久保さんは不思議キャラだったんですよ

──山田さんと久保さんはいかがですか？

山田　個人的には、20年で大きく変わったことはあんまりないって感じてるんですよね。僕はずっとレスポールを弾いてたんですけど、最近ストラトに変えたんです。そしたら改めてギターを弾くのが楽しくなって。ギターに対する気持ちとか、うわーってなる感覚って、10代のときから変わらないんだなって思いました。

久保　僕は音楽を作るときに、ずっとやり続ける、修行みたいな作り方をしてたんです。「ずっとやってないとお客さんに失礼だ」って思いもあったし、そうしないと自分にはできないんじゃないかって不安もあったんです。でも、そういう作り方はやめました。今は「絶対にできるときにはできる」って思えるようになったんです。だから音楽が苦しくなくなりました。「時間をかけたからいいものができる」ってのは自分の甘えだと思うし、できるときはできる、それでできなかったらダメって。

上中　その代わり、死ぬほどメシ食うようになったよな。昔、メシそんな食わなかったもん。久保さんが一番変わったのはキャラクター。バンドやる前に出会った頃は不思議キャラだったんですよ。

──え？

上中　大学に入って俊哉から「友達紹介する」って言われて、最初に会ったときの久保さんの挨拶が、牛のポーズして「おはよー」って。「うわ、気持ち悪！」って思いましたよ（笑）。

──それはヤバいですね（笑）。

上中　しかも「雲って甘いのかなー？」とか謎めいたこと言って（笑）。「心に傷を持った女の子しか愛せない」って言ってた奴が、今では「女の子全員好きです！」みたいになってなあ。どこかでバキっと変わった瞬間があったんやね。

久保　いつかは覚えてないけど、あったんでしょうね（笑）。

上中　でも、バキッとなる瞬間があるって、バンドもそうやん？ もともと「カッコよくなりたい」と思ってバンド始めたけど、例えばTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTと並んだときに、そもそもがオレたちとは違うよって話じゃないですか（笑）。

──バンドとして、大きく変化したタイミングはいつでしたか。

上中　オレたちが「これや！」と思ったのは、「応援歌」を作ったとき。人にメッセージを届ける気持ちを教わったんです。「人が受け取ってくれたときってこんな気持ちになるんだ、よっしゃこれからもこのメッセージを届けていこうぜ」って思いましたね。それまでオレらMCで一言もしゃべらなかったんですよ。サングラスかけて、レスポール2台とマーシャル2台で、ミッシェルとブランキー（BLANKEY JET CITY）を足したような曲をやってて。

久保　かと思ったら、Radioheadみたいなのやったりして。

上中　ディレイかけてウォーンって、オレら何やってるんだと（笑）。でも、「応援歌」のときに、これでバキッとバンドが生まれ変わるんやろうなって感じましたね。

──「応援歌」は、イナ戦にとって大きな曲だったと。

上中　そうですね。そのことを気付かせてくれたのはお客さんです。最初は「もともとオレが友達に向けて作った曲やけど、なんでこの人たちは泣くんやろう？」って。そのときに「あれ？ これがミュージシャンとしてのオレらの役目じゃないか？」って思えたんです。それが21歳くらいでしたね。

ズッコケた人生を歩まないと説得力が出ない

──なるほど。そしてイナ戦は、5月20日から初の47都道府県ツアー「20th anniversary! THE イナズマ戦隊 JAPAN TOUR 2017-2018」を行いますね。

上中　47都道府県ツアーを、今のタイミングでできるのがええなと。ありがたく回りたいなと思います。

久保　僕らはこのツアーのゴールを日比谷野音でやりたいと思っているんです。この作品を持って「イナ戦とは何ぞや？」っていうのを全国に伝えに行って、みんなが野音に集まってくれたらいいなと。

──来年の結成21年目に日比谷野音でやりたいという目標ができたのは、どういうきっかけがあったんですか。

上中　オレらの大きな目標は武道館ワンマンなんです。でも野音でカッコいいイナ戦を見せてから武道館に行きたいんですよ。オレらには野音も大きな壁やけど、やっぱり、聖地を踏んでないのに、武道館には行けないですよ。カッコいい先輩みんなやってますから、オレたちも憧れますよ。

──全国ツアーの間に、「20th anniversary! THE イナズマ戦隊 TALK LIVE『What is 日比谷野音？』」という、野音公演について考えるトークツアーがあるのも面白いですね（笑）。

上中　それできるバンドっていうのも楽しいじゃないですか。そうなれたのも、オレらの1つの武器だと思えますね。

──まだまだやって行くぞ感がCDからもツアーからも感じられますね。

上中　そうですよ。もう39歳やけど、まだ39歳やからね。先輩でがんばってるバンドは山ほどおるし。THE COLLECTORSの武道館公演に行きましたけど、ホンマ最高で。あそこまでなるのは難しいけど、やっぱり目指したいじゃないですか。あと、こんなオレらが夏フェスとかにぼんぼん呼んでもらえるのもホントありがたいことだなってつくづく思うんです。だから死ぬ気でやります。

──そういう考えって、以前と変わりましたか。

上中　以前と比べて、1つのライブにもっとちゃんと向き合うようになりましたね。イベントでもフェスでも、「その1個の舞台に出れる状況って、あっという間になくなるよ」っていうのが今はわかるから。だから今は、より一層の準備をして全力でやろうって気持ちに変わりましたね。だってバンドやってなかったら、オレらただのおっさんですからね（笑）。

──経験を積んだことで、自分たちの音楽の説得力が増したのもありますよね。

上中　そうだったらいいですね。やっぱり、ズッコケた人生を歩まないと説得力が出ないですもんね。もともとクズだったオレらを、音楽が人間にしてくれたんで、皆さんに感謝の気持ちを持ってやっていかないといかんなって気持ちが今はとても大きいです。