カバーCDの選曲理由は?
──豪華盤付属のDISC 2に収録されているカバー曲については、ご自身とスタッフの方々で選曲されたということですが、入野さん自身が候補に上げていた曲は、どの曲だったんですか?
僕が真っ先に選んだのは、大江千里さんの「Rain」でした。というのも、僕が声優出演していた映画「言の葉の庭」(2013年5月公開)の主題歌として秦基博さんがこの曲をカバーされていて、そこにつながりというかストーリーもあるので。この曲自体、映画について歌っている曲ではないんですが、潜在的な部分で映画のシーンを思い出したりしながら歌いました。あと、「純愛ラプソディ」もそうですね。ほかにも竹内まりやさんの曲で候補があったんですけど、「関ジャム」を観ていたときに「『純愛ラプソディ』の山下達郎さんのギターのフレーズがいい」という話題が挙がっていて、改めて楽曲を聴いてみたんです。それ以来、ずっと「いい曲だな」と思いながら聴いていて。今回、新しい感じでアレンジしているんですが、実際にまりやさんにも聴いていただけて、「いいじゃない」と言ってくださったそうなので安心しました(笑)。
──選曲されているのは20~30年前くらいの曲が多いですが、最後の6曲目に収録されたAimerさんの「カタオモイ」は比較的最近の曲ですね。
「カタオモイ」は、女性ボーカルの曲が少なかったのと、ほかが80~90年代の曲だったので、新しめの曲も選びたいなということで歌わせていただきました。この曲は押尾コータローさんが編曲、そしてご自身でギターも弾いてくださって。こんな機会を得られたことに、正直驚きました。
──素晴らしいギターですよね。
聴いたらすぐに「押尾さんだ」とわかるギターの音色ですよね。このギターがあることによって、原曲とはまた違ったオリジナリティが出ました。押尾さんとはミックスのときにお会いしたんですけど、「また一緒にやりたいですね」という話ができたので、次につながるカバーになりました。
20年後に誰かが歌ってくれたらいいな
──僕はTHE BLUE HEARTSが大好きなので、「青空」が入っているのがうれしかったですね。
「青空」も、もともと好きな曲だったんです。甲本ヒロトさんのボーカルって、聴いていると心地いいんですが、自分で真似して歌ってみると「なんか違う」感が強くて。ただのカラオケっぽい感じになるのは嫌だし、アレンジも含めてけっこう悩みました。「カタオモイ」は語る感じを意識して歌ったんですけど、「青空」に関しては甲本さんの歌は“伝える”という要素が強いので、あまり“語る”ほうに寄りすぎると原曲に敵わなくなってしまうなと思って。なので、僕は逆に“歌う”ということにフォーカスしていった部分もありますね。
──ちなみに「青空」は1988年発表のアルバム「TRAIN-TRAIN」に収録されている曲で、入野さんが生まれた年に世に出た楽曲なんですよね。それに「Rain」も、そもそもの大江千里さんのバージョンは、1988年発表のアルバム「1234」に収録されている楽曲で。どちらも、入野さんが生まれた年と同じ年に発表されているんですよ。
そうだったんですね! 知りませんでした。でも、こうやって長く聴かれる音楽っていいですよね。普遍的なメロディと詞があって。自分の楽曲も、いつかこんなふうに出会ってくれる人がいたらうれしいですね。今回のミニアルバムの曲も、20年後に20歳になった誰かが歌ってくれたりしたらいいなと思います。
──カバーを通してご自身の歌や声に改めて向き合ったりしましたか?
「自分の声に合うのはこういう楽曲なのかな」とか、考える機会になりました。オリジナル曲は自分が歌えばそれが完成形になりますよね。特に今作に曲を提供してくれた方々は、それぞれシンガーソングライターとして自分で歌う人たちでもあるので、仮歌というヒントがあって、それを真似するところは真似して、逸れるところは逸れるという判断をしていけば自分の歌になる。でも、カバーの場合は完成された音楽と声があるので。それに対してどうアプローチするのかを考えることは、自分の声や歌に向き合うことにもなりました。なので、この先もまたカバーはやってみたいなと思います。選曲するにしても、「好き」だけじゃ選べない何かがあるんだって気付きましたし。
──ご自分の声はどんな声なのか、あえて言語化してみると、どうでしょうか?
