iriインタビュー|「1曲1曲があまりにもプライベートすぎる」6thアルバム (2/2)

このモヤモヤもいいスパイスになる

──では、少し角度を変えて質問すると、これだけプライベートな感情や情景を生々しく曲に投影できたのはなぜだと思いますか?

自分が処理しきれてなかったこのモヤモヤって、たぶんなんとなく皆さんも体験されてることなのかなって思ったんです。でも、それをポジティブに捉えるにはどうしたらいいかいろいろ考えて……ぶっちゃけて言うと、人とのすれ違いみたいなことがモヤモヤの根源ではあるんですよ。ずっと仲のよかった人と急に会わなくなったり、ずっといいと思っていた考え方の角度が急に変わったりすることがけっこうあって。前作からの時間はそういうことでちょこちょこ悩んでいたんですよね。でも、人生にはそういうすれ違いはよくあることだし、すれ違った人たちといつかまたどこかで会ったときに今のこのモヤモヤもいいスパイスになるよね、みたいな。そういうポジティブなことを思いました、という感じのアルバムだと思うんです。

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──おっしゃる通り、「Season」をはじめ、「Roll」も「STARLIGHT」もすごく目まぐるしく変化していく状況に混乱しているんだけど、やっぱりほんの少し先で、「Season」では「どうやらそれほど 悪くないこの世界は」と歌っていて。「Roll」では「音に乗れば 救われていく」とも歌っている。混乱しながらも、何が希望の種になるか理解している人の歌だと思いました。

ありがとうございます。

──そういう言葉を、アップリフティングな「Season」や「STARLIGHT」、ケンモチヒデフミ氏によるジャージークラブのビートがフィーチャーされた「Roll」に乗せているのがすごく印象的で。

自然とそうなっているんだと思います。音に導かれているというか。もし私が弾き語りだけでやっていたら、こういう歌詞は乗せられなかったと思います。アッパーな今っぽいビートやサウンドだからこそ、生々しい歌詞を乗せられたのかなと。

「neon」で不思議なモードに入ってた

──ちょっと話の軌道が変わりますが、iriさんは過去のアルバムを聴くとそのときの自分を思い出しますか?

そうですね、思い出しますね。アルバムで言ったら、「Sparkle」(2020年3月リリースの4thアルバム)のときが一番弾けてました。タイトル通りなんですけど(笑)。

──やっぱりアルバムタイトルがそのときの自分を象徴する部分もかなりありますよね。

そうかもしれないです。「Sparkle」のときはめちゃくちゃ無敵感があったんですよね。あのときの自分は派手だったなあと思うし、すごく華やかだった。その前の「Shade」(2019年3月リリースの3rdアルバム)は寒い時期に作っていたので、だいぶしょんぼりしていたなあとか、いろいろ思い出しますね。

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──前作「neon」はどうですか?(参照:iriインタビュー|羽ばたくときを夢見て。サナギのような今の自分を描いた5thアルバム「neon」

「neon」は今思うと私も笑っちゃうんですけど(笑)、不思議なモードに入っていて。あのときにインタビューで話していたこととか、今改めて読むと恥ずかしいなあとクスッと笑ってしまうところがあります。謎にトガっていたような。ストイックというよりオラついてたのかなと(笑)。

──ほんの1年数カ月前の話だけど、不思議に感じる。

そうですね。先日、別のインタビューで私が「neon」のときに「今はサナギの状態なんです」みたいなことを言っていたとインタビュアーの方に言われました。めっちゃ恥ずかしいんですけど、「確かに言ってたわ」って。

──そのモードから、今作に向かうフェイズに入れた要因はなんだったんですか?

なんですかね……なんだろう?

──ライブの影響はありますか?

あると思います。アルバムをリリースして、ツアーを回って、ツアーが終わって燃え尽きたというか。ツアーを終えた瞬間に自分の中で消化しきったのかなと思います。

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免許を取りたい

──「Sparkle」から「neon」の間でコロナの時代になって、今やっとライブのあり方が戻りつつあるということも大きいかもしれないですね。お客さんの生の声を浴びられる今回のツアー(「iri Hall Tour 2023 "PRIVATE"」)で感じられることは、きっと特別でしょうし。

そう思いますね。この間も大阪でSIRUPくんとのツーマンライブがあったんですけど(2023年3月に開催された「Grooving Night」)、お客さんもかなり声を出していて。コロナの前に戻ったわけではないけど、「うわ、ひさしぶりだな、この感じ」って思いました。SIRUPくんとも「これは感動するね、泣いちゃいそうだね」って話して。だから、5月に始まるホールツアーはどうなっちゃうんだろうって思います。

──ツアーもありますが、制作面ではこの「PRIVATE」というアルバムを経て新たにチャレンジしたいことなどは思い浮かんでますか?

正直、すぐに曲を作りたいという気持ちにはなれてないです。というのも、コロナの影響もあったと思いますけど、やっぱりずっと曲を作り続けていると、アウトプットばかりしていてインプットがあまりにも少なすぎるなと思うんです。どんどん自分の見ている世界が狭まっているという危機感もあって。なるべくそこから抜け出すためにもっとインプットしなきゃいけないなと思いますね。海外にも行きたいし、今まで会ったことのないような人たちにも出会いたいと思うし。あとは、それこそめちゃくちゃプライベートな話ですけど、今、車の免許を取りたくて。

──あ、意外ですね。持ってなかったんだ。

そうなんですよ、実は(笑)。車に乗り出したら歌詞も変わるのかなって思ったり。周りの車好きのミュージシャンの方々から「車の移動時間に考えごとをしたり、いろんな曲を聴いたり、インプットする時間が生まれる」という話をよく聞くので。そういうのもいいなと思います。とにかくもっとワクワクしたいです。今までは友達に遊びに誘われても断ることが多かったんですけど、最近は積極的に外に出るようにしているんですよ。

──30代を目前にしてシンプルにマインドが開けてきてるというか。

そんな気がしてますね。年齢のことはあまり気にせずとは思いつつも、車もそうだし、海外に行くのもそうだし、とにかくアウトプットする前にインプットする時間を増やせる1年にしたい。それが30代になったときにいろいろ生きてくるといいなと思ってます。

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ツアー情報

iri Hall Tour 2023 "PRIVATE"

  • 2023年5月17日(水)神奈川県 神奈川県民ホール
  • 2023年5月18日(木)宮城県 トークネットホール仙台
  • 2023年5月25日(木)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
  • 2023年6月2日(金)福岡県 福岡国際会議場 メインホール
  • 2023年6月6日(火)岡山県 倉敷市芸文館
  • 2023年6月8日(木)大阪府 サンケイホールブリーゼ
  • 2023年6月9日(金)大阪府 サンケイホールブリーゼ
  • 2023年6月16日(金)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 2023年6月18日(日)東京都 TOKYO DOME CITY HALL

プロフィール

iri(イリ)

1994年生まれ、神奈川県出身のシンガーソングライター。メジャーデビュー前から「SUMMER SONIC」に出演したり、ドノヴァン・フランケンレイターの来日公演でオープニングアクトに抜擢されたりと注目を浴びる。2016年8月にアルバム「Groove it」でメジャーデビュー。2021年10月にメジャーデビュー5周年記念ベストアルバム「2016-2020」をリリースした。同月に行われた全国ツアーの模様を収めたライブDVD / Blu-ray「iri 5th Anniversary Live "2016-2021"」と、5thアルバム「neon」を2022年2月に同時発売。2023年5月にニューアルバム「PRIVATE」をリリースした。5月から6月にかけてはホールツアー「iri Hall Tour 2023 "PRIVATE"」を行う。