入野自由「NO CONCEPT」インタビュー|気鋭アーティストの提供曲からJ-POPカバーまで“NO CONCEPT”に詰め込んだミニアルバム

入野自由がミニアルバム「NO CONCEPT」を11月9日にリリースした。

アルバムにはSean Oshima、sooogood!、Mega Shinnosuke、きなみうみ、yonkey、佐伯youthKが提供したバラエティ豊かな新曲6曲が収録される。さらに豪華盤にはJ-POPカバー6曲入りのDISC 2が付属。こちらには竹内まりや「純愛ラプソディ」、大江千里「Rain」、THE BLUE HEARTS「青空」、ナイアガラ・トライアングル「A面で恋をして」、Aimer「カタオモイ」、ウルフルズ「あそぼう」のカバー楽曲が収められる。

これまでもさまざまなアーティストとタッグを組み、ジャンルにとらわれず音楽活動を楽しんできた入野。音楽ナタリーでは、そんな入野の姿勢や魅力が詰まった“コンセプトのない”1枚について話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬

「コンセプトのなさ」も僕自身の強み

──新作ミニアルバム「NO CONCEPT」は、タイトルがまず本作の独特のあり方を表しているように思います。

今作に関しては、自分の中にコンセプトが見つからなかったんです。内容については去年末くらいから考え始めていたんですけど、今年は舞台公演が続いていて。特に公演中は、舞台と音楽活動との切り替えがうまくできないんです。それで、舞台のほうに集中してしまったんですが、その中で音楽作品に対しても答えを出さなきゃなということで、とにかく1曲1曲にフォーカスをしながら制作を進めていきました。

──作品の全体像よりもまず、曲に全力で向き合っていったんですね。

そうしていく中で、いつもクリエイティブなところで相談に乗ってくれる、アメリカ人の友達と世間話をしているときに、「作品のタイトルに悩んでいる」という話をしたんです。そうしたら、「じゃあ、『NO CONCEPT』がいいんじゃないか?」という話が出て、「確かにそれでいいよな」と思って。僕は、声の仕事や舞台、音楽活動もしていて、ボーダレスにいろんな活動をしている人間なので。「自分はこういう人間だ」と決めて動いているわけではない。そのコンセプトのなさも、僕自身の強みなのかなと思ったんです。

入野自由「NO CONCEPT」通常盤ジャケット

入野自由「NO CONCEPT」通常盤ジャケット

──入野さんご自身の存在を言い表すタイトルでもあるということですね。今回は6曲入りのCDに加え、初回限定生産の豪華盤には6曲のJ-POPカバー楽曲を収録したディスクが付属するということですが、カバーの選曲はどのように行ったんですか?

自分が歌ってみたいと思った曲やスタッフチームから提案してもらった曲を並べて、そのうえで会議をして選曲していった感じです。そもそも「ずっとカバーをやってみたいよね」という話はしていたんです。

──気鋭のアーティストたちが作詞作曲で参加した楽曲があり、なおかつ、カバー曲もあり、こんなジャンルレスなミニアルバム、ほかにあまりないなと思うんです。入野さんだからこそ作れる音楽作品という感じがします。今ご自身としては、音楽活動を通して世の中にどういったものを出していきたいという思いがありますか?

世間に対してどう見せたいとか、どういうふうに感じてほしい、みたいなことはあまりないかもしれません。自分の音楽活動で大切にしているのは、自分の歌いたい曲や、自分の好きな曲を歌うということ。それがベースにあったうえで、1曲1曲の中で伝えたいことはもちろんありますが。

歌い方は楽曲ごとに緻密に考えていた

──今作の作家陣でSean Oshimaさん、きなみうみさん、yonkeyさんは初参加の方々ですね。

そうですね。今回、ミニアルバムの曲はsooogood!さんやMega shinnosukeさん、佐伯youthKさんといったいつものメンバーに加えて、紹介してもらった年齢層的には若い方たちにも参加していただきました。Seanさんときなみさんはディレクターの方に「こういう方がいるので、聴いてみてください」と紹介してもらって。yonkeyさんはsooogood!さんの紹介でした。彼がプロデュースで関わっている新しい学校のリーダーズの曲も好きで聴いていたんです。

──Seanさん提供のリード曲「Atarimae」やyonkeyさん提供の「ライフダンサー」などは、歌詞の世界感として「日常」というものが前提的なモチーフになっているように感じました。こうした歌詞のテーマに関して、入野さんからの要望はあったんですか?