そうですね……例えば今回、ウルフルズさんの「あそぼう」をカバーさせていただいたんですが、トータス松本さんみたいな力強い声は、僕には出せない。ああいう声で歌いたいと思っても、どうしてもさわやかに聞こえすぎてしまったりする。こういうことは、歌だけでなく、芝居でも「そのセリフ、そんなにいい声で言わなくていい」と言われたことがあって。「いい声」であることは、強みになる場合もあれば弱みになる場合もある。それはこの数年すごく感じるんです。そもそも「いい」というのがどういうことなのか、僕にはわからない。でも、そういうことを理解して自分の声を使わないといけないなと思います。
──カバーする曲の歌詞の世界観に対してはどのように向き合っているんですか?
そうですね……例えば「純愛ラプソディ」や「カタオモイ」のような、歌詞にストーリーがあるものに関しては、単に歌を歌うというよりも、ストーリーに寄り添いながら歌うような感覚はあったと思います。
──ストーリーというのは、やはり入野さんにとってキーワードというか。先ほどの歌い方の変化と一緒で、入野さんが根本的に舞台やアニメという物語に向き合う活動をされているからこそ、鋭敏に感知できる部分はあるのかもしれないですよね。
確かに自分自身のベースには役者というものがありますから、そういう部分はあるのかもしれないですね。「どうやって歌ったらいいんだろう?」と悩んだときは、ストーリーを想像するというところに、助けがあるのかもしれない。
──先ほども少し話に出ましたが、この先またカバーをするとしたらどんな人の楽曲を歌いたいですか?
僕はスピッツが好きで。小学生の頃に入っていた合唱クラブで全校生徒の前で歌ったのもスピッツさんの曲だったんです。そういうストーリーも含めて、自分の中で特別なアーティストなので、いつか歌ってみたいです。
自分のペースを保ちながら活動していきたい
──入野さんのお話を聞いていると、音楽や舞台などさまざまな活動をされている中で、入野さんは何かを表現しているだけでなく、自分自身を探求しているという側面もあるのかなと思うんです。
それこそカバーだけでなくても、佐伯さんやsoogoood!さんのような、自分と密に関わっているアーティストに曲を書いてもらうことは、特別感があって。自分に自分は見えないので、その人しか知らない自分、自分でも気付いていない自分というものが曲に入ってきたりするんです。そういう人たちにしか書けないものがあるからこそ、頼んでいます。
──今回ミニアルバムを制作していく中で、気付いた自分の思いや有り様というのは、ほかにありましたか?
そうだな……佐伯さんと作った「Just give me the love」は「愛」がテーマにあったんです。コロナ禍になって、人と関わることは以前よりも少なくなったじゃないですか。僕はそれまで舞台やライブでお客さんと関わってきたけど、急にそれがなくなって。愛を感じづらい世の中になっていると思うんですよね。
──ええ。
でも、この間、舞台で名古屋に行ったとき、台風の影響で行くのに5時間半くらいかかって、開演時間も2時間くらい遅れてしまったのにもかかわらず、待っていてくれるお客さんたちがいたんです。僕らが舞台に出ていったら拍手をくれて。それって、愛じゃないですか。舞台に来てくれたり、音楽を聴いたりしてくれる人がいないと僕たちの仕事って成立しない。でも、それは当たり前のことじゃない。それはわかっていたつもりでしたが、コロナになってより強くそれを実感するようになりました。
──先ほど、またカバーをやりたいという話もありましたが、ほかにこの先やりたいことはありますか?
そうだな……毎回、作り終わると枯渇しちゃうんですよね(笑)。また、舞台をやったりして、いろんな人に会って話を聞いていく中で、アイデアの種を自分の中に植え付けて。それが1、2年したらいつの間にかつぼみみたいになって、花を咲かす。そうやって長いスパンでやっている感じがするんですよね、僕の活動は。今は世の中のスピードが速い時代だし、お待たせしてしまうこともあるかもしれないけど、自分のペースを保ちながら、活動していきたいです。
プロフィール
入野自由(イリノミユ)
1988年2月19日生まれの声優、俳優、アーティスト。2001年にアニメ映画「千と千尋の神隠し」でハク役に抜擢され、注目を浴びる。2009年6月に1stミニアルバム「Soleil」でアーティストデビュー。2017年1月にライブツアー「Kiramune Presents 入野自由 Live Tour 2017 "Enter the New World"」を行ったあと、海外留学のため活動を休止する。帰国後、2018年6月に向井太一とコラボレーションしたシングル「FREEDOM」を発表。2019年3月にミニアルバム「Live Your Dream」をリリースし、8月よりライブツアー「入野自由 Live Tour 2019」で過去最多となる全国8都市を回った。2020年11月に3rdフルアルバム「Life is…」をリリース。2021年9月に配信シングル「April」をリリースし、12月にシングル「CHEERS」を発表した。2022年11月にミニアルバム「NO CONCEPT」をリリース。
入野自由 OFFICIAL (@uuu_red) | Instagram