すべてのことは必ず過ぎ去る
──今回のアルバムは、1曲目「追いかけて」がカワイさん作曲、2曲目「春の中へと」が福島さん作曲、3曲目「sissy」が寺口さん作曲と、冒頭3曲にそれぞれが作った曲が配置されていて。まず、このアルバム序盤の構成がいいなと思ったんですよね。
寺口 ……確かに(笑)。
カワイ 言われて気付いたね(笑)。
──しかも3人それぞれのポップな部分、ポジティブな部分が出ている曲がそろっているのがいいなと。アルバム制作に際して、曲はたくさん作られたんですか?
寺口 今までに比べると作りましたね。新しいものに挑戦していく、生まれ変わっていくタイミングなので、曲をいっぱい作ってバンドとしての正解を出そう、という考え方だったんだと思います。今まではけっこうギリギリだったんですよ。10曲入りのアルバムだったら、本当に10曲しか作らない、みたいな感じだったから。
カワイ でも、今回は2曲入らなかった曲があるもんね。その2曲はアルバムの雰囲気的に入らなかったんですけど、それはまた今後出していくと思うし……。
寺口 俺の曲は出さないよ。絶対に出さない!(笑)
カワイ ははは。まあ、出る「かも」しれないです。
──楽しみにしています(笑)。今回、「追いかけて」「痕」「ハイパーイメージ」とカワイさんの作曲の新曲が3曲収録されていますが、アルバムのパワフルな部分を担っている印象がありました。特に「追いかけて」はアルバムの冒頭を飾る曲としても素晴らしいですね。
カワイ 「追いかけて」はオケに自分の好きなバンドの雰囲気を詰め込んだ感じで。ストレートだけど途中でテンポダウンしたりするし、今までのIvyにはなかった新しい雰囲気を出せたなと思います。よりステージとフロアがリンクする空気が生まれるよう、シンガロングできる部分もあるし。
──「予定は未定?」という歌詞から始まるのもいいですよね。「未来は見えないけど、行かなければいけない」という感覚が強くにじんでいる。
カワイ バンドは前に進んでいるし、ということは、自分も前に進んでいくし、進んでいかなきゃいけない。そんな自分を鼓舞する歌でもありますね。別に後ろ向きになっている人を否定しているわけではないけど、後ろ向きな人にも、前を向かなきゃいけないタイミングってあるじゃないですか。そういう人にも向けて作った曲でもあります。
──アルバム中盤、福島さん作の5曲目「All Things Must Pass」、寺口さんと福島さん作の6曲目「WONDER LAND」、カワイさん作の7曲目「痕」という流れからは、音楽的な面でのバンドの新しい表情が見えてきますね。まず、「All Things Must Pass」は歌詞のないインスト曲ですが、どのようなイメージからこのタイトルを付けたんですか?
福島 今回のバンドを取り巻く一連の流れで「すべてのことは必ず過ぎ去る」ということはより強く実感したし、そもそも、この曲はライブのSEを作ろうとして作り始めたんです。ライブって30分とか1時間で終わってしまうもので、だからこそ、俺たちはその瞬間を大事にしようとするし、受け取る側も“過ぎてしまうもの”を受け取ってくれているんだと思って。そういうところから、このタイトルを付けました。あと、これは俺が唯一、ずっと歌いたい、書きたいと思うテーマだから。
──「All Things Must Pass(すべてのことは必ず過ぎ去る)」というのは、福島さんにとって音楽を作るうえでの永遠のテーマと言える?
福島 歌いたいことって、そんなにいくつもないんです。でも、「すべては過ぎ去ってしまうから……どうする?」という、そのことの中に俺が唯一歌いたいことがあるんです。
本当に偶然、Enfants松本大とコラボ
──「WONDER LAND」の編曲にクレジットされている松本大さんは、Enfantsの松本さんですか?
寺口 そうです。この曲の歌入れをしているときに、ふらっと松本くんが遊びに来たんです。「せっかくだからフェイク入れてよ」ってお願いして入れてもらったんですけど、松本くんが「この曲だったら、ゴスペルっぽいコーラス入れたいな」と言ってきて。「面白そうだな」と思って、そこからLINEグループを作って、コーラスワークを考えていきました。本当に思い付きで。
カワイ たまたまだよね(笑)。
寺口 でも俺たち、こういうレコーディングでのコラボってまったくと言っていいほどやってこなかったんですよ。別に「ほかの人とやりたくない」みたいな感じでこだわっていたわけではないんですけど。今回はそういう意味でも新しい挑戦ができましたね。
──ちなみに、4thアルバム「Singin' in the Now」収録の「UNDER LAND」と今回のアルバムに入ってる「WONDER LAND」には、世界観的につながりがあるんですか?
寺口 そうですね、対比構造になっています。「UNDER LAND」は自己嫌悪というか、「地下にいる自分」というイメージで描いていたんですけど、「WONDER LAND」は逆で、幸福な瞬間を描いているんですよね。その周りにどれだけ自己嫌悪や欲望があろうと、「これ以上は何もいらない。これでいい」と思える……そんな瞬間。その瞬間に気付いたとき、そこがワンダーランドになるよねという。
──最初のライブの話にもつながりますが、楽曲制作においても、今の寺口さんは幸福な瞬間を形作りたいという気持ちが強いんですかね。
寺口 それはありますね。喜びや幸せって、素面な人からすると、すごくつまらないことだと思っていたんです。「ああ、楽しかったんだね」で終わっちゃうというか。
──確かに、幸せや喜びの話って、悲劇的な話のようなわかりやすい刺激があるわけじゃないから。
寺口 だからこそ、喜びの表現で人を納得させるのってすごく難しいなと思っていたんです。でも、それは考え過ぎだったのかなと思う。ライブや自分のマインドの変化が影響して、時間をかけてこういう曲が書けるようになったんだと思います。
──「痕」はリズム感が独特なヘヴィロックという感じで、歌詞も脳内世界の自問自答を描いているというか、不思議な感覚がありますね。
カワイ これまでは事実に対して歌詞を書くことが多かったんですけど、「痕」はそこにイメージがプラスされている感じですね。シチュエーションを簡単に言うと、恋愛で悪い相手に引っかかった感じの曲なんですけど(笑)、そういうときって、自分を見失いがちじゃないですか。相手のことを考えすぎて、「本当の自分ってどういう自分なんだろう?」と迷いながら、それでも嘘を張り付けていくことをやめられない。そして、そのまま沈んでいく……そういうイメージの曲ですね。
「行ってきます」「がんばってこいよ」
──アルバム終盤に収録されている寺口さん作の「あのまちこのまち」は、上京をモチーフにした曲ですか?
寺口 そうですね。最近は、ちょっとは慣れてきましたけど、上京してすぐの頃は「ここが居場所だ」と思えずに過ごしていたんです。東京で暮らし始めると、故郷のよさや、そこで会えた人たちのことを思い出したりもするし。群馬から引っ越す前日の夜、それまでは「なんとかなるっしょ」と思っていたけど、いざ空っぽの部屋で寝ようと思ったら、寂しさなのか不安なのか、いろんな感情があふれてきて、柄にもなく幼馴染に「行ってきます」と電話してみたり。茶化されるかと思ったら、しっかりと「がんばってこいよ」って言われたり……「そんなこと言うんだ、こいつ」と思って。あの日のことはたぶん忘れないし、その一連のことを、言葉にしたいし、曲にしたいと思ったんです。自分の中の記録という役割もありますね、この曲は。
──今の寺口さんにとって、東京はどんな街ですか?
寺口 この曲(「あのまちこのまち」)は群馬から出てきてすぐに書いたので、まだちょっと東京にレッテルを貼っている部分もあるんですよね。今は意外と優しい街なんだと思います。でも、がんばらなきゃいけない街ですよね。がんばっていないと意味がないし、逆に言えば、がんばらせてくれる街だし。これは歌詞にも書きましたけど、目をつぶっていたら逆に夢は見ることができないというか。目をしっかり開いていないと見ることができない夢がある。そんな街だなと思う。
「その日が新しいバースデイだよ」
──アルバムの最後を飾る福島さん作の「BIRTHDAY」は、このアルバム全体を通したメッセージを伝えるような大きな存在感を持った1曲ですね。スケールは大きく、でも聴き手の1人ひとりに寄り添うような温かさを持った曲だと思います。
福島 偶然にもアルバムの発売日が俺の誕生日なんですよ(笑)。それで、「じゃあ、タイトルは『BIRTHDAY』にして曲作ろうか」みたいな感じで、この曲は始まっていて。
──そうなんですか(笑)。
寺口 でも、結果的にいいテーマになったよね。
福島 そうだね。自分たちが意識的に変化をしたり、必然的にいろんな要素の中で変化したりしていく中で、心情もシンプルに変わっていった感じがあって。「自分の心持ち次第で、いくらでも変化できるよ。その日が新しいバースデイだよ」って、今の俺たちが出すメッセージとして説得力があると思うんですよね。
寺口 うん。
福島 同時に「変わらなくてもいいんだよ」とも歌っているんだけど(笑)。なんにせよ、今の自分が描くのにふさわしいテーマだった。発売日と誕生日が重なったのは偶然だったけど、必然性があったのかなって勝手に思ったりもして。
──「I MY ME MINE」もそうですが、福島さんが作る曲は聴き手に語りかけるような筆致だなと思いました。
福島 ああ……曲を書いているとき、「誰も傷付けたくないけど、そういう言葉ってあるのかな?」とめっちゃ考えるんですよね。逆に、聴いた人の傷になるような……“傷”というのは、その人の考えを変える傷というか、分岐点を与えることのできる曲を作りたいという気持ちもあって。その両軸で考えるから、そういう感じになるのかな。
──例えば10年後にIvyに出会う人がこのアルバムを手に取ったとしても、バンドの変化の季節を生々しく感じることができると思うし、同時に、その10年後を生きる誰かの人生に対してのヒントにもなり得る、そんなアルバムだと思いました。変わっていく覚悟を持って、そこにある不安にも全身で突っ込んでいくからこそ生み出せた作品なのだと思います。サポートギターのオーディションもされていたし、まだまだIvyは止まらず進んでいきそうですね。
寺口 そうですね。いつかは正式にギタリストを入れたいと思っているんですけど、今回はとりあえずサポートギターオーディションということでやらせてもらって。この1年で、サポートギターを3人の方(仲道良、秋好佑紀、yokodori)にお願いしたんですけど、3人とも素晴らしくて、彼らが俺たちに与えてくれた影響も大きかったんです。こんなに俺たちの可能性を引き出してくれる人がいるのなら、まだまだ新しい人と出会えば、もっと新しい可能性もあるのかなと思うんですよね。それでオーディションをやることになりました。2次審査ではセッションをしたんですけど、こんなに素晴らしい技術や雰囲気を持った人たちが「俺たちのサポートをやりたい」と言ってくれていることがわかっただけでも本当にいい経験でしたね。
カワイ みんな、個性的なギタリストだったね。
──新しい出会いのこの先に生まれる作品も期待しております。今日はありがとうございました。
一同 ありがとうございました。
ライブ情報
Ivy to Fraudulent Game Presents “揺れる”tour
コンセプトワンマンライブ
- 2023年10月2日(月)東京都 shibuya eggman
対バンツアー
- 2023年10月14日(土)山口県 LIVE rise SHUNAN
<出演者>
Ivy to Fraudulent Game / FOMARE - 2023年10月15日(日)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
<出演者>
Ivy to Fraudulent Game / FOMARE - 2023年10月21日(土)群馬県 前橋DYVER
<出演者>
Ivy to Fraudulent Game / ケプラ - 2023年10月22日(日)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
<出演者>
Ivy to Fraudulent Game / bokula. - 2023年10月28日(土)京都府 KYOTO MUSE
<出演者>
Ivy to Fraudulent Game / moondrop - 2023年10月29日(日)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room
<出演者>
Ivy to Fraudulent Game / ammo - 2023年11月3日(金・祝)茨城県 mito LIGHT HOUSE
<出演者>
Ivy to Fraudulent Game / anewhite - 2023年11月4日(土)千葉県 千葉LOOK
<出演者>
Ivy to Fraudulent Game / anewhite
ワンマンツアー
- 2023年11月23日(木・祝)宮城県 enn 2nd
- 2023年11月25日(土)北海道 BESSIE HALL
- 2023年12月2日(土)石川県 vanvanV4
- 2023年12月3日(日)新潟県 CLUB RIVERST
- 2023年12月9日(土)香川県 DIME
- 2024年1月6日(土)広島県 SIX ONE Live STAR
- 2024年1月7日(日)福岡県 INSA
- 2024年1月13日(土)愛知県 ell.FITS ALL
- 2024年1月21日(日)大阪府 BIGCAT
- 2024年1月28日(日)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
プロフィール
Ivy to Fraudulent Game(アイヴィートゥーフロウジュレントゲーム)
2010年10月に群馬県で結成された、寺口宣明(Vo, G)、カワイリョウタロウ(B, Cho)、福島由也(Dr, Cho)からなるロックバンド。バンド名には「Ivy=植物の蔦の意で、生命力が強く、広範囲に伸び成長して行く蔦のように音楽やバンドもなっていけるように。Fraudulent Game=イカサマ的な意で、いい意味で期待を裏切っていきたい」という願いが込められている。2017年12月にビクターエンタテインメント内のレーベル・Getting Betterから1stアルバム「回転する」をリリースし、メジャーデビュー。9月にmurffin discsに移籍し、mini muff recordsとタッグを組んで自身のブランド「from ovum」を立ち上げた。移籍後、第1弾作品となる配信シングル「Day to Day」をfrom ovumよりリリースした。2022年10月にオリジナルメンバー・大島知起(G)が脱退するも、バンドはサポートギタリストを迎えて活動を継続。2023年4月に東京・Zepp DiverCity(TOKYO)で2DAYS公演「春の中へと」を行い、9月に現体制初のアルバム「RE:BIRTH」を発表。10月から全国ツアー「揺れる」を行い、2024年1月に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)でファイナルを迎える。
Ivy to Fraudulent Game (@IvytFG) | X