Seanさんの曲に関していうと、こちらからのオーダーとしては、「日常に潜む嫌なことや鬱屈した気分を弾き飛ばせるような曲がいいです」ということをお伝えしました。それは、僕がSeanさんの曲を聴いて感じたことだったんです。yonkeyさんの曲に関しては歌詞はお任せしました。ただ、yonkeyさんがインスタに上げていた、ゲームの音をサンプリングして作った曲が面白くて。打ち合わせでそういう話をしたので、そこからのアイデアだったんじゃないかと思います。「日常」というモチーフがお気に入りです。

──TENDREさんやPEARL CENTERが参加した前回のシングル「CHEERS」に引き続き、モダンなポップさを感じさせる曲が本作にも並んでいます。入野さんの音楽的な嗜好性もふんだんに反映されている作品なのかなと思いました。

そうですね。例えば佐伯youthKさん提供の「Just give me the love」を作るときには、「Silk Sonicっぽいサウンドに、日本語で伝えたいことを合わせていくのはどうだろう?」というアイデアを話したりしていました。

──前回の取材のときに、「Silk Sonicをよく聴いている」とおっしゃっていましたね。sooogood!さん提供の「Super Candy Funk :)」の情報量の多さとスピード感にも驚きましたが、この曲はどういったアイデアから生まれたんですか?

「Super Candy Funk :)」は僕からのアイデアではないんですけど、sooogood!さんは常に新しいものやほかの人が知らないようなニッチなものを提示してくれる。そのアイデアに僕が賛同していく中でできあがった曲です。この曲はボーカル録りがすごく難しかったですね。どういうふうに歌ったら正解なのかわからなくて(笑)。レコーディングにはsooogood!さんも来てくれていたんですけど、彼の中にある正解を信じて歌いました。あと、Megaさんに提供してもらった「FUN!!!」に関しては、「最近バンドサウンドの曲ってやってなかったな」と思い、青春っぽさやローファイ感が出たらいいなと考えて作っていった感じでした。歌もしっかりきれいに歌うというよりは、「少年感のある感じで歌ってください」というディレクションがMegaさんからありました。なので、歌声も深くなりすぎず、浅いところで歌うことを意識しました。

──曲ごとに歌い方を変化させていくというのは、入野さんが普段、役者としての活動をされているからこそ、柔軟にできる部分もあるのかもしれないですね。

歌い方という面では、今回楽曲ごとに緻密に考えていたかもしれないです。例えばリード曲の「Atarimae」は歌詞がストレートなので、スコーンと突き抜ける感じで歌うのがいいのかなと思っていたんですけど、実は平歌の部分は、歌ってみるとサウンドのわりにおとなしい印象なんですよね。それに、Seanさんから「リズムは後ろに後ろに歌ってほしい。もったりと歌うのがこの曲には合うから」というオーダーもあったので、そういうことを1つ1つ意識しながら歌っていきました。この曲はとにかくリズムが難しかったですね。

休日課長のベースって、軽やかで心地いいんです

──「Just give me the love」のボーカルに関してはどうですか?

この曲も難しかったです。まず、キーを決めるところから難しかった。ちょうどいい真ん中のキーにするよりも、高いなら高い、低いなら低いで振り切ったほうがいいという話をしました。ゴスペル調のコーラスが華やかで素敵です。あと、この曲に関していうと、ベースに休日課長さん(DADARAY、ゲスの極み乙女、ichikoro)が参加してくれていて。

──そうなんですか!

休日課長さんとはもともと知り合いで、「いつか一緒に仕事したいね」という話はしていて。念願が叶いました。なので、佐伯さんが作ったベースラインにプラスアルファ、休日課長らしいフレーズが聴けると思います。彼の軽やかで心地いいベースは必聴です。

──入野さんはさまざまな方と一緒に楽曲制作されていますけど、お話を聞いていると、楽曲を作られる方に身を預けていくような感覚があって、そこのバランスが絶妙だなと思います。

作家さんに頼む場合はもっと僕の意志を伝えないと成立しないと思うんですけど、今回のようにアーティストとしても活動されている方に頼む場合は、その人の言葉や音楽が好きでお願いしているので、体を曲に乗り移すような感覚なんです。なので、あまりこちらがガチガチに決め込むことはしません。過去の曲でも、例えば、Mummy-D(RHYMESTER)さんにお願いした「トップランナー」(2016年発表のアルバム「DARE TO DREAM」収録曲)という曲では自分が思っていることを手紙みたいにして書いてお渡ししたくらいで、あとはもうお任せしたんです。そのほうがお互いのいい部分が出るんじゃないかと僕は思っていて。お互いががんじがらめになってしまうことは、自分の音楽活動においてはしたくないんです。