこそ響くわけだし。そういうバンドが好きだし、自分もそうありたいと常に思っていたんです。「PYROMANIA」は自分のスタートポイントだったわけだけど、20年経っても、その熱はずっと燃え続けてくれていると思います。今は思い付かないようなリフやビートもあるし、「カッコいい」と思える瞬間もあれば、それを今感じて正直「悔しいな」という気持ちになることもあったり。それを含めて、自分は間違ってなかったなと思いますね。

──「この1枚で終わってもいい」というテンションでアルバムを作り上げたあとも、20年にわたって活動が続いていて。“続ける”ということにおいては、また別のモチべーションが必要だったんでしょうか？

うーん、どうなんだろう。こう言うと無責任に聞こえてしまうかもしれないけど、自分としては続けようと思っていたわけではないんです。ただ、その瞬間、その局面に向かって全力でぶつかってきただけというか。そうすると必ず次の扉が見えてきて、そこに向かってまた全力でぶつかって。ずっとそれを繰り返してきた感覚なんです、自分の中では。ただね、同時に「なんの前触れもなく、すべてがなくなる日も来るだろうな」という気持ちもずっとあるんですよ。

──どういうことですか？

先のことは誰にもわからないからね。LUNA SEAを始める前からそうなんですよ。もちろん理想に向かって突っ走ってるんだけど、その横には「明日はないかもしれない。突然、すべてが終わるかもしれない」という気持ちが存在していて。ずっと並走してきた感じがしますね、その2つが。カッコつけて言ってるわけじゃないんだけど、その2つがあったから、ここまで走ってこれたのかなって思うけどね。

──「いつか突然終わるかもしれない」という気持ちを抱えているのって、怖さもありますよね？

うん。でも、もともと「勤続○年」みたいなことができないから、バンドを始めたわけで（笑）。こういうやり方、生き方しかなかったんじゃないかな。

クールだと思うのはゲームメイクをするベーシスト

──自分で歌うというスタイルも最初から決めてたんですか？

そうだね。LUNA SEAから始まって、途中でソロ活動に入ったわけだけど、ほかのボーカリストを迎えようとはまったく思わなかった。むしろ「全部自分でやれたらカッコいいな」と思ってたんです。ドラムもギターもやってみたかったし、もちろん歌も自分で歌おうって。ほかのやり方はまったく思い浮かばなったな。

──バンドのベーシストがソロ活動をする場合、ベースという楽器をメインにするケースが多いと思うんですよ。Jさんの場合はそうじゃないですよね。

あんまり興味がないのかな……というのは冗談だけど（笑）、自分がクールだと感じるベーシストの立ち位置っていうのも、昔から変わってないんです。前に出るのが好きな人もいるし、ずっと後ろにいる人もいるけど、俺はその中間っていうのかな。スポーツでいうとゲームメイクをする感じというか、曲のグルーヴをしっかり作りながら、シンプルでカッコいいフレーズを弾いて、ここぞというときに前に出るっていう。その感じもずっと同じかな。"誰が弾いてもカッコいい"というフレーズが一番カッコいいと思ってるので。

──所有されているベースの本数の多さもすごいですよね。歴代使用ベース60本の展示会（Jのモデルベースを一挙に展示公開する入場無料のイベント「J 20th ANNIVERSARY SPECIAL EXHIBITION -J MUSEUM　W.U.M.F.-」）が開催できるくらいなので。（参照：LUNA SEA・J歴代ベースずらり、聖母マリア前で記念撮影も可）

ライブで投げて壊したやつとか、燃やしちゃったやつも全部展示されてますよ、たぶん（笑）。ベース本体に関しては、そのときに鳴らしたい音、行きたい方向によって少しずつ変わってるんですよね。「もっとこうしたほうがいいかな」というポイントは常にあるし、それによってアップデートされている。ただここ10年弱くらいはほとんど変わってないというか、自分の音がかなり決まってきた感じもありますけどね